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02,新しい黒サンタ

 クリスマスまであと1週間ちょっとという土曜日のことです。

 ここはある街の大きなショッピングモールの中。3階まで吹き抜けになった広場にシルバーの鈴やふさ、ブルーのLED電球で飾られた大きなクリスマスツリーが立っています。となりを上るエスカレーターの手すりから小さな子どもがさわろうと手を伸ばすのをお母さんがあぶないわよと引っ張っています。

 モール内はどこも着飾って楽しそうにした買い物客たちでいっぱいです。

「もうすぐ、メリークリスマス! はい、どうぞ」

 おなじみ赤い衣装のサンタクロースが、子どもたちに赤い長靴の形のポストカードを配っています。

 定形外で50円切手では追加料金を取られてしまいそうなカードの、お手紙を書くところには一番上にくれよんの文字で大きく

「サンタさんへ」

 と印刷されています。サンタさんへお手紙を書く専用のはがきのようで、もらった女の子はうれしそうにお父さんお母さんに見せていますが……、お父さんお母さんは顔を見合わせてちょっと苦笑いを浮かべています。ああ、なるほど、サンタさんへプレゼントのリクエストを書くためのはがきなのです。

 長靴のポストカードを配っているのは、このショッピングモールにお店のあるおもちゃ屋「サンタのおもちゃ屋」のサンタクロースなのです。どうぞお店でプレゼントのおもちゃを買ってくださいね?という宣伝なのです。

 そうしておもに小さな子どもたちにポストカードを配っているサンタクロースですが、コートのポケットに手をつっこんで歩いてきた男の子を見て、さて、どうしたものか、ちょっと考えました。

 小学校の6年生くらいに見えますが、なんと言いますか、どう見てもかわいくないガ……ああ、いやいや、お子さまです。

 サンタクロースは迷いましたが、

「もうすぐ、メリークリスマス! はい、どうぞ」

 と、お店のマニュアル通りにポストカードを男の子にさし出しました。男の子は面倒くさそうに片手をポケットから出して受け取ろうとしましたが、ふと意地悪な顔になって、サンタクロースに言いました。

「なあサンタクロースさん。オレさあ、毎年ちっとも欲しくないプレゼントばっかりもらってるんだけどさあ、ちゃんとオレの欲しい物、調べてくれてるのか?」

「えーと……」

 おもちゃ屋のサンタクロースは困りました。

「ちなみにどんなプレゼントをもらったのかなあ?」

「去年もおととしも文房具だよ。そんな物クリスマスにもらって喜ぶ子どもがいると思うか? なあサンタさん、もっとしっかりしてくれないと困るなあ」

「はあ、それはどうも、すみません」

 ああかわいそうに、お店のサンタクロースはとんだクレーマーにつかまってしまったようです。かわいくない子どものクレーマーはとくいになってサンタクロースに言います。

「オレはさあ、去年もおととしもナンテンドーのスリーデーエスを頼んだんだぜ? それなのにまさかの文房具2連続でさ、しょぼいプレゼントが2年も続いたんだから今年こそはナンテンドーのスリーデーエスで決まりだよな! なあサンタさん、そうだろう?」

 かわいくない6年坊主は、意地悪に無邪気な子どものふりをして、ニコニコ笑ってサンタクロースの赤いそでを引っ張りました。そんな顔してもまったくかわいくありません。サンタクロースはすっかり困ってしまって、

『それはきっとご両親の教育方針で……』

 と言いたいところでしょうが、仮にも子どもたちに夢を与えるサンタクロースですから、めったなことは言えません。それにしてもしつこいガ……お子さんにはすっかり困ってしまいました。

「なあなあ、約束だよ? また今年も文房具だったら、サンタクロースは嘘つきのけちん坊だって店の前で大声で宣伝してやるからな?」

 6年坊主が調子にのっていると、その後ろからぬっと黒い大きな影がおおいかぶさるようにあらわれました。


「おやおやお客さん。あなたはずいぶんサンタクロースにご不満のようですねえ? サービスがゆきとどきませんで、これはこれは、たいへん失礼いたしました」

 6年坊主がギョッとふりかえると、黒いコートに黒い帽子をかぶった大男が礼儀正しくふかぶかとおじぎしました。

「だ、だれだ?」

 さしもの悪ガキもちょっとびびりながらききました。黒い大男は下を向いた顔を上げてニッと笑いました。

「わたくし、黒いサンタクロースこと、尾羽黒三太夫(おはぐろさんだゆう)ともうします。お客様のような特別のお子さま専門のサンタクロースでございます。どうぞお見知り置きを」

 尾羽黒三太夫と名乗った男は、たてに長い、白い顔をして、目の下と唇に赤いお化粧をして、歌舞伎役者みたいでした。

 それが、ニタア〜、っと笑った歯が、真っ黒で、

 6年坊主は

「わあああああーーーっっ」

 と大声で叫びました。

「ヘンタイだあーーっ! ヘンタイの人さらいだーーっ! だれか、助けてえーーっ!!」

「こらこら、ガキ。俺はヘンタイではない。黒いサンタクロースだって言ってるだろうが?」

 尾羽黒三太夫は慌てて坊主をなだめましたが……、まあ、この気味の悪い笑顔ではこの悪ガキでなくても叫び声を上げるでしょう。

 子どもの叫び声を聞きつけて、警備員が一目散に駆けつけました。

「警備員さん、この人ヘンタイです! 僕を誘拐しようとしたんです!」

「ええーい、違うと言っておろうに。俺は、その、えーと、なんだ……」

 三太夫は助けを求めるように赤いサンタクロースを見ましたが、赤いサンタクロースは知らんぷりしました。

「とにかく事務所に来ていただいて、事情をお聞きしましょうか」

 三太夫はあっけなく警備員に連れて行かれてしまいました。三太夫がふりかえると、6年坊主が『アッカンベー』とやって、三太夫はおおいに悔しがりました。黒いサンタと悪い子の勝負はあっさりと悪い子の勝利で終わってしまったようです。


 この出来事を多くのお客さんたちがながめていましたが、そのお客さんたちの後ろ、吹き抜けを見下ろす手すりに寄りかかって、やっぱりこの騒動を見ていたおじいさんがいました。

 やせたしわくちゃの顔をしていますが、かっこうはすごく派手です。赤いコートに、赤い毛の帽子、そしてギラギラ光る銀色の三角メガネをかけています。

 赤いじいさん、実はサンタの国の引退した赤サンタ、赤畠三之助(あかはたさんのすけ)はあきれて言いました。

「なんだよ、新人のヤツ、まったく使えねえじゃねえか」

 やれやれと頭をふると、三之助じいさんはニヤリと悪い笑いを浮かべ、やーいやーいと調子にのって浮かれている6年坊主に歩み寄りました。

「おい坊主」

 知らない派手な年寄りに呼びかけられて、6年坊主はうさんくさそうにながめました。

「なに? おじいさん」

「へっへっへっへっへ」

 三之助じいさんは坊主の顔を見て、何を思ってか、ずいぶん愉快そうに笑いました。

「おめえのそのツラ、ちょいと貸してくんねえかなあ?」

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