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12,心優しき?黒サンタ

 黒岩三太郎の後任であるところの日本の新人黒サンタ尾羽黒三太夫(おはぐろさんだゆう)は、しょっぱなでしくじってカッカしていました。

 失敗だけでも腹が立つのに、前任者の極悪黒サンタの黒岩三太郎が、サンタクロース刑務所を脱獄して、何故か伝説のサンタのマネージャーのような顔している。

 たいへん面白くない。

 こうなったら自分もうんと面白いことをして奴ら(あの憎ったらしいガキと、自分の指導係を勝手にやめてしまった赤畠三之助も得意そうにいっしょの画面に映っていた)を見返してやらねばならぬ。

 しかし、なかなかこれはという悪い子は見つからない。黒サンタが訪れる悪い子は単なる悪い子ではないのだ。「サンタクロースなんているわけないじゃん!」とかわいくないことを言いながら、本当は「でも、本当にいたらいいなあ」とちょっぴり信じているような、ツンデレタイプの悪い子が理想なのだ。

 しかし今年目を付けた悪い子たちは、去年黒サンタの活動がなかったせいか、すっかり、「サンタクロース? そんなもん信じてんの? しょーもな」という、性根まで冷め切ったてんでかわいげのない子どもたちばかりなのだった。

 三太夫はやはり最初のつまずきがトラウマになってか、ちょっぴりナーヴァスになっていました。

 俺って、この仕事、向いてないのかなあ…………

 と。

 まあ、顔はどう見ても普通のサンタはできませんが、心はけっこう傷つきやすい乙女チックな所があるようです。


 ところで、人間の世界で活動している間、サンタクロースたちも普通の人間の生活をしています。

 朝目覚めた三太夫は、ああ今日はゴミ出しの日だったなあと思い出し、ちゃんと分別した、市の指定ゴミ袋に入れた燃えるゴミを持ち出しました。サンタクロースは模範的な正しい一市民でなくてはなりません。それは黒サンタだとていっしょです。

 アパートの外のゴミ集積所に行くと、おや?と目を引かれる物がありました。袋いっぱいに詰まった、2、3年前の特撮ヒーローの人形や変身グッズのおもちゃがゴミとして出されているのでした。ちゃんと燃えるゴミの指定袋に入っているので間違いなくゴミです。

 薄黄色のビニールに顔を張り付かせたヒーロー人形たちを、現在落ち込んでナーヴァスになっている三太夫は哀れな目でながめました。

「あーあ、どうせならフリーマーケットにでも出してやりゃあいいのに…………、売れやしねえか、放送の終わっちまったヒーロー物のおもちゃなんて。これが昭和レトロの懐かしのヒーロー物だったりすりゃあ、昔の特撮小僧の、今はオタクなマニアの大人が、うん万円、うん十万円で買ってくれるのになあ」

 考えてみれば1年限定の流行のテレビヒーロー物のおもちゃは、放送が終わってしまえば子どもたちの興味もすっかり冷めて、たちまちリサイクルも利かないただの焼却ゴミになってしまって、一番かわいそうなおもちゃたちかも知れません。

 三太夫は、世界の平和のため、子どもたちを楽しませるため、一時だけ華やかに活躍したヒーローたちの哀れななれの果てに心がジュンと湿りました。

 あーあ、俺も首にならないように頑張らなくちゃなあ…………

 そっと自分のゴミを置き、ため息といっしょにがっくりうなだれて、さて自分の部屋に帰ろうかと思った三太夫は、後ろ髪引かれる思いでもう一度ヒーローのおもちゃたちを見ました。三太夫はロン毛でした。ちょっと昔の江◯洋介に似ています。

 ふと、ひらめくものがありました。

 彼らも何代にも渡る特撮ヒーローシリーズの第25代目とか第32代目とかのヒーローで、興味のない者からすれば「どれもこれも似たりよったりじゃん?」という所でしょうが、いえいえ、彼らだってそれぞれのスタッフが一生懸命知恵を絞って考え出した、彼らならではの特徴があったはずです。マニアに語らせると鬱陶しそうですが。


 そうだ、俺だって、前任者の真似なんてする必要はねえ、


 俺は、俺だけの、俺流で行かせてもらうぜ!


 三太夫は心の中で何か吹っ切れる思いがして、ニヤッと真っ黒な歯を剥きだして笑いました。彼の歯が何故真っ黒なのかは、ぶっちゃけビジュアルインパクトを狙ってなんですが、とりあえず謎にしておきましょう。

 三太夫は辺りを見渡すと、ヒーローたちのゴミ袋を掴み上げ、胸に抱えて背を丸めると、そそくさと自分の部屋へ上がっていきました。

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