22,サプライズ
シークレットイベントを予告された大ホールの中央に現れた、ラッパ付きのガラスの鐘。
そして今、真夜中、今日と明日が出会う時になりました。
どこからでしょう、遠くの空から、
ゴオーーーン…… ゴオーーーン…… ゴオーーーン……
と、鐘の音が聞こえてくるようです、と思ったら、
ゴオーーーン
ゴオーーーン
ゴオーーーン
大ホールのガラスの鐘が、はるか上空を渡っていく鐘とそっくりの音で、こちらははっきりと、鳴り響きました。
すると、
お客さんたちみんながびっくりしたことに、なんと、男性のお客さんも女性のお客さんも、若い人も年を取った人も、大人たちはみんな、赤い帽子、赤い服の、サンタクロースに変身しました!
すごいイリュージョンです。
自分たちが変身してしまって、いったいどうなっているのか、とにかくお客さんたちはみんな大喜びしました。
しかし、そのせっかくのイリュージョンの喜びも、この場にそぐわないお邪魔な変身ヒーローたちのせいでいまいち盛り上がり切れません。
ところが。
時刻の上でイブが明けて、子どもたちのクリスマスプレゼントが解禁になりました。
自ら旧ヒーローの変身を解いた子どもたちの腕や腰に、クリスマスプレゼントの変身グッズが現れました。
「「「「「チェーーンジ!」」」」」
子どもたちはテレビでしっかり学習している変身ポーズを取り、大好きな、変身ヒーローに変身しました。
「ザウルスナレッド2世参上!」
「ザウルスナレッド3世参上!」
「ザウルスナレッド4世参上!」
「ザウルスナレッド5世参上!」
「ザウルスナレッド6世参上!」
「ガッチュウ2号見参!」
「ガッチュウ3号見参!」
「ガッチュウ4号見参!」
「ガッチュウ5号見参!」
「ガッチュウ6号見参!」
同じチビッコヒーローが何人も現れて、主役ヒーローに人気が集中するのは仕方ないことで、他の同僚ヒーローたちは肩をすくめて苦笑いしました。
チビッコヒーローたちは得意のファイティングポーズを取って、旧ヒーローたちに対峙しました。
現役ヒーローたちは旧ヒーローたちに問いました。
「どうする? まだやる気か?」
「いや」
現役ヒーローたちはもうすっかり戦う構えを解き、ヤジを飛ばしたお客たちに向き合いました。
「痛かったぜ、あんたらの言葉。……だが、嬉しかった」
マスクに表情はありませんが、それでもみな、晴れ晴れとした顔をしていました。
「オレたちはヒーローだった。それを覚えていてくれただけで、もう十分満足だ」
そしてそれぞれの家の子どもたちに向かって。
「怖い思いをさせてごめんよ。やっぱり、子どもたちのヒーローにはかなわないな」
じゃあな、とヒーローたちにかっこよく指で挨拶すると、スーッと旧ヒーローたちの姿は消え、ボタボタと、床にヒーローの人形たちが転がりました。
「ほおほおほおほおほおー」
伝説のサンタが、胸がハッとして、心がワクワクしてくる、会心の笑い声を上げました。
「ありがとう、ヒーロー諸君。ありがとう、小さなヒーロー諸君。おかげで楽しいクリスマスが帰ってきた。さあ、小さな諸君、もう遅いよ? 安心して帰還してくれたまえ? 明日の朝の枕元を楽しみにな? さあ、ヒーロー諸君、子どもたちのエスコートをよろしく頼むよ?」
子どもたちは大好きなヒーローたちと両手をつないで、肩に手を置かれて、みんなでキラキラ金色に輝くと、スーッといっしょに消えていきました。みんな自分の家へ、眠りの中へ、帰っていったのです。
「おーおー、お粗末な作戦だったなあ?」
壁際で椅子に座らされて、両手に手錠、両脇から作業服の警官サンタにしっかり見張られて、三太郎はのんびり眺めていた事の顛末の感想を述べました。
「だいたいおめえ、純真な良い子を怖がらせて悪い子にしてどうすんだよ? 黒サンタってものを根本から分かってねえなあ?」
三太郎の言いたい放題を背に受けて、三太夫は言い返す言葉もなく悔しそうにモニターを見続けていました。
ようやく三太夫はモニターを見たまま元気のない声で言いました。
「こりゃあいったいなんなんだ? おまえたちは、悪いサンタたちじゃあなかったのか?」
モニターの中ではサンタになった大人たちがお互いを見て楽しそうにはしゃいでいます。みんなを喜ばせただけで、何も悪いことをする気配がありません。三太夫は三太郎を振り返ってききました。
「あれは、サンタの24時の魔法の鐘だな?」
サンタの24時の魔法の鐘とは、北極のサンタの国には高い鐘楼に大きな鐘があって、クリスマスイブの24時に鳴らされると、その魔法の鐘の音が世界中に広がっていって、世界中の大人たちをサンタクロースに変身させる魔法をかけるのです。ただし、そのサンタクロースが見えるのは、サンタクロースを信じる子どもたちだけです。
だから、大人たちが全員サンタクロースに変身して、しかも自分や他人にその姿が見えるなど、24時の魔法の鐘ではふつう起こらない現象なのです。
「いかにも」
三太郎はうなずいて解説してやりました。
「あのガラスの鐘は、ガラスじゃねえ、俺がとっつかまっていたサンタクロース刑務所の特殊な形状記憶氷製さ。さっき上空を魔法の鐘の音が通っていったな? その音を上に付いている金のラッパがキャッチして、その根元に付いている、黒サンタに支給されるスマホを改造した装置で信号を増幅し、ぶら下がっている形状記憶氷製の鐘に伝える。すると、増幅されたピュアな魔法の鐘の音が鳴り響くという寸法だ。この船の中は伝説のサンタのハッピーオーラが充満しているからな、あんまりサンタを信じてるとは言えねえ大人たちも、ああしてサンタクロースに変身しちまったってわけだ」
「ううーむ……」
三太夫は感心してうなりつつ、ききました。
「なるほど、サプライズだわい。で? びっくり喜ばせて、おしまいか?」
三太郎はニヤニヤしてひげの顎をモニターへしゃくりました。
「あのハッピーサンタはとことんまでやらなきゃ気の済まねえ性格らしいなあ? まあ、見てようぜ?」
伝説のサンタは、カランカラーン、と、実に華やかな音のハンドベルを振ってみんなの注目を集めました。
「お集まりのサンタ諸君。これから世界の恵まれない子どもたちのためのチャリティーオークションを開催しますぞお? さあーて、リッチな諸君にどんな品物を提供するか、とっくとご覧あれ」




