18,船は出た
伝説のサンタはまだまだ大ハッスルで飛ばしまくってます。
23日月曜祝日は、東京湾にモミジの葉状に張り出した近未来都市、お大葉(おだいば)にあるテレビ局、F3TV(フジサンテレビ)に朝から1時間置きのミニ番組「今日は一日 サンタといっしょにいるともー!!」に夜まで出演。人気女子アナと、今が旬のアイドル始め豪華ゲストと共に、お大葉シティーのお店を回ってクリスマス商品を「公認」して、せっせと宣伝して、クリスマス前最後の休日を盛り上げました。
夜は夜で女子アナたちやセクシー系アイドルたちとおしゃれなお店を渡り歩いて、もうウハウハです。
そして、24日火曜、クリスマスイブ当日です。
連休明けの平日ですが、全国のお店やレストランは最後の頑張りです。せっかく今年のクリスマスは大フィーバーなのですから、めいっぱい頑張って、稼ぐだけ稼がなくてはなりません。
午前10時。
お大葉ポートの大型船船着き場から超豪華客船ホウオウⅢは多くの人とブラスバンドの演奏に見送られて出航しました。
定員800名分のチケットは完売。ランチタイムクルーズは子ども連れが大半で、着飾った良家のお坊ちゃんにお嬢ちゃんが冬晴れの青い空の下、快適な船旅を楽しみました。
東京湾に浮かぶその姿は、本当に巨大なホテルか、お城のようです。
広いレストランとホールも、さすがにすべてのお客さんを一度に収容することはできず、等級ごとに時間制での利用になり、多少、料理やショーの内容が変わりました。
ショーは一等から三等まで、それぞれA級からC級の現役アイドルたちがライブを行い、特等のお客さんには、各部屋に直接アイドルが訪れて目の前で歌って踊ってくれました。
クウデル・サンタもショーに出演しながら、合間には積極的に広い船内をあちこち訪れて、サプライズでお客さんたちを楽しませました。
船はお大葉ポートに帰ってきて、午後2時、ランチタイム4時間のクルーズは無事終了しました。お客さんたちはそれぞれの等級に合わせたおみやげをもらって、サンタさんに見送られて、みんなすごく満足した顔で下船していきました。
次の出航、ナイトタイムクルーズは午後5時出発です。
出航までには3時間ありますが、乗船は4時からなので、2時間でスタッフたちはすべての準備を完璧に済ませなければならず、もうみんな大急ぎ、汗だくで働きました。
時間になり、続々とお客さんたちが集まってきました。かなりの高額にも関わらず夜のチケットもすべて完売。ランチタイムクルーズもそうでしたが、それにも増してみんな素晴らしく上等に着飾り、有名な芸能人やセレブの顔もあちこち見受けられます。
こちらも今日が最後とばかりに空き時間も精力的にお大葉シティーを回れるだけ回って日本のファンたちと交流を楽しんだサンタが、集まった多くの人たちに見送られて乗船し、岸で有名オペラ歌手と弦楽隊によるクリスマスメドレーが演奏されて、見送りと船上のお客たち双方が手を振り合って、合図の汽笛が鳴り、超豪華客船ホウオウⅢは本日2度目のクルーズにゆったりと出発していきました。
ナイトクルーズは夕方5時出航の翌朝5時帰港で、お客たちは船室をホテルに一晩過ごすことになります。朝6時30分からの朝食バイキング付きで、チェックアウトは10時までです。そのためホテル代込みの料金はお高いのですが、その分ランチクルーズに比べて食事もショーも格段にゴージャスに、大人向けの仕様になっています。出演ゲストはお子さまの喜ぶアイドルも一流の人気ソロアイドルで、本格的なミュージカルのスターたちや、急遽来日した海外の超メジャーポップスシンガー、一流バレエ団のプリマドンナ、お客さんたちがホールで楽しむダンスはもちろんフルオーケストラの演奏です。
カジノも特別の許可を得て開かれました。前知事さんと今度おやめになる現知事さんの置きみやげです。乗船しているのは一流芸能人やセレブを初めとする超リッチな人たちがほとんどでしたから、高額チップがじゃんじゃん使われました。ちなみに完売の乗船チケット、一番高い特等から売れ切れたとか。数の少ないプレミアチケットとはいえ、お金もあるところにはたくさんあるものです。
ランチクルーズ同様、サンタは精力的に船内を移動してお客さんたちに挨拶し、クリスマスの華やかなムードを盛り上げました。
夜の東京湾に浮かぶ超豪華客船は、まるでゴールドとダイヤに溢れた宝石箱のようでした。
夢のようなひとときが進行していきます。
お客様の誰もがきっとたいへん満足なさることでしょう、…………何事も起こらなければ。
もちろん三太郎と三之助、小三太も、サンタのお供で乗船していました。
毎夜夜の大人の店を遊び歩くサンタと三太郎に置いてけぼりを食っている小三太も、今夜はとびっきりきらびやかなゴージャスナイトを楽しんでいます。この場にふさわしいように燕尾服を仕立ててもらっていますが、おそらく乗船しているお客の中で小三太が一番の庶民でしょう。彼は一生この夜のことを忘れないに違いありません。
三太郎は一人で船内の見回りをしていました。
何か気になるようです。
通路を歩いていると、ありました、無粋な監視カメラをかわいく飾っているトナカイのぬいぐるみが、トロンとしたその怪しい目は、小型のドリームマシンです。
小型ドリームマシンは船内を飾り立てる金銀のモールに紛れて、至る所に配置されています。
「まともな赤サンタがドリームマシンなんて使いやしねえ。どこの不良サンタの仕業だ?」
携帯に電話がありました。三之助からです。
『おい、三太郎。船内のあちこちにドリームマシンが仕掛けられてるぞ。おまえの仕業か?』
「いや、俺じゃねえ。きっと客やスタッフの中にサンタ警官が変装して紛れてやがるんだ。イベントのどさくさに俺たちを逮捕するつもりだろう。逃げる算段をつけておかねえとなあ」
『船倉のエンジンルームへ向かう通路に怪しい機械があるんだ。ドリームマシンのコントローラーじゃねえかと思うんだが、おまえ調べに来てくれ』
「船倉だと? とっつあん、なんでそんなところにいるんだ?」
『フン、忍び込むに関しちゃおめえに負けねえ。怪しいところを捜して、見つけたのさ』
「そうかい。分かった。じゃあ行くよ。ところで、小三太もいっしょなのか?」
『まさか。べっぴんのお姉さんサンタに預けてあるよ。あいつ、ガキのくせにマセて、顔を真っ赤にしてやがったぜ?』
「ははは。ま、今夜くらい大人気分を楽しんでもよかろう。ではこれから向かう」
『うむ……』
三太郎は賑やかな客室部を後に、静かな船倉へ下りていきました。
音楽は遠くかすかになり、グオングオン、という低く重い機械音だけが足下と壁を振動させて響いています。
エンジンルームへの入り口を見つけましたが、ドアが閉まって、鍵がなければ開きません。
「はて。ここに来る間に怪しい機械なんてなかったがなあ」
小窓から先の通路をのぞいて、開かないドアに諦めて振り返ると、作業服の男が立っていましたが、彼は右手に光線銃を構えて三太郎にピタリと照準を合わせていました。
「脱獄犯 黒岩三太郎。おまえを逮捕する」
「サンタ警察か……」
三太郎はいまいましそうに相手を睨みました。
「はっはっはあ、黒岩三太郎、ずいぶんとあっけなかったな?」
作業服の男性の後ろに背の高い、顔の長い男が現れました。
「誰だ、おまえは?」
「お初にお目にかかる、先輩どの。オレは日本の黒サンタ、尾羽黒三太夫。あんたの後任さ」
三太夫はニッと黒い歯を見せて笑いました。
「ああ、おめえがショッピングモールの警備員に補導されたっていう間抜けな新人か」
「やかましい、犯罪者の極悪人め!」
三太夫は恥ずかしさに顔を赤くしましたが、自分の圧倒的有利な立場を思い出して笑いました。
「さすがの悪たれ黒サンタも、信頼していた仲間の裏切りにはやられたなあ?」
「赤鼻のとっつあんか。大方あのガキを人質に協力させたんだろう。かわいそうなことしやがって。サンタ警察もずいぶん汚ねえ手を使うなあ? 確かに、黒サンタも降参だ」
作業服の男性の後ろから更に2人の作業員が現れて、ガチャリと三太郎の両手に手錠をかけました。
「さあ、観念したらおまえの卑劣な計画を白状しろ」
「なんのことだ?」
「とぼけやがって。0時のシークレットイベントだ。何をやらかす気だ?」
凄む三太夫に三太郎はニッと白い歯を見せて笑いました。
「そいつあ教えられねえなあ、なにしろ、シークレットだから。その時が来てからのお楽しみさ」
「そういう態度は身のためにならねえが、まあいいさ」
三太夫は自信満々でふんぞり返りました。横が細い分三太郎より顔半分背が高いです。
「どういうことになるか、地団駄踏んで見てるがいいさ」
三太郎は警官サンタたちによってどこかへ連行されていきました。
三太夫は腕時計を見て顔を引き締めました。
「さあて、そろそろ始めるか。世界の平和なクリスマスはオレ様にかかっているんだからな」




