19,悪のヒーロー軍団襲来
11時30分になって、いったんダンスが休憩になった大ホールに、吹き抜けの天井にも届きそうな何か背の高い、白い布に包まれた四角い柱のような物が中央に運び込まれました。
お客さんたちはいよいよ0時のイベントの準備かと、いったい何が起こるのだろうと、ワクワクしてその時が来るのを待ちました。
その頃、船内あちこちに仕掛けられた小型ドリームマシンがひっそりと目を開け、催眠波を放射しました。船内の人間たちはみんな知らず知らずのうちに夢の世界に引き込まれていきました。
0時まで20分となって、あちこちの会場を回っていた伝説のサンタが大ホールにやってきました。大ホールといえどお客全員が入ったらぎゅうぎゅうになってしまうので、入場は特等と一等と二等のお客さんに限られていました。三等のお客さんだけ仲間はずれでかわいそうですが、ホールの様子はちゃんと大型モニターで中継されているので我慢してもらいましょう。
サンタはやって来ましたが、まだ特別何もしないで、お客さんたちの間を歩き回って挨拶し、お客さんたちはもう期待でソワソワしてしょうがありません。
その大ホールへ、突然ちん入してきた異色の集団がありました。ゴージャスに着飾った高級なお客さんたちとは明らかに毛色の違った、派手な原色のコスチュームで全身を固めた、今放送中のテレビの特撮ヒーローたちです。
お客さんの中にはお父さんお母さんに連れられた高級なお坊ちゃんお嬢ちゃんもいて、彼ら若いお客さんへのサービスかと思われたのですが、変なのは、同じヒーローが何人もいるのです。だいたい10種類のヒーローが、それぞれ5人ずつくらいでしょうか? 同じヒーローが5人もいたら、それはもう4人は確実に偽者で、白けてしまいます。
彼ら総勢50人のヒーローたちは、部屋の外側をぐるりと囲んで、およそ300人ほどのお客さんたちを取り囲み、ヒーローたちを代表してザウルスナンダー5人と号面ライダー鋼冑(イケメンらいだーガッチュウ)がオーケストラピット前の、船長さんなどが立って挨拶する台に並びました。
ガッチュウが声高に通告しました。
「我々は覆面ヒーロー強盗団である!
伝説のサンタは我々が独占させてもらう!
ハッピーなメリークリスマスは我々だけのものだ、
ざまあみろ、ワッハッハッハッハア」
この傍若無人な言いぐさに、彼らの目の前にいた紳士が怒って言いました。
「引っ込みたまえ。なんだこの安っぽい演出は? せっかくの雰囲気が台無しじゃないか? まさかこんなのが特別のサプライズだなんて言うんじゃないだろうな?」
「安っぽいだと? 失礼なジジイめ」
ガッチュウがメカニカルな剣を振り下ろして、バリバリッと雷が紳士にスパークしました。
「うわあっ」
紳士はひっくり返って目を回し、周りから悲鳴が上がりました。
「フッ。峰打ちだ」
ガッチュウが剣を肩にトントンとやって憎々しく言いました。
「分かってもらえたかな? これは余興ではない。我々は本物の悪者だ。この口やかましいジジイみたいな目にあいたくなかったら大人しくしているんだな」
悲鳴もやんでしーんと静まり返りました。さっきまでの楽しさが夢だったみたいです。
覆面ヒーロー強盗団は大ホールに現れた50人だけではありませんでした。
レストランや劇場やカジノの各会場、客室の各階、すべてのお客やスタッフに目が届くように更に100人のザウルスナンダーたちと鋼冑号面ライダーたちがどこからともなく現れて、にらみを利かせていました。
大ホールです。
お客さんたちの中にいた伝説のサンタがザウルスナンダーに腕を取られて演台に連れてこられました。
伝説のサンタも突然の出来事に驚いたようですが、相変わらずにこやかにヒーローたちに語りかけました。
「これこれ君たち。せっかくのクリスマスイブじゃよ? ハッピー&メリーに行こうじゃないか?」
リーダーのガッチュウがカボチャ型マスクの中で悪人っぽく笑いました。号面ライダー鋼冑は中世ヨーロッパの騎士道と何故か野菜をテーマとした斬新なヒーローなのです。毎年毎年新しいヒーローを考えなくてはならないスタッフもたいへんです。
「ああ、大いにクリスマスイブを祝ってもらおうか、オレたちのためだけにな」
フッフッフッフ、と他のヒーローたちも悪人っぽく笑いました。
「さあ、では伝説のサンタよ、我々のスーパークルーザーに参りましょうか」
ガッチュウたちはサンタを連れて出口向かって歩き出し、恐れをなしたお客さんたちは左右に分かれて彼らに道を空けました。
ヒーローたちは意気揚々ビクトリーロードを歩いていきましたが、その前方、ホールの中央にでーんと四角い布の柱が立っています。
「むん? なんだこれは? 邪魔だ」
先頭のガッチュウが蹴り倒そうとすると、伝説のサンタが初めて本当に慌てて声を上げました。
「やっ、やめてくれ! それを壊さないでくれっ!!」




