第75話 三つの扉
「凄い凄いシャーン!!」
ソラが言った。
「はは…だろ?」
「ま、シャーンも無駄に32話分過ごしてなかったって事だよソラ兄」
「…のっ!!」
「成程!」
「納得しないでソラ!?」
ここでふと気付くシャーン。
「…ちょっと待てルゥ?」
「何さ?」
「俺の方がソラとお前より年上だぞ?」
「だから?」
「なんで呼び捨て!?」
シャーンが言った。
「…オレに"シャーン兄"って呼ばれたいの?」
「う?!」
「しかもオレは身長と足の長さが基準だから」
「く…っ」
「それに"兄"って感じがしないしね」
「…泣かないもん」
久しぶりに蹲るシャーン。
「いひひっソラ兄、シャーンにカツ丼作ってあげて?」
「うん解った!」
ソラが家に入っていった。
「…しかしヘアバンド一つでえらく違うにゃ〜」
アミュが感心した様に言った。シャーンは今ヘアバンドを首に下ろしている。
「なんでそれやってたにゃ〜?」
アミュが訪ねた。
「それは…」
過去を思い出す様にシャーンがヘアバンドを見る。
「…別に」
「なんにゃ〜?気になるにゃ〜!!」
「なっなんだっていいだろ?!」
「エリ姉に貰ったとか?」
「うっ!?」
「え?私があげたんだっけ!?」
物凄い驚くエリア。
「過去の幻想ね!!ゲヘヘ」
「うわーん!!」
「…何故…生かしておくの…?」
リアラが言った。
メンバーがそちらを向くとリアラとエフラムがヨロヨロと起き上がった。
「何故って…」
シャーンが言いかけると
「使えるからよ!!」
ジャンヌが言った。
「「「「ええ!?」」」」
メンバーが驚く。
「…使える…?」
「そうよ!!あんたらは下に行って門番達と外に出なさい?」
ジャンヌが言った。
「「「「?」」」」
「何…言うとんねや…門番はお前らが…」
「生きてるわよ」
「「!?」」
驚く二人。
「つうか負けたんだから言うこと訊きなさいよ!!鼻毛抜くわよ!?」
「「…」」
「と…とりあえずあなた達もカツ丼食べましょ?」
エリアが言った。
「お待たせ〜!!」
丁度よくソラがカツ丼を持って現れた。美味しそうな匂い。
「要らんわ…」
エフラムが言った。
「でも…約束は…守るわ…」
リアラが言った。
「本当にゃ!?」
「…負けたから…」
下の階へ二人が歩き出した。
「あと一つ言うとくわ」
エフラムが言った。
「…"アタリは一つ"」
「「「「「?」」」」」
「ほなな」
バタンッ
扉が閉まった。
「…パー子の言うこと訊いてる…」
「鼻毛の恐怖ね!!」
「…そんな馬鹿な」
「でも何で外に…?」
「にゃ〜!!お腹減ったにゃ〜…」
「…食べよっか?」
こうしてカツ丼パーティーが始まった。
「いよいよだね」
ルゥが扉を見ながら言った。
「トナカイにサンタかぁ…」
カツ丼をお代わりしながらシャーンが言った。
「カツ丼に虫が入ってたわ!!」
「ええ?!ごめんねジャンヌ!?」
「美味しく頂いたわ!!」
「ええ?!よかったね!?」
「にゃ〜ドキドキにゃ〜」
「き、緊張するわね…」
エリアが言った。
「手に己の血で"腐敗"って三回書いて手を飲み込むといいらしいわよ?」
ジャンヌが言った。
「ええ?!」
「腐敗と不敗を掛けてるのか!!スゲェな!!」
シャーンが言った。
「ええ?!」
「あんたヘアバンド取ったら頭も良くなったわね!!ゲヘヘ」
ジャンヌが言った。
「任せろ!」
「…ヘアバンド取ったら何か大切な物も一緒に取れちゃったみたいね…」
「なんか幸せそうにゃ〜」
「…成程成程…いひひっ♪」
悪戯っぽく笑うルゥ。何かに気付いた様で…
「カツ丼に希望が入ってたわ!!」
「ええ?!よかったね?!」
「よかねぇよ糞モヤシ」
「ええ?!ごめんジャンヌ!?」
「行くよ!」
ルゥが扉を開けた。
「「「「「「!!」」」」」」
メンバーが驚く。
「そんなっ…!?」
「マジかよ?!」
「へにゃ〜…」
「駐車場の様ね!!」
「意味解らないわジャンヌ!?」
「階段?」
メンバーの目の前には数えきれないほどの物凄い段数のある細い階段が一本ある。階段の下は底が見えないほど黒くなっている。
「これ…一人ずつしか行けないよな…?」
シャーンが言った。
「一列になる?」
ルゥが提案する。
「先頭はウチよ!!」
「勝手にしろ!?」
「じゃあオレ二番目〜♪」
ジャンヌの後ろにルゥが立つ。
「にゃ〜♪あたしは三番目がいいにゃ〜♪」
ルゥの後ろにアミュが立つ。
「じゃあ私は此処にしようかしら」
「その次が俺にするかな」
「じゃあ僕は一番後ろだね」
こうして一列になるメンバー。
「行くわよ!!」
ジャンヌが階段に足を乗せた。すると
「聞きなさい愚民ども…」
ジャンヌが静かに言った。
「…まさか…?」
「お約束の乗ったら崩れるヤツにゃ〜?」
ルゥとアミュが言った。
「いいえ?至って普通の階段よ」
「紛らわしいなパー子」
「スペースの無駄遣いにゃ〜!!」
「安全が一番だろ?」
「そうね」
「てか…」
ソラが言った。
「ジャンヌのジャックと豆の樹で行った方が速くない?」
・・・
・・・・・・
「「「「あ」」」」
「ジャックと豆の樹!!」
もももももももももももも
こうして階段の上を行くメンバー。
「あ!魔物がいっぱい!」
ソラが言った。
見ると階段には魔物がごっちゃり☆
「あたしらを待ってたのかにゃ〜?」
「なんか悪いことしたわね…」
ファイティングポーズの魔物達を哀れむメンバー。
「ウッドパイソン!!」
「「「「「!?」」」」」
ドカァァァァァン
階段が壊れた。と同時に大量の魔物達も落ちていく。
「ゲヘヘ♪」
「「「「「…」」」」」
ああ無情。
階段の終わりに辿り着くメンバー。
「行くぞ」
シャーンが言った。
「あ!ねえ待って!」
ソラが止める。
「?…どうしたのソラ兄?」
「いや…コレって…」
「?」
ソラが指差した方を覗き込むメンバー。
そこには大きなトンネルの脇にこう書いてあった。
"近道"
・・・
・・・・・・
「で…このデカい扉は」
ソラがシャーンが開けようとしていた扉を指差す。
"遠からず近からず"
・・・
・・・・・・
「あっちにも…」
ソラが奥の扉を指差した。
"遠道"
・・・
・・・・・・
「…どうする?」
ソラが言った。
「ウチは"遠道"がいいわ!!ゲヘヘ」
「なんでわざわざ無駄な苦労するしかねぇんだ!?」
シャーンが言った。
「人生に近道無しよ!!」
「格好良いな?!」
「にゃ〜あたしは"近道"がいいにゃ〜♪」
「滅茶苦茶胡散臭いわよ!?」
「にゃ〜?信じる心が大切にゃ!!」
「格好良いわね!?」
「…どうしよっかソラ兄?」
ルゥが言った。
「うーん…」
ソラが考える。
「…引き返す?」
「ちょっと黙れ?」
微笑むルゥ。
「近道にゃ!!」
「遠道よ!!」
「普通が一番だろ?」
「私もそう思うわ?」
おやおや…危ないですよこの展開。
「近道にゃ!!」
「近道よ!!」
「妥協した!?」
「素直!!」
…よかったね。
「じゃあ近道にしよっか〜」
ソラが言った。
「そうだねソラ兄」
「「「「わーい♪」」」」
近道へ向かうメンバー。
「…暗いにゃ…」
「なんかベトベトしてるわ…」
「湿ってるしな…」
「何か出そうね!!ゲヘヘ」
「ソラ兄…痛いんだけど?」
「ごめん…情けなくてごめん…!!」
ソラはルゥの左腕をしっかり握っている。
「…暗いにゃー!!灯りー!!灯り出せにゃー!!」
アミュが暴れ始めた。
「…あ」
ソラがルゥを放す。
そして左手に力を入れると
ポッ
火が手の上に現れた。
辺りが明るく照らされる。
「にゃ〜♪流石ソラソラにゃ〜♪」
「って…きゃあ!?」
エリアが悲鳴をあげた。
「どしたのエリ姉!?」
「なななっな…ナメクジぃっっ!!!!!!」
エリアが叫んだ。
「へ?!」
メンバーも辺りを見回す。
「ナメクジパラダイス!!」
「「「「ぎゃあああああああああっっ!?」」」」
近道の壁という壁にナメクジがびっしり☆
壁を伝って歩いていたアミュもびっくり☆
「ぎゃああ!!キモスキモスキモスキモ〜っス!!」
ルゥが叫ぶ。
「し、塩っ!!塩無いか!?」
シャーンが言う。
「ナメクジボンバー!!」
べちょっ
「うわ!?テメっ止めろ三編み!?」
「嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌ーっ!」
エリアが叫ぶ。
「あ」
ソラが気付く。
「…」
メンバーを見るソラ。
メンバーは思い思いに暴走している。
(…言いにくいなぁ…)
沁々そう思うソラ。
(…でも言わなきゃ)
「みんな?」
ソラが言うとメンバーの動きが止まり、ソラに視線が集まった。
「行き止まりだよ」
・・・
・・・・・・
「「「「はあああああああああい!?」」」」
「ほら」
手前の壁を照らすソラ。
そこには壁があり、当然の如くナメクジがびっしり付いていた。
メンバーは心の底から
((((ソラがいて良かったぁ…!!!!))))
そう。もしソラが照らさなければメンバーはあと少しであの壁に…大量のナメクジに激突するところだった。
「ゲヘヘ…だから人生に近道無しなのよ!!」
ジャンヌが言っ―…
「待て待て待て待て待て待て!?ナメクジだけは食べるな三編み?!」
ナメクジを食べようとしていたジャンヌをギリギリのところで止めるシャーン。
「一匹ぐらいいいじゃない!!こんなにいっぱいいるのよ!?」
「量の問題じゃなくて質の問題だ」
「にゃ〜…早く出ようにゃ〜!!」
「そ…そうね…」
「キモスキモスキモス…」
アミュとエリアとルゥの三人はいち早く回れ右をして来た道を引き返し始めた。
「じゃあ僕達も戻ろうか?」
ソラがシャーンの方を向くと
「…とう!」
「もがっ!?」
ソラのお口の中に広がるニュルッとした今までにない感覚☆
ソラは見る見る顔色が悪くなり、最終的には
バタッ
倒れた。
「ゲヘヘ!やったわ!!やったわよ豚足!!モヤシを倒したわ!!」
「ぎゃあああ!?ソラ!?ソラ?!」
ソラを揺さぶるシャーン。
「ゲヘヘ!!無駄よ!!」
「何悪役ぶってんの!?」
「あらモヤシの口からナメクジが」
「ぎゃあああああああああっっ!?」
ショッキング映像を目にしてしまったシャーン。
「やぁだ気持悪い♪ゲヘヘ」
「ソラ…もうお前は今までのお前には戻れないよ…!!」
悔しそうに下を向くシャーン。ついでにソラの顔を這っていたナメクジを払い落としてあげた。
ドカン
"遠からず近からず"の扉の脇に家を出したシャーン。
「…今日はもう休もう…」
ソラを担いだシャーンが言った。
「…ええ…そうね…」
「キモスキモスキモス…」
「もう嫌にゃ…」
気力が無くなっているメンバーは家に入って行った。
「モヤシがぐったりしてるわ!!ゲヘヘヘヘ」
「…誰のせいだ誰の…」
シャーンが言った。
ソラはまだ気を失っている。
「次は遠道にするわよ!!」
ジャンヌが言った。
「いやいや遠からず近からずだ」
「何言ってんのよ!?」
「お前がな?」
「あんなに面白そうなのに!!」
「ソラ…早く起きてコイツを成敗してくれ…!!」
ジャー
「…」
ソラ、本日40回目の歯磨き。
「…うぇ…」
再び磨き始めるソラ。
シャコシャコシャコシャコ
ばんっ
「…?」
ソラの部屋の扉が開いた。
「モヤシー!!謝りに来たわー!!」
ジャンヌが言った。
「…」
シャコシャコシャコシャコ
(…珍しいこともあるもんだな…)
ソラがそう思っていると、洗面器の鏡にジャンヌの姿が写った。
歯磨きしながら振り向くソラ。
「ごめりんこ☆」
「…」
シャコシャコシャコシャコ
「…許してもらっちった!!ゲヘヘ」
「…」
シャコシャコシャコシャコ
「豚足ー?これでいー?」
「ばっ…お前―…」
シャーンの声が聞こえるや否や
「ファイア」
「うっひゃっ?!」
ジャンヌが炎上する。
口をゆすぐソラ。
「…ははは…ジャンヌ?ジャンヌは何しに来たのかなぁ?」
「さあ?」
「ははは」
「ゲヘヘ」
「馬鹿っ逃げろ三編み!!」
シャーンが現れた。と同時に
「バーンバニッシュ」
ドカーーン
「メルヘン!!」
「…意味解んねぇよ」
こうしてメンバーの夜は静かに更けていきました。