表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/27

11,進む陰謀

 名古屋に降り立ったクウデル・サンタは駅に集まったファンたちの大歓迎を受けました。

 昨日のテレビの取材は今朝もニュース番組、続くワイドショー番組で紹介されて、

「わたしたちの町にも来てください!」

 という全国の子どもたち(とお店をやっている大人たち)からのリクエストが局に殺到していたのでした。

 名古屋では「うちにも」「うちにも」という各デパートが協定を結んで、それぞれ時間を決めてサンタさんに来てもらうことになっていました。クウデル・サンタとその一行は5分刻みのタイトなスケジュールで忙しく移動です。

 今日は一日名古屋がサンタでフィーバーしそうです。



 サンタの国の秘密の囚人であったはずのクウデル・サンタがばんばんテレビに出まくっていましたが、クウデル・サンタが秘密の囚人であったことはほとんどのサンタクロースも知らなかったことで、ただ、今は北米支部長を務めているはずの、あの、伝説のサンタクロースが、なんで来日しているのか不思議に思いました。とはいえ、伝説のサンタクロース本人と思い込んでいるほとんどのサンタクロースたちは、こちらも大喜びで大フィーバーです。おもちゃ屋に潜入している本物のサンタたちも大ハッスルで商売に熱が入りました。ネットで動画が公開されて、世界各国のサンタクロースまで、あの、伝説のサンタクロースが!、ということで日本に注目しました。


 今年のクリスマスはニッポンが大フィーバー!


 と、すっかり世界的な認識になってしまいました。

 これには一部事情を知る偉ーいサンタたちは苦り切ることしきりでしたが、なにしろ極秘中の極秘人物のこと、滅多なことは言えません。さあて、どうしたものか? 偉いサンタたちはううむと考え込みました。

 もう一つ偉いサンタたちにとって腹立たしいのは……

 テレビやネット動画のクウデル・サンタの映像には所々、脱獄した黒岩三太郎がいっしょにバッチリ映り込んでいました。ただちにサンタ警察が急行して逮捕したいところですが、三太郎も厚かましくすっかりクウデル・サンタのエージェントのような顔をしているものですから、これもなかなか衆人環視の中で逮捕するわけにもいきません。サンタ本部には映像を見たサンタたちから「黒岩三太郎は恩赦で釈放されたのか?」と問い合わせが来ていて、これにも適当にごまかすしかなく、まったく腹が立つったらありません。


 しかししかし。

 この事態に世界中で一番困って、腹を立てているのが、クウデル・B・サンターズ当人の弁によれば、彼の双子の兄であるクウデル・A・サンターズ、サンタの国北米支部支部長でありました。

 クウデル・サンターズが双子であったのは秘密のことでしたから、弟のBが表で派手に活動しているせいで、彼は支部の建物の秘密の部屋に隠れて、日本に出張しているように装わねばなりませんでした。

 クウデル・A・サンタ北米支部長はサンタの国の最高議員たち、及び日本のサンタ支部支部長に秘密の連絡を取って事態の収拾を要請しました。


 テレビ電話で、クウデル・A・サンタ北米支部長は、顔はそっくり同じでしたが、弟・B・サンタとは対照的な険しい表情で言いました。


『皆さん。この度はわたしの分身がたいへんなご迷惑をお掛けして申し訳ない。

 あれはどうやら自分のことを私の双子の弟だと名乗っておるようですが、それは嘘です。

 もっと邪悪な存在です。

 告白するのはわたしの恥で心苦しいのですが、あれは鏡の中から出てきた、わたしのダークサイドなのです』


 なんと! それはいったい、どういうことでしょう?


『1980年代、人気絶頂だったわたしが早々に引退して北米支部長に就任したのは、奴が現れたためなのです。

 当時人気絶頂だったわたしは多忙を極め、極限までストレスがたまっていました。そのストレスが、鏡に映ったわたしの姿に乗り移り、鏡から飛び出してきたのです。

 あれは非常に危険な奴です。自分の一部だったからよく分かります。

 今はニコニコと愛嬌を振りまいてニッポンでクリスマスを盛り上げていますが、それは奴の罠です。盛り上げるだけ盛り上げた、そのクライマックスに、奴はきっととんでもないことをしでかします。それこそ一昨年の騒ぎどころではない大惨事を引き起こして、ニッポンのクリスマス、いや、世界のクリスマスを台無しにしてしまうでしょう!

 ああ、こんなことになってしまって本当に申し訳ない。

 しかし、どうかお願いです。奴の計画を阻止してください。

 それも、クリスマスを楽しんでいるニッポンの皆さん、世界の皆さんの心を傷つけないよう、秘密のうちに、上手に処理していただきたい。

 難しい注文で申し訳ないが、どうかよろしく頼みます』


 北米支部長は自分のダークサイド=心の闇を恥じ入るように、モニターの中で深々と頭を下げました。

 話を聞いた日本の支部長は提案しました。


「そういうことでしたら、あなたが来日なされて、こっそり偽者と入れ替わってはどうですか? 同時に我々が黒岩三太郎とその一味を捕らえて、本国のサンタ警察に引き渡しましょう」


 いかがですか?という日本支部長に、クウデル・A・サンタは難しい顔で考え込みました。


『そうしたいのは山々ですが、なにしろこのわたしは目立ちすぎる。変装しても、あふれ出るカリスマ・サンタオーラは隠しようがない』


 お分かりでしょう?と、北米支部長は哀れっぽく頭を振りました。

 日本支部長は仕方なくため息混じりにうなずきました。


「致し方ありませんな。分かりました。こちらでなんとかいたしましょう」


『おお! ありがたい! さすが我が一番の同盟支部、恩に着ます』


 喜ぶ北米支部長をよそに、日本支部長は難しい顔で考えました。


「しかし相手はあの元黒サンタの黒岩三太郎、悪巧みにかけてはなかなか奴の上を行くのは難しい。さて、誰を任に当たらせるか…………」


 支部長は現在の日本におけるサンタクロースたちの活動状況を調べ、一人のサンタクロースに目を留めました。


「ふうむ、少し頼りない気もするが、彼にとっては乗り越えなくてはならない宿命の相手だろう。やらせてみるか」


 さて、あの黒岩三太郎と対決するのは、いったい誰なんでしょう?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ