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17,ハード・デイズ・ナイト

 伝説のサンタご一行は。

 18日水曜の日中を名古屋のデパート巡りで過ごし、夜は高級レストランを梯子、その後また高級クラブで朝方まで遊びまくり、

 19日木曜は大阪で昼夜一日中食べまくり遊びまくり、

 20日金曜は九州は福岡に上陸して、デパートを中心にクリスマスのプロモートに忙しくし、夜はまたナイトライフをゴージャスに楽しんで、

 全国から、太平洋側の大都市ばっかり回っているじゃないか、と苦情が殺到したので、

 21日土曜は京都で一日、名所旧跡を観光して楽しみました。京都は日本海に面していますから。夜はもちろん舞妓さんとお座敷遊びに興じました。

 22日日曜は東京に舞い戻ってきて、東京駅周辺、秋葉原、浅草を回って、外国人観光客にクールジャパンを宣伝する運動にも積極的に協力しました。全世界共通に歴代最もサンタらしいサンタは大人気です。夜はまたすっかりお気に入りの銀座の超高級クラブで綺麗なお姉さんたち相手に豪遊しつつ、各種偉い人たちと明日あさってのイベントの最終チェックです。こっちはもっぱら三太郎の担当で、クウデル・サンタは陽気に大はしゃぎしているだけですが。


 三之助はそんな伝説のサンタにいろんな意味で呆れ返っていました。

 テレビではクリスマスイブの超豪華クルーズのCMがバンバン流れていますが、それ以外にもサンタ公認の様々なクリスマスプレゼント品、クリスマスのホームパーティー用の食品や食材、パーティーグッズ、ランチ、ディナー向けのホテルやレストランと、何十本も出演したCMがこれまた一日中バンバン流れていました。

 サンタの公認を得た品物、店、サービスはたいてい高級志向の高額品で、サンタフィーバーの中、日本人の金銭感覚はすっかり狂わされてしまった気がします。

 クウデル・サンタと三太郎が銀座の夜遊びに向かって、三之助は小三太とホテルにチェックインして、二人でレストランで夕飯をとりました。最上階の夜景の見渡せる展望レストランで、三太郎の予約したこのホテルもかなりの高級ホテルです。支払いは全部三太郎が受け持っていて、バックによほどのスポンサーが付いているのでしょう。

 ハンバーグをパクつく小三太を眺めて三之助はききました。二人で向かい合って食事している様はおじいちゃんと孫のようです。

「家を出てもう1週間だ。そろそろ父ちゃん母ちゃんが恋しくなったんじゃねえのか?」

 ご家族には、三之助もトナカイドリーム銃を利用して、小三太は親戚の家に遊びに行っていることにしてありますから、その点は問題ないのですが。美味そうに食べている小三太は全然平気な様子で言いました。

「別にー。冬休みになんてなったら、母ちゃんも父ちゃんも、勉強しろ、勉強しろ、って一日中うるさくてしょうがねえもん。あのさあ、オレ、こう見えて教育一家の子どもでさ、頭いいんだぜ?」

「頭がいいのと勉強ができるのは別だが、まあ、おめえは頭が回りそうだなあ」

 三之助はローストビーフをつまみに軽くグラスワインをたしなみながら、まるで本当のお祖父ちゃんのように微笑みました。昼間、クウデル・サンタと三太郎に付き合ってカロリーの高い物を食べまくっているので、夜はもう胸がいっぱいです。ハンバーグをパクついている育ち盛りの小三太も、栄養が良すぎて顔が丸く、子豚みたいになっています。

「でも」

 ナイフとフォークを置いて小三太が不満そうに言いました。

「三太郎父ちゃんはひでえよな。これだけ未成年の児童を連れ回して、自分は夜の楽しい店で遊びまくってるくせによ、オレにはまあだ、ナンテンドー・スリーデーエス、買ってくれてねえんだぜ? 新幹線の移動時間にいくらでも遊ぶ時間があったのによお」

「おめえ、三太郎は好きか?」

「うーん、まあね。うちの父ちゃんよりかはずっと面白れえや。もっとオレと遊んでくれればもっといいのになあー」

「そうか」

 三之助は苦笑しました。

「まあ奴も一応サンタクロースだからな、子どもに好かれなきゃ商売にならねえか。でもなあ、おめえはあいつの真似して悪い大人になんてなっちゃあならねえぞ?」

「サンタクロースの友だちなのにか?」

「うーーむ……」

 三之助も答えに困ってしまいました。

 三之助はこれで三太郎のことも心配していました。三太郎が根っからの悪人でないのは分かっています。一昨年の事件だって、あれがあの年、本当にクリスマスなんて大嫌いになってしまった子どものためにやったことだと分かっています。だから監獄に入れられたのを気の毒に思って逃げ出すのを手伝ってやったのですが…………

 脱獄してからの三太郎の行動は、三之助にもさっぱり分かりませんでした。サンタ世界にも秘密で閉じこめられていた伝説のサンタの双子の弟を助け出して、結果的にそれは良いことだったように思いますが、その伝説の双子のサンタも、こうして朝から朝まで、丸一日中遊び回っているだけで、それもやたらと金を使いまくって豪遊して、30年も氷の牢屋に投獄されていた憂さ晴らしで、溜まりに溜まったエネルギーを爆発させているのかも知れませんが、どうも昔気質の赤サンタの三之助には、このクウデル・サンタの行動も本来のサンタクロースの趣旨から外れているような気がしてならないのでした。

 あれは本当に表に出していい物だったのだろうか?

 と、今さらながらに迷っています。

 それに逃亡者のくせに思いっきり目立っている三太郎も、今は伝説のサンタといっしょでサンタ警察も手が出せないのでしょうが、クリスマスが終わってしまったら、まず間違いなく逮捕されて、再び牢獄行きでしょう。今度はもっと深い牢屋に、もっと長い刑期をプラスされて。

 おれも、まず逃げられないだろうなあ……

 と、三之助も覚悟しています。

 この小三太まで罪を問われることはないでしょうが、親元へ帰されるときには自分たちとの記憶はすべて消去されて、その親戚の家で過ごした嘘の記憶が上書きされてしまうことでしょう。

 そう思うと、この全然かわいくない顔をした坊やを巻き込んでしまったことにも後悔を感じるのでした。

 三太郎の奴め……

 三太郎は本当にサンタクロースみんなに仕返しするためにクウデル・サンタを利用しているのでしょうか? しかしそれも今のところはかえって喜ばれていて、復讐にはなっていません。本当のところ、いったい何を企んでいるのでしょう?


 携帯に電話がかかってきて、相手を見た三之助は、

「電話だ。ついでにトイレに行って来るからゆっくり食ってろ」

 と席を立ちました。


「もしもし」

 三之助は探るように言いました。電話の相手は、サンタの国日本支部の支部長サンタでした。

『赤畠君。いろいろご活躍だね?』

「支部長。皮肉はよしてくださいよ。なんのご用です?」

 三之助は、タイミングを見て大人しく投降しろと、そういう勧めだろうと思っていました。

『うむ。実は君に頼みがある。まず、君たちがいっしょに行動しているサンタクロースのことだが…』

 支部長に、あのクウデル・サンタが本当の伝説のサンタのダークサイドであることを聞かされて、三之助も驚きました。そしてその計画しているであろう、クリスマスとサンタクロースに対する恐ろしい謀略にも。

『君には尾羽黒君をサポートして、黒岩三太郎をスパイしてもらいたい。日本と世界のメリーなクリスマスを守るためだ、協力してくれるね?』

「しかし……」

 三之助はやはり三太郎が本当にそんな恐ろしいことを計画しているのか、信じられない、信じたくない気持ちで、返事に躊躇しました。

 支部長は強い調子で言いました。

『協力してもらえないなら君も黒岩三太郎同様、サンタの国に対する反逆者と見なさねばならない。伝説のダークサンタはサンタの国の、絶対外に知られてはならない秘密だ。その秘密を守るためには、一人の子どもを犠牲にするのも、致し方ない』

「ううむ…………」

 三之助は額にじっとり脂汗を浮かべました。

 支部長サンタは長年の友情に訴えるように言いました。

『しかしもし君が協力してくれるなら、君、及び佐藤幸一君の罪は帳消しにし、君はこのまま名誉の引退、幸一君の口封じも、赤サンタ流に行う。どうかね? こちらの示しうる最高の条件だよ?』

 サトウコウイチというのは小三太の本名です。「赤サンタ流」というのは、要するにサンタさんからのプレゼントで喜ばせて、言うことを聞いてもらうということです。

 三之助は小三太があれだけ欲しがっているナンテンドー・スリーデーエスをもらって喜ぶ顔を想像して、ため息をつきました。

「分かりました。そちらに協力いたしやす」

『分かってくれてありがとう。なあ、三助さんや。三太郎はまだ若い。まだ自分の気持ちを完全にコントロールできないのだ。彼もまた、ダークサイドに落ちてしまったのだよ。わたしとしても残念だよ』

「そうですな。残念です」


 三之助はおしっこをして、テーブルに戻りました。

「遅せえよ」

 デザートのプリンを食べながら文句を言う小三太に、

「年寄りのトイレは長いんだ」

 と、三之助はワインの残りを飲み上げ、言いました。

「おれも赤サンタの端くれだ。もしクリスマスの朝までに三太郎にスリーデーエスを買ってもらえなかったら、おれがプレゼントしてやるよ」

「やったー!! サンキュー、じいちゃん!」

 小三太ははっきり確約をもらってニッコニコです。三之助は渋く笑いました。

「食い終わったら部屋に帰って、歯磨きして寝ろ」

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