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16,秘密指令

 尾羽黒三太夫は作戦が上手く行って満足していました。

 おもちゃ屋でヒーローおもちゃを買った子どもにこっそりおまけの一昔前のヒーロー人形をプレゼントして、その人形の導きで、夜、子どもの夢の世界の通路を通って、他の、捨てられる運命にあった倉庫の在庫品や大きくなってしまった元子どもの押し入れの段ボールの中に眠っていた一昔前の人形たちを、プレゼントを買った子どもの家に侵入させて、現役のヒーローおもちゃたちを征服、命令に絶対服従の子分にします。そして子どもにヒーロー番組の夢を見させて、その中で現役ヒーローたちを悪役にし、一昔前のヒーローたちに正義の大活躍をさせて、子どもをハートキャッチ! 一昔前のヒーローの虜にしてしまいます。

 子どもたちに都合のいい夢を見させるのは毎度お馴染みトナカイのドリームマシン。ただし、一々子どもたちの家に設置するのはたいへんなので、おもちゃ売場で直接子どもたちの頭に「トナカイドリーム銃」で催眠光線を照射し、真夜中、自動的に夢を見るようにしてあります。ご都合主義にどんどん新型秘密道具が出てきます。必要は発明の母です。

 三太夫は鼻歌を歌って大満足。

 ヒーローのおもちゃなんてどうせすぐに飽きる一過性の物なんだから、まだまだ使えるリサイクル品で十分。その分のお金をもっと有意義な、世界の名作児童文学や、子どものためのクラシック音楽入門といった、将来立派な大人になるための良いプレゼントに回せばよろしい。子どものためにもなって、親も無駄な出費を抑えられて助かるし、ろくに遊ばれないまま忘れ去られているおもちゃたちも喜ぶし、一石三鳥だわい。わっはっはっはっはっは。

 いやあー、オレっていいサンタだなあー。

 三太夫はまなじりをゆるめて得意絶頂です。

「黒岩三太郎! おまえの時代はもう終わった!」

 と指さしたのは、テレビの画面。

 CMが流れています。


『超豪華!サンタクロースと行く東京湾周遊クルーズ!

 今、全国にメリークリスマス旋風を巻き起こしている、あのサンタさんと過ごす超豪華客船のクリスマスイブ・スペシャルクルーズ! 超豪華ゲストによるショーと、超豪華一流シェフによるランチ、ディナーの、一生の思い出になるスペシャルな超豪華客船クルーズです。ただ今限定チケット絶賛発売中! 今年を逃したらもうサンタさんには会えないかも知れませんよ? チケットはお早くお買い求めください』


 開催は12月24日火曜。ランチタイム(午前10時出航)とディナータイム(午後5時出航)、それぞれチケット代が出ていますが…………


 ランチタイム

  大人 一等 ¥48,000

     二等 ¥34,000

     三等 ¥22,000

     特等 ¥96,000


  小人 一等 ¥44,000

     二等 ¥32,000

     三等 ¥21,000

     特等 ¥89,000


 ディナータイム(宿泊込み)

  大人 一等 ¥146,000

     二等 ¥134,000

     三等 ¥122,000

     特等 ¥466,000


  小人 一等 ¥135,000

     二等 ¥119,000

     三等 ¥106,000

     特等 ¥438,000


 その金額を見て三太夫の目はU字型になってフルフル震えています。

 画面は青い海を華麗に航行する白亜の巨大ホテルが載ったような超豪華客船から、キラキラ輝く金モールのクリスマスツリーをバックににこやかに手を振るクウデル・サンタの画に切り替わりました。


『ニッポンのみなさん。いっしょに素敵なイブを過ごしましょう。チャオ』


 三太夫はむかっ腹が立ってしようがありません。

「おいこら、おっさん! 伝説のサンタだかなんだか知らねえが、どんだけ高級志向でボリやがるんでえ! 9万6千円に46万6千円だあーあ? ストーンズの東京ドーム公演GC席をはるかに凌駕してやがるじゃねえか!」

 他のサンタたちはこの伝説のサンタの来日に大喜びで盛り上がっているようですが、黒サンタの三太夫にはその伝説のオーラも効果がないようです。

 プリプリ怒っている三太夫の携帯に日本のサンタ支部から電話がかかってきました。

「はいー、こちら尾羽黒。……おっ! し、支部長サンタさん! こ、これはどうも、おはようございますです」

 純粋な日本人の三太夫は電話にぺこぺこお辞儀しました。

「それで本日はどのようなご用件で…………」

 もしや昔のヒーロー反乱作戦にクレームが来たのかとドキドキしながら話を聞くと……

「なっ、なんですってええっ!!??」

 日本のサンタ支部長はあのサンタが本物のクウデル・サンタのダークサイドであることを明かし、三太夫にその計画の阻止を依頼しました。

 折しも、テレビでは再び超豪華クリスマスイブクルーズのCMが流れています……テレビ局が後援なものですから終日バンバン流れまくってます。三太夫はニコニコ顔の偽クウデル・サンタを憎々しげに睨みました。

『計画の裏には黒岩三太郎もいるはずだが、やってくれるかね?』

 支部長の問いかけに三太夫は使命感に燃えて答えました。

「もちろんでさあ。きっと、世界のクリスマスはこの日本の黒サンタ、尾羽黒三太夫が守ってみせやしょう!」

『うむ。よく言ってくれた。我々もサポートするが、よろしく頼むよ』

 今度のCMはロングバージョンで、豪華な船内の様子が映され、サンタの挨拶にもおまけがありました。


『ナイトクルーズでは0時きっかりにスペシャルなサプライズを用意してまーす。お楽しみに。バイバーイ』


 三太夫はニヤッと黒い歯をのぞかせました。

 盛り上げるだけ盛り上げておいて、最後の最後にどんでん返しでぶち壊しにする。

 奴の仕掛けるのは、この、0時きっかりのスペシャルサプライズだな、と。

「見てろ、偽サンタ、黒岩三太郎! おまえたちの野望はこのオレが必ず打ち砕く!」

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