20,ヒーロー・心の叫び
「やめてくれ! それを壊さないでくれっ!!」
そのサンタの叫びを聞いたガッチュウはますます悪人っぽく笑い、いよいよ柱を蹴り倒そうとしました。
「やめろよ!」
子どもの声が言いました。
大人たちをかき分けて前に出てきたのは、小三太です。よい子はとっくに寝ている時間ですが、小三太は悪い子ですし、このゴージャスな雰囲気に目はギンギンに開いていましたし、それに現代の小学6年生は平気で紅白歌合戦を最後まで見ています。
小三太は思いっきり不愉快な顔でガッチュウを睨んで言いました。
「やい! せっかくの楽しいクリスマスの邪魔すんなよな、このガキ大将野郎!」
「うむむ、マジでかわいくないガキめ。おまえも痛い目にあわせてやろうか?」
ガッチュウはソードを振り上げました。小三太はじっと睨んで、引っ込もうとしません。ガッチュウも生意気な子どもを睨み付けました。
ガシッと、ザウルスナレッドがガッチュウの肩を掴みました。
「やめようぜ。子どもに武器を振り上げるなんてヒーローのやることじゃ…」
セリフの途中でもう一つのザウルスナレッドの声が叫びました。
≪オレの中身は変身前とは別人のスーツアクターさ!≫
ギクッとレッドは固まりました。それでも、
「ヒーローとして最低限やっちゃいけないことが…」
またもう一つの声が叫びました。
≪地方のデパートイベントに出張する時なんてただのアルバイターだもんねー≫
ああ……
ヒーローに憧れる純真な子どもたちの夢をガラガラと崩れさせる裏事情の暴露に、ついにザウルスナレッドは膝から崩れ落ちました。
「そうだ、オレは、スーツがいっしょなだけで、中身はバラバラの、中身の定まらない優柔不断男なんだ……」
何もそこまでは言ってないのに、アイデンティティーの崩壊に自分からどつぼにはまってしまったようです。特撮ヒーローでデビューしてしまった俳優は色々不安や悩みがあるのでしょう。
そのザウルスナレッドの丸まった背に、ザウルスナブルーがそっと手を置きました。
「君は若いから、まだまだ潰しが利くじゃないか? 俺なんかもう再就職先も難しいし、かじりついてでも続けて行くしかないんだよ」
悟りきったように言うザウルスナブルーは子持ちの中年サラリーマンという設定です。ふつうに最後までセリフが言えたのは、自らどつぼにはまっているからでしょう。
ザウルスナピンクも優しく手を当てて言いました。
「そうよ。わたしなんか危険なスタントの時は中身が男性の時があるんだから! おネエよりはましじゃない?」
あーあ、帰国子女の現役女子大生が、こっちもくったくなく自分からぶっちゃけちゃって、恥ずかしいセリフ責めの拷問ですっかり開き直ってしまったみたいです。
「そうだ」
レッドも立ち上がりました。
「オレたちにはもう、怖い物なんて何も…」
≪ギャラは顔出し俳優の2割以下なんだよなー≫
ああ…
またガクッと沈みかけましたが、
「立て! ザウルスナレッド! それでもオレたちはヒーローだ!」
ソードを下ろしたガッチュウが天を仰いで男泣きしました。慌てたように声がかぶりました。
≪特撮ヒーローなんて俳優キャリアの踏み台にしか思ってねーよ≫
ガッチュウは歯を食いしばって耐えました……案外本音かも……いやいやそんなことはありません! ヒーローになるのは男の子みんなの夢です!
ザウルスナレッドは立ち上がると、天を指さして叫びました。
「目が覚めたぜ! もう悪のサンタ怪人の手先にはならないぜ!」
≪ちびっ子たちより若いママたちに握手を求められる方が数倍嬉しいぜっ! 若いギャルなら最高さ!!≫
力一杯の心の叫びにレッドは恥ずかしそうにうつむき、仲間たちは素知らぬ顔をしました。みんな心当たりがあるのでしょう。
しかし、今やヒーローたちの心は一つでした。
「オレたち
「わたしたちは、正義のヒーロー! どんなに自分が傷つこうと、悪には屈しない!」
警備室で監視カメラのモニターで大ホールの様子を見ていた三太夫は、いまいましそうに口をひん曲げ、
「生意気な若造どもめ」
とつぶやくと、次の司令を出しました。
「先輩ヒーロー軍団、出動! ええい、とにかくサンタをさらって、イベントをぶち壊してしまえっ!」




