第81話 薔薇とメルヘン
「フレイムアタック!!」
「ウッドパイソン!!」
炎と樹木がトリを襲う。
「…バーンバニッシュ」
トリが言った。トリの声は何故か反響して聞こえる。
バアァァァァァァァアン
魔法と魔法がぶつかり合い、激しい爆発が起こる。
「…」
トリが辺りを見回した。
ソラとジャンヌの姿はなかった。
「ゲヘヘ!!」
「!」
特徴のある笑い声に素早く振り向くトリ。しかし、遅かった。
ベシーン
薔薇の鞭がトリを襲う。
バシーン
ビシーン
バシーン
ベシーン
ビシーン
バシーン
バシーン
「ゲヘヘ!死ネマコンプレックス☆」
ジャンヌお得意の連続攻撃がきまる。
「…」
起き上がるトリ。
「フレイムアタック!!」
「!」
背後からのソラの魔法もきまった。トリが吹っ飛ぶ。
「い薔薇き剣!!」
薔薇の鞭が巻き付いたソラの剣でトリを追撃するジャンヌ。
「ちょっとした問題発言だよ!?」
「ゲヘヘ!この剣なかなかやるわね!!」
「お気に入り!?」
ソラが突っ込んでいると
「…バーンバニッシュ」
「「!」」
トリの最大魔法が二人を襲う。
「危ないジャンヌ!!」
「っ!!」
ジャンヌを突き飛ばすソラ。そこを巨大な炎の剣が突き刺さる。
ドカァァァァァァァァァン
「モヤシ!!」
ジャンヌが立ち上がった。
「ごほっ…大丈夫だよジャンヌ…」
「よくもウチを突き飛ばしたわね!?」
「え?そっち!?」
ソラが上服についた火を消しながら言った。
「あ」
ジャンヌが言った。
「? 何?」
「そこ、危ないわよモヤシ」
「え?…わ!!」
透かさず右へ跳ぶソラ。
その瞬間トリのメスがソラが居た場所を通過する。
「あ、ありがとジャンヌ」
「プルプルピー!!」
「意味分かんないよ!?」
「…バーンバニッシュ」
「また!?バーンバニッシュ!!」
同じ魔法で迎え撃つソラ。炎の剣が互いに打ち消し合う。
「ジャンヌ!そろそろ剣返してよ!?」
「お気に入りに保存しちゃったわ」
「パソコンんん?!」
「…バーンバニッシュ」
バコォォォォォォォォォン
爆発が起こる。
「…危ないわね」
「そだね…早く返せ」
「だからお気に入りに保存―…」
「ファイルから取り出しなさい」
「ふぇ〜い…」
乗り気ではないが
カチカチッ
ジャンヌが自分の頭をダブルクリックした。
ばふんっ
「出た出た」
ジャンヌが突然現れたソラの剣を掴む。
「はい返せ?」
「あいよっ!!」
びゅんっ
「うわ!?」
ジャンヌが投げた剥き出しの剣が物凄いスピードでソラに向かってくる。
ザンッッ…
「っ…!」
「ゲヘヘ」
ソラの上着が大きく切れる。
「あ…ああ危ないだろ!?」
ギリギリソラには当たらなかった様ですね。
「チッ」
「何の舌打ち!?」
「…バーンバニッシュ」
「フレイムアタック!!」
「ジャンヌ=ダルク!!」
魔法で応戦する二人。
しかし、魔法はソラの方しか発動しなかった。
「何歴史人物の名前挙げてんの!?」
「ゲヘヘ!」
「馬鹿ーっっっっっ!!」
ドカァァァァァァァァァン
魔法負けしてソラとジャンヌが吹っ飛んだ。
「…」
爆発を見つめるトリ。
トリは今、ちょっとした疎外感に浸っております。
「っ痛たたた…」
「メルヘンメルヘンみんなメルヘン♪」
「何の歌!?」
「アイツもコイツも可愛いいウチもみんなみんなみんなメ〜ルヘ〜ン♪」
ジャンヌがメルヘンの歌を歌い始めた。
「…バーンバニッシュ」
「バーンバニッシュ!!」
「メルヘンのメルヘンはメルヘン亡者♪」
ドカァァァァァァァァァン
「…バーンバニッシュ」
「バーンバニッシュ!!」
「可愛いいウチはメルヘン女神♪」
ドカァァァァァァァァァン
「…バーンバニッシュ」
「バーンバニッシュ!!」
「そんでもってモヤシにメルヘン注入♪」
ドカァァァァァァァァァン
グサッ♪
「ぎゃあ!?」
「ゲヘヘ!」
ジャンヌがソラに注射器で何かを注入し始めた。
「ななな何やってるのジャンヌ!?」
「メルヘン注入」
「意味分かんないよジャンヌ!?」
「アイムメルヘン!!」
「知らないよジャンヌ!?」
「ユーアーメルヘン!!」
「やめてよジャンヌ!?」
「ウィーアーメルヘン!!」
「やめろジャンヌ!?」
ズボッ♪
ジャンヌが注射器を引き抜いた。
「ヤバイ…なんか…頭が…」
ソラがよろけた。
「ぐるぐる回るぅ〜…♪」
ぼてっ
ソラが倒れた。
「ゲヘヘ!チャージ完了!!」
「…バーンバニッシュ」
「ウッドパイソン!!」
ドカァァァァァァァァァン
トリの魔法を食い止めるジャンヌ。
「さぁマミーの仇?死になさい!!」
ジャンヌがトリに向かって言った。
『ただいまー!』
『おかえりジャンヌ今日はあんたが好きなスパゲティよ!!』
『大嫌いだけど?』
『え』
ジャンヌと同じエメラルドグリーンの髪をした、ジャンヌ母、アンナが現れた。
『それより見てよ母さん!!』
そう言って背負っていた鞄を下ろし、何かを探し始めたジャンヌ。
『?』
『じゃーん!!花子!!』
そう言って、ジャンヌはわら人形を取り出した。
『は…花子?』
アンナが聞き返す。
『花子!』
ジャンヌがもう一度言う。
『ぶっ!!』
アンナが吹き出した。
『あっひゃっひゃっ!!ジャンヌ!あんた最高!!』
『当然よ!!学校の先生も口をあんぐりさせてたわ!!』
『何の時間に作ったの?』
アンナが尋ねた。
『社会』
『あっひゃっひゃっ!!勉強しろ!!!!』
アンナは大爆笑している。
『ねぇ母さん!花子、玄関に置いていい!?』
『やめなさい』
アンナの笑いがピタッと止まる。
『ええ?どうして?』
ジャンヌが問う。
『花子はトイレって決まってるでしょ?!』
アンナが言った。
『そっか!!トイレの花子だもんね!!』
『消臭効果抜群よ!!』
『あはは!!意味分かんなーい!』
ジャンヌが笑った。
『…ジャンヌ?』
『?…何?母さん?』
トイレに行こうとしたジャンヌが振り返る。
『あんた…』
真剣な顔になるアンナ。
『…笑い方がなってないわ!!』
『ええ!?』
『"あはは"なんて駄目よ!…そうね……』
『…』
アンナを見つめるジャンヌ。
『…』
『…』
『…』
『…』
『…』
『…』
『…ゲヘヘ』
『母さん!?』
ジャンヌが驚く。
『そう!これ!これだわ!!』
アンナの目が輝く。
『あんた次から"ゲヘヘ"って笑いなさい!!』
『ええ!?嫌よ?!』
ジャンヌが返す当然の答え。
『ばっかもーん!!』
『ぶはぁっ!!』
アンナがジャンヌをチョキで殴った。
『"ゲヘヘ"はな!…なんて言うか…こう…下心が見え隠れする様な…なんて言うかなぁ…!!』
『それってただの変態じゃない!?』
ジャンヌが突っ込んだ。
『さあ鞭の稽古よ!!』
『ご飯は!?』
『だまらっしゃい!!あんたが"ゲヘヘ"って言うまでご飯抜きよ!!』
『ゲヘヘ』
『プライドを即座に棄てた!?』
『早くご飯にするわよ!ゲヘヘ』
『か…完全に"ゲヘヘ"をモノにしてるわ…!!』
アンナが呆気にとられる。
『ウチの子と言えど…侮れないわね…!!』
『早ーく!!』
『あ!はいはいはい!』
『こうよジャンヌ!』
バシーン
アンナの茨の鞭を操る。
『こ、こう?』
ベシーン
ジャンヌはアンナを真似て薔薇の鞭を操る。
『ばっかもーん!!』
『ぶはぁっ!!』
ジャンヌをチョキで殴るアンナ。
『捻りが甘いわ!!あと踏み込みもね!!』
『捻り…踏み込み…?』
ジャンヌが呟いた。
『こう?』
ぐにゃっ
『ジャンヌ!?その関節はこっちに向いちゃいけないわ!?』
『こう?』
ぐにゃり
『わお!?一回転!?』
『ゲヘヘ!』
『ジャンヌぅ買い物行くわよー?』
『えー?どうして?』
ジャンヌが面倒そうに言った。
『冷蔵庫が空なの』
『ええ!?虚無の空間!?』
『そうなのー』
『じゃあ行くわよ!!アンナ!』
『母さんを名前で呼ぶなよ!?』
こうして買い物に出かける二人。
『うー…寒っ!』
ジャンヌが言った。外は粉雪が舞っている。
『…!ねぇ誰か倒れてるよ!!』
ジャンヌが言った。
『ん?…あら本当!』
道に倒れている男の元へ近寄る二人。
『…』
すると男は起き上がった。男は黒い制服に赤い髪、白い仮面をつけていた。
『…』
『大丈夫…みたいね?』
『何道で転んでたの?馬鹿みたい』
『母さん!?』
アンナが鼻で笑った。
『…バナナの皮で滑った…』
男が言った。
『『ぶっ!!』』
二人が吹き出した。
『あっひゃっひゃっ!!あんた馬鹿ね!!』
『…あんたよりましだ…』
『グリーングリン♪』
『…馬鹿でしょ?』
ジャンヌが溜め息混じりに言った。
『…心配してくれたのか…?』
男が言った。
『いいのよ!あんた馬鹿なんだから!!』
アンナが笑いながら言った。
『…バナナの皮は危ないぞ…?』
『誰もこけないわよ!!あっひゃっひゃっ!!』
『…』
『…もうっ!行くよ?』
『ああん!待ってジャンヌ!』
『…はいはい』
『じゃあね!気を付けなさいよ!!』
アンナが男に言うと、そのままジャンヌを追っていった。
『…』
無言でアンナを見つめる男。
『…とう…』
ピュン
男は何かを投げた。
ズリッ
『わお!?』
『母さん!?』
ステーンッ
アンナが転んだ。
『どうしたの!?』
ジャンヌが駆け寄る。
『滑っ…バナナ!?』
アンナが自分の足元にあるバナナの皮に気付いた。
『母さん!?バナナで転んだの?!』
『そんなバナナ』
『古臭い!!』
ジャンヌが言うと
がしっ
『うはっ!?』
『ジャンヌ!?』
『…』
トリが後ろからジャンヌを猫掴みして持ち上げた。
『ちょっと何してんのよあんた!?』
『は、な、し、て!!』
ジャンヌがもがく。
『…』
トリがアンナを向いた。
『…バナナ…危ない…』
『そんなのいいからジャンヌを下ろしなさい!!』
アンナが立ち上がった。
そしてジャンヌを取り戻そうとする。
『…』
『このっ!返しなさい!』
『放してよ!!』
『…』
トリが肩を上下に動かした。笑っている。
『…お前…コイツ助けたい?』
『当たり前でしょ?!』
アンナが言った。
トリが楽しそうに言った。
『じゃあ…俺…お前を殺していいか…?』
トリがアンナに言った。
『っふざけないでよ!?』
ジャンヌが言った。
『…選ばせてやる…』
トリが言った。
『A、お前…コイツ殺して助かる…』
トリが続けた。
『B、お前…死んでコイツ助ける…』
『っ…!!』
『母さん…っ』
アンナとジャンヌの顔は恐怖で青くなる。
『…選べ…二択だ…』
笑いながら男が言った。
『…』
『…』
『…』
沈黙が流れる。
『…解ったわ』
『母…さん…?』
アンナが言った。
ジャンヌの顔が固まる。
『私が選んだのは…』
キッと男を睨むアンナ。
『駄目だよ!!死なないで母さん!?』
ジャンヌが叫んだ。
『…何言ってるのよジャンヌ?私が死ぬワケないでしょ?』
さらりと返すアンナ。
『え?』
〔…って事は…〕
『お前選んだの…A?』
トリが言った。
『…』
ジャンヌは何も言えなかった。
『馬鹿ね…私が選んだのは』
アンナが言った。
『…Cよ!!』
・・・
・・・・・・
『え?』
『?』
ジャンヌとトリにハテナがとぶ。
『Cの"どっちも助かる"よ!!』
がしっ
『!』
素早くジャンヌを奪い返すアンナ。そして走り出した。
『あっひゃっひゃっ!!選択肢に捕われるな?』
『む…無茶苦茶だね母さん…!?』
『だって!母さんまだ死にたくないし、ジャンヌも死んで欲しくないからね!!』
『…ゲヘヘ!そうだね!』
『あっひゃっひゃっ!!』
アンナはジャンヌを担ぎながら家へと走っていく。
『…クス…』
トリがそれを見て笑った。手を前に出すトリ。
『…死ね…』
ギュンっ
空色の光りがアンナへ向かう。
ドッッッッッッッッッッッ
『かっ…!?』
『え?』
ドサッ…
アンナが倒れた。
『もう…またバナナで転んだの!?』
ジャンヌがアンナの下から這い出る。
『…』
『ちょっと母さん?こんなとこで寝たら風邪ひくよ?』
『…』
『…母さん?』
アンナを揺するジャンヌ。
『母さん?』
『…』
『母さん!?』
ヌルッ…
『!!』
ジャンヌの手に赤い液体が付着する。
『…血?』
自分の手を見るジャンヌ。
『母…さん?』
『クスクス…泣いてるのか…?』
『っ!!』
ジャンヌのすぐ後ろでトリの声がした。
『あんた…母さんに何したのよ…!!』
振り向かないままジャンヌが言った。
『殺した』
トリが言った。