最終話 隣の世界で
あのお別れからどれほどの月日が流れただろうか。
「…」
虚ろな目をしたエリアは、気付けば崩壊したセイクリッドの前に立っていた。
何も考えずに空を見上げ、ただただぼんやりと立っている。
ガササッ
すると、エリアのすぐ後ろの茂みが動いた。
『グルルルル…』
虎の魔物は黄色い目をギラリと輝かせ、目の前にいるまったく自分に気が付いていないエリアに狙いを定める。
『バオオオオオオオ!!』
直後、魔物はエリアに襲いかかった。
「え―…」
その声に、エリアがハッと振り向いた瞬間
「危ない!!」
「きゃ?!」
エリアは後ろから何者かに抱きかかえられて右に跳んだ。
『グルル…』
攻撃を避けられた魔物は、不機嫌そうにそちらに向かって牙を剥く。
「大丈夫?」
エリアを後ろから抱きかかえている茶髪の少年が、油断なく魔物を睨みつけながら彼女に声をかけた。
「…嘘…ソラ?!」
現れた少年―…クリスマスに今生のお別れした少年の突然の登場に目を見開くエリア。
「久しぶりエリア」
そんなエリアの反応に、ソラは優しく笑って応えた。
「ソ―…ってちょっ?!どこ触ってるのよソラ!?」
再会を喜ぼうとした瞬間、ソラの手がある位置に気付き真っ赤になるエリア。
「へ?」
ソラが自分の手を見下ろすと、その手は丁度エリアの胸の位置にあった。
「わ!?ごめんエリア!!全然分かんなかった!!」
慌ててその手を離しながらエリアに謝るソラ。
「…"全然分かんなかった"?」
しかし、最後の一言がまずかった。
「ペリッシュオーシャン!!」
「うわあ!?」
『バオオ?!』
エリアの逆鱗に触れたソラは、魔物と共に彼女の最大魔法の餌食となった。
「ねぇソラ、どうやってこっちに?」
セイクリッドの瓦礫に腰かけたソラの隣に座りながらエリアが尋ねた。
「入り口からだよ」
その質問にさらりと答えるソラ。
「え?」
その答に硬直するエリア。
「だって僕の部屋からこっちに繋がってるでしょ?」
キョトンとしたエリアに微笑みながらソラが言った。
「え…ええ?!じゃあ第九十話の作者が無い頭から必死に捻り出したありがちで…感動的?…な別れは一体?!」
頭を抱えて、今まで自分は何をしてたのかと、なんだか恥ずかしくなるエリア。
「あはは なんだろね〜?でもあの時はみんな入り口の存在忘れてたでしょ?」
そんなエリアを見て微笑み続けるソラ。
「…ソラの馬鹿」
のほほんと微笑み続けているソラに無償に腹が立ったエリアは、ガバッと彼に抱きついた。
「!? エリア?!」
エリアの突然の行動に目を白黒させるソラ。
「…もう会えないかと思ってたんだよ…!?」
エリアは小さく言った。
嬉しさと感動の涙で震えた声で。
「…僕、エリアに伝えたいことがあってこっちに来たんだ」
そんなエリアとは反対に、嬉しそうに微笑みながらソラが口を開いた。
「今までずっと黙っててごめんね」
何かを決心したソラは一息置くと
「大好きだよエリア」
そう言ってエリアを優しく抱き締めた。
「…え?」
突然の告白に真っ赤になるエリア。
「ほ…んと…?」
エリアは信じられない言葉に思わず聞き返した。
「もちろん」
静かに頷くソラ。
「っ!」
その言葉に胸が苦しくなるエリア。
「わ…私も…私もソラが大好き…!!」
苦しくなったその胸に秘めていた、いつも言いたくて言えなかった言葉が、彼女の口からやっと彼の元へと伝わった。
「…ありがとう」
ソラはエリアを離して真っ直ぐ彼女の目を見つめた。
「…ソラ…」
そっと瞳を閉じるエリア。
「…エリア…」
彼女の顔に自分の顔を近付けてゆくソラ。
するとお約束のハプニング
ガララっ!!
「うわあっ!?」
「にゃあ!!」
「いっつうっ?!」
「メルヘン!!」
ソラとエリアの後ろの瓦礫が崩れ、そこから旅の仲間たちが現れた。
「「!?」」
旅の仲間たちの登場に、真っ赤になって離れるソラとエリア。
「よ…よぉソラ…久しぶりだな?」
ヤバイと思いながらも挨拶するシャーン。
「にゃ…にゃはは…相変わらず可愛い顔してるにゃソラソラ♪」
ヤバイと思いながらも挨拶するアミュ。
「ひ…久しぶりソラ兄☆」
ヤバイと思いながらも挨拶するルゥ。
「今晩のおかずは何にしようかしら?」
ヤバイと思ってない上に挨拶もしないジャンヌ。
「久しぶりみんな」
顔色が普段通りの肌色に戻ったソラは、旅の仲間の方に向き直ると
「覗きは良くないと思うよ?」
にっこりと素敵な笑顔を彼らに見せた。
((その笑顔久しぶり!!))
三人のヤバイ予感が的中した。
「バーンバニッシュバーンバニッシュバーンバニッシュバーンバニッシュバーンバニッシュバーンバニッシュバーンバニッシュバーンバニッシュバーンバニッシュバーンバニッシュ!!」
「さ…最大魔法十連発…ブランクが感じられねぇ…」
久しぶりにソラのきつい攻撃を受けたシャーンが呟いた。
「それにしても、いつの間にドンカーン大学を卒業したのソラ兄?」
ニヤニヤと笑いながらルゥが言った。
「本当にゃ〜あたしがチューしても微動だにしなかったのに〜」
ぷーっと膨れながらアミュも続く。
「ドンカーン大学?」
どこの大学だろうと小首を傾げるソラ。
「何言ってんのよ?モヤシは最初から大根のことが好きだったじゃない?」
そんなソラに代わってジャンヌが応えた。
((なっなにぃ?!!!))
その事実よりも、ジャンヌが他人の恋愛感情に鋭かった事に対して驚くエリアとルゥとアミュとシャーン。
「でもって、モヤシは大根に嫌われてると思ってたのよね?」
そんな四人を見て、肩をすくめながらジャンヌが言った。
「え…えええ!?どうして!?」
そんな事は初耳だという風にエリアが尋ねると
「近付くと毎回あんたに悲鳴あげられたからよ」
さらりと答えるジャンヌ。
「…へ?!」
瞬時に今までの旅を思い返すエリア。
確かにしょっちゅう叫んでいた。
「いやいや悲鳴って…好きか嫌いかなんて態度で分かるだろソラ兄?」
驚いたようにルゥが尋ねると
「さっぱり」
小首を傾げるソラ。
((やっぱ永遠のドンカーン大学生だなコイツ))
それを聞いてがっくりと肩を落とす五人。
「で、その事をジャンヌが僕のところに来て鼻フックで教えてくれたんだ」
傾げた首を戻しながらソラが言った。
((なっなにぃ?!!!))
バッとジャンヌの方を向く四人。
「ゲヘヘ♪あの角度は絶妙だったわね!!」
その時の鼻フックを再現するかのように右手の人指し指と中指を曲げながら笑うジャンヌ。
((こっコイツが恋のキューピッド的な役割を?!!))
そんなジャンヌだからこそ衝撃を受ける四人。
「いや〜ビックリしたな〜授業中いきなりだったもんね?」
思い出し笑いをしながらソラが続ける。
((授業中に鼻フック?!ってか学校に乗り込んだのかコイツ!?))
更に衝撃を受ける四人。
「ゲヘヘ♪凄いモテモテだったわよねウチ!!」
腰に手を当てながらジャンヌが言った。
「なっなにっ?!」
その言葉に敏感に反応するシャーン。
「あはは そうだね。写メいっぱい撮られてたもんね?」
のほほんと笑い続けるソラ。
「"しゃめ"?大丈夫だったかジャンヌ!?誰かに変なことされたのか?!」
携帯電話が存在しないこちらの世界には写メを撮られる意味は通じないようで。
「あはは むしろ変なことしてたよねジャンヌ?」
本気でジャンヌを心配しているシャーンをよそに、ソラが笑いながら言った。
「モヤシのクラスメイト全員メルヘン頭にしてやったわ!!」
誇らしげに胸を張りながらジャンヌが言った。
((なんかよく分からんけど最悪だー!!))
とか思う四人。
「でもそのおかげであの後家は大繁盛だったよジャンヌ♪」
にっこりと笑うソラ。
((こんの守銭奴がー!!))
とか思う四人。
「あ!ねぇ!シャーンとジャンヌはどっちから告白したの!?」
すると、思い出したようにシャーンに顔を向けたエリアが突然尋ねた。
「なっ何いきなり変なこと聞いてんだよエリア?!」
突然の質問に顔を真っ赤にするシャーン。
「にゃ〜照れてるにゃ〜」
ニヤリと笑うアミュ。
「わ〜ホントだ〜」
ニヤリと笑うルゥ。
「「気〜色悪〜い」」
そして二人で声を合わせて言った。
「失礼だなお前ら?!」
透かさず突っ込みを入れるシャーン。
「落ち着いてシャーン?」
優しく微笑みながらシャーンをなだめるソラ。
「そ…ソラ…!!」
(そうだよ!!今日の俺にはちゃんと味方が―…)
シャーンが感動していると
「で、どっち?」
にこっと笑ってソラが尋ねた。
(いなかった!!)
悲しいかな、四面楚歌だったシャーン。
「シャーンよ」
その質問に、ジャンヌがさらりと答えた。
「「!!」」
あまりにさらりとしていたので梅酒な気分になる四人。
「何発表してんだお前?!ってか"梅酒な気分"ってどんなだ!?」
シャーンが一通り突っ込み終えると
「ゲヘヘ♪とても情熱的に告白されたわ!!」
両頬に手を当てながらジャンヌが言った。
「へ〜?」
ニヤリと笑うルゥ。
「にゃ〜?」
ニヤリと笑うアミュ。
「「気〜色悪〜い」」
そして二人で声を合わせて言った。
「失礼極まり無いなお前ら?!」
透かさず突っ込みを入れるシャーン。
「あ!もうお別れの時間だ!!」
すると、気が付いたようにソラが言った。
「「ええ?!ものっそい中途半端だな!?」」
最後まで息の合った旅の仲間たちでした。
終りに…
ジャンヌ=ダルク
意味不明で一番動かしやすかった可愛いキャラ。
「ゲヘヘ♪アイムメルヘン!!ソー、アイムウィナー!!」
シャーン=ブライト
作者の気まぐれで復活した奇跡の短足キャラ。ちなみに名前はシャープペンシルから由来する。
「聞きたくない!最後にそんな話聞きたくない!!」
アミュレリス=ヴァレンタイン(アミュ)
途中からシャーンより目立たなくなった、なんだか泣けてくる猫耳キャラ。
「に゛ゃー!!黙れにゃー!!萌えキャラ万歳!!」
ルクレツィア=シャイアルク(ルゥ)
作者お気に入りチビッコキャラ。作者の別の作品にも国王としてちろっと登場。
「いひひ♪なんや知らんけど愛されてんなオレ♪」
エリア=フラント
最後の最後でドリームがカムトゥルーしたぺったんこヒロイン。ソラくんと末永くお幸せに☆
「本当にありがとう♪でも後で面貸せ作者?」
桐崎 空
ヘタレキャラのハズがいつの間にか魔王キャラになっていた主人公。連載は計画的に!
「ダメ作者のダメ作品のご愛読、本当にありがとうございました!!」
なにおう?!
「「ありがとうございました!!」」
では〆台詞。さんはいっ
「「ユーアーメルヘン!!」」
はい。
最後まで読んでくれた貴方はメルヘンです。
-完-
今度こそ本当の本当に最終話です(汗)苦肉のハッピーエンドです。ちょろちょろと貧○ょうのように外伝を更新して申し訳ございませんでした。最後にご愛読、本当に本当にありがとうございました!!By.めろん