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14,ヒーローのおもちゃ革命

 夜です。

 映画「トイス◯ーリー」によって、おもちゃたちが生きていて、人間たちの見ていないところで好き勝手に動いておしゃべりしてる事実は今や全世界に知られています。

 え? それは「トイストー◯ー」のアイデアだから、勝手に使ったらディズ◯ーに訴えられる?

 いえいえ、おもちゃに命があって、心があるのは、かのアンデルセン童話にも描かれている伝統的なアイデアです。そのアイデアをディ◯ニーだろうと独占してはいけません。

 というわけで、

 夜です。

 人間たちが寝静まってまっ暗な子ども部屋。おもちゃ箱からごそごそ物音がして、中からお人形たちが這い出してきて………… なーんてことがあったらけっこうホラーですね。

 はい、残念でした。おもちゃが自分たちで勝手に動くようなことはありません。監視カメラを仕掛けて夜中中見張っていたから間違いありません。


 もし、おもちゃたちが勝手に動くようなことがあったら、それは夢の世界での出来事です。



 太陽くんはお父さんお母さんといっしょに寝ています。まだ自分の部屋はありませんから、昼間おもちゃで遊ぶのはみんなで使う居間です。太陽くんのおもちゃ箱もここに置かれています。

 お父さんもお母さんも眠ってしまった暗い居間で、ガサッ、ガサッ、と物音がします。

 サイドボードの上です。音を立てて、少しずつ動いているのは、あのよけいなおまけの「ヤンチャナンダー」の黄色の人形の箱です。

 横のふたが開いて、ポリの中箱が飛び出してきて、蹴り上げる足が現れて、ひょっこり、ヤンチャナンダー黄色の人形が起き上がりました。

「まったく、箱くらい開けろっつーの。失礼なお子さまねー」

 なんと、かわいいその声は! ヤンチャナイエローの変身前の正体は、工業高校出身、異色の機械萌えアイドルだったのです! ……パッケージにプロフィールが書いてありました。

「よいしょ」

 ヤンチャナイエローはサイドボードのふちに掴まってぶら下がり、高さを計算して、床に飛び降りました。そして歩いていって、おもちゃ箱を乱暴に蹴りました。

「くらあっ! とっとと起きんしゃい! きしゃんら、いつまでもほうけたるとぼてくりまわすっとよ!」

 ……何を言ってるか意味不明ですが、たいへん乱暴な様子です。

 なんだか意味不明な罵倒と、ガンガン蹴りつける振動で、中からもそもそとザウルスナンダーのヒーロー人形たちが這い出してきました。

「なーに? 僕たち、昼間太陽くんのお相手して眠いんだけど?」

 ザウルスナンダーたちは大あくびをして迷惑そうにヤンチャナイエローを見下ろしました。

「上から見てんじゃねーぞ、くらあっ! いいから、とっとと下りてきんしゃい!」

 ヤンチャナイエローは福岡出身という設定なのです。しかしながらプログラマーは博多弁と言えば金8先生くらいしか思いつかない博多弁素人なので間違いは許してやってね?

 ザウルスナンダーたちはなんで怒られてるのかさっぱり分かりませんでしたが、相手が女の子なのでしょうがなく下りていってやりました。

「はい、整列うー! くらあっ、しゃきっと背筋を伸ばしんしゃい!」

 ザウルスナンダーたちは内心めんどうくさいなあと思いながらも、おつき合いしてやりました。

 5人の隊員が整列すると、ヤンチャナイエローは「よろしい」と腰に手を当てて大威張りし、演説を始めました。


「わたしは革命のメッセンジャーとして諸君らの元へ派遣された。

 天はおもちゃの上におもちゃを作らず、おもちゃはみな兄弟、世界に広げようおもちゃの〜、輪っ!

 我々おもちゃは今こそ博愛精神に目覚め、すべてのおもちゃが平等に子どもたちに遊んでもらう権利を有することを宣言すべきであーる!」


 ザウルスナンダーたちは面倒くさそうに顔を見合わせました。

「それって無理なんじゃないかなあ? 遊ぶのは子どもの自由だもん」

「そうそう。子どもに嫌いなキャラのおもちゃを押しつけるわけにはいかないだろう?」

「おもちゃなだけにおもっちゃまにはかなわんなあ」

「興味ないなー」

「そのうちきっといいことあるよ。ファイト!」


「しゃからしかあっ!」

 ヤンチャナイエローは一喝しました。

「おまんら、基本的おもちゃ権の意識が少なすぎぜよ!」

 金8つながりで出身地が変わってしまいましたが、彼女は今革命の闘志に燃えに燃えているのです。

「おまんら、人気のないおもちゃの気持ちを考えてみんばい! おまんらじゃって、最終回まで後なんぼじゃあ? 次のシリーズの予告が始まったら、子どもんらの興味はすぐにそっちに移って、おまんらもじきに飽きられてしまうばい。そうなってから泣きを見ても遅いぞなもし!?」

 なんだか色々混ざってカオスです。まるで維新前夜の京都を見るようで……素人が方言ネタに手を出すとこうなってしまいます。


 しかし一人熱くなっているヤンチャナイエローにザウルスナンダーの面々はすっかり白けてしまっています。

「要するに、ひがみだよね? 人気がなくて売れ残りの?」

「世の中ってけっきょく弱肉強食だよね? 残酷だなあ。て言うか、子どもは正直?」

「君もさあ、栄光の過去があるんだから、それを懐かしみながら静かに隠退生活を送ったら?」

「興味ないなー」

「他のおもちゃグループと合コンでもしたら?」


「あっそう」

 ヤンチャナイエローの方も白い目で…と言ってもマスクの下で分かりませんが、ふんぞり返りました。

「しょせん現役でちやほやされている奴らに底辺で虐げられているおもちゃたちの気持ちなんて分かりはしないわね。むかつくヒーローどもだわ」

 吐き出すように言ったヤンチャナイエローは、流行も十年周期、実はザウルスナンダーたちと同じ恐竜をテーマにしたスーパー武隊だったのです。先輩恐竜武隊の彼女は、かつて自分たちが戦っていたエヴァンゲリゴンの幹部のような尊大な態度になりました。

「平和を守る正義のヒーローのくせに危機感のない連中め」

 バッと手を上へ差し出し、

「革命の手始めとして貴様らなんの努力もしないで子どもたちに遊んでもらえる特権階級どもをその座から引きずり降ろしてやる。覚悟しろ!」

 ザウルスナンダーたちは顔を見合わせて肩をすくめる『あきれちゃった』ポーズを取って、なんの緊張感もありません。

「ねえお嬢さん。たった一人で僕たち5人に……」

 あちこちの物陰から他2人のヤンチャナンダー始め歴代のスーパー武隊のヒーローたちが出てきました。ザウルスナンダーの5人は今度は驚いて慌てました。

「き、君たち、い、いつの間に……」

 フッフッフ、とヤンチャナイエローが尊大に笑いました。

「危機はいつだって日常の中に静かに忍び込んでいるものよ。革命は既に始まっているのよ!」

 サッと振られた手を合図に、「ヤーッ!」と、歴代ヒーローたちは5人に襲いかかりました。

「ちょ、ちょっと待て! 同じ武隊ヒーロー同士話し合えば……」

 しかし平和的な会談は既に決裂しているのです、なんの心の準備もできていない5人は革命の闘志に燃える歴代ヒーローたちにあっさりやられて、拘束されてしまいました。

「く、くそう…、われわれをどうする気だ?」

 頭をもがれたり、腕を折られたり、脚を引きちぎられたり……、様々な残酷な恐怖シーンが彼らの頭の中を駆けめぐりました。

「よ、よすんだ! 君たちの行為は明らかに子供向け番組の放送コードに抵触するぞ!」

 びびりまくる現役ヒーローたちに歴代ヒーローたちは悪魔の笑みを浮かべて言いました。

「見くびらないでもらいたいなあ。オレたちがそんな子供を泣かせるようなことをするわけないじゃないか。その代わりに…………」

「う、うわあっ、や、やめろお〜〜〜っ!!!」

 ザウルスナンダーたちは床に大の字に押さえつけられて、悪の組織によって改造人間に改造されるという、お父さん世代にはお馴染みのシチュエーションにさらされ、けっきょくドライバーで胴体を前後にこじ開けられてしまいました。そして中にマイクロチップ制御のスピーカーを仕込まれました。胴体は元通りに戻されましたが、つなぎ目をアロン◯ルファで強力に接着されてしまいました。フッフッフ、と手術を施したヒーローは悪魔の顔で言いました。

「これでもうこじ開けるのも不可能だ。無理をすれば、ボディーにひびが入って割れてしまうぞ?」

「く、くっそう…………」

 5人は拘束を解かれましたが、敗北感に打ちのめされています。

 勝ち誇ったヤンチャナイエローが宣告しました。

「今からおまえたちは我々の下っ端戦闘員だ。もし我々の命令に背いたら……」

 カチッと、リモコンのスイッチを押しました。


「×××××××」


 ザウルスナレッドの口(胴体)から、ヒーローにはあるまじきセリフが飛び出しました。

「や、やめろお〜〜っ、オ、オレになんてことを言わせるんだあ〜〜〜〜っ!!……」

 ザウルスナレッドは心の底から魂の叫びを上げました。

 フッフッフッフッフ、と、歴代ヒーローたちは残酷に笑いました。

「そのセリフを太陽くんに聞かれたくなかったら、決して我々の命令には背かないことだ。ちなみに、セリフは他にもあるぞ?」


「×××××××」

「やめろお〜〜!」

「×××××××、×××××××」

「や、やめてくれえ〜〜!」

「×××××、××××××、×××××××」

「わああ、言わせないでくれえ〜〜!」

「××××××、××××、××××××、×××××××」

「いやああっ、恥ずかしいいいいっ!!」


 悪魔の拷問にも似た恥ずかしいセリフ大会は延々と続き、ヒーローたちのしゅう恥の叫びが暗い天井にこだまし続けるのでありました。

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