第73話 王子様
「お婆ーさーん?」
お婆さんの家に着いた赤ずきん。
「ウホッ…ウホッ…」
「!?」
(ゴ…ゴリラ!?)
扉を開く勇気がない赤ずきん。
「ウホッ…赤ずきんかい?」
「!」
ガラガラ声が聴こえてきた。
「どうしたんだい?お入り…寒いだろ?ウホッ」
(ウホッって…!?)
「…お邪魔します」
そう言ってお婆さんの家に入る赤ずきん。
「邪魔すんなら出てけよ」
「ええ!?」
冷たい言葉を浴びさせられる赤ずきん。
「わ、私はお婆さんにワインとパンを…」
「嘘マジで!?めっちゃ嬉しんだけど!!」
お婆さんがベッドから飛び起きた。
「ええ!?ジャンヌ!?」
「ゲヘヘ!!久しぶりね大根」
お婆さんは赤ずきんに言うと高速でバスケットの中の食料を食い付くした。
「速っ!?」
「ワインは飲まないわ!!未成年だもの!!」
「え…ええそうね?」
呆気にとられる赤ずきん。
「ウホッ…ウホッ…」
「ジャンヌ!?何なのよそれは!?」
「風邪を患った様ね!!」
「例えそれが咳でも"ウホッ"ってはならないわ!?」
「ウチをムカデと一緒にしないでくれる!?」
「してないわ!?」
「メルヘンね!!風邪なんか初めて患ったわ!!」
「風邪は"患った"って言うのかしら?」
「ゲヘヘウホッ」
「気持悪いわよ!?」
「おかずが欲しいわ!!」
「はあ!?」
二人が言い合ってると
ばんっ!!
扉が勢いよく開いた。
「「!?」」
振り向く二人。
『くそう!先を越されたか!!』
「!」
「魔物っ!!」
狼チックな魔物の登場。
『折角赤ずきんのあとを追ったのに…』
「それじゃ先を越されても仕方ないわ!?」
赤ずきんが突っ込んだ。
『くそう!もういい!!この勢いで二人とも食ってやる!!』
「「!!」」
『ワオォォォォォン!!』
魔物が襲い掛ってくる。
「きゃあ!?」
「新鮮な肉ね!!ゲヘヘ」
・・・
・・・・・・
「…え?ジャンヌ?」
『お前…怖いな…』
「ゲヘヘ!!頂きまーす!!」
何処からかナイフとフォークを持ち出すお婆さん。
『きゃいんっ!?』
驚いた魔物は逃げ出した。
「待ちなさい!?生肉!!」
お婆さんは魔物のあとを追う。
『く…来るな!!』
「ゲヘヘ!!」
こうしてお婆さんは見えなくなった。
「…」
残された赤ずきん。
「次元が…違うわね…」
やれやれとベッドに座る赤ずきん。ふと鏡に写った自分が目に入る。
「…どうせなら…白雪姫がよかったわ…」
自分の白雪姫姿を想像する赤ずきん。
「…えへへ♪」
急に赤ずきんの顔が赤くなる。危険です。近付いてはいけません。
パッカラパッカラ…
短くて茶色い髪を風に踊らせ、真紅のマントを翻しながら華麗に白馬を操る王子様が草原に現れた。
「…なんで僕が…」
頭には金色の冠をし、青い礼服を着込んで、剣を携えている王子様。
「…恥ずかしい…」
うつむく王子様。その理由は…
「なんだよこの服装は…」
王子様が着ている服は先程述べたように素晴らしく上品な身なり
…なのだが…極めつけはちんちくりんなハーパンに白タイツ☆
「ダサい…ダサすぎる…」
顔を真っ赤にする王子様。
「…みんなに…見られたくないなぁ…」
切実な思いを呟く王子様。
『ヒヒーン』
「…何故馬に?」
王子様の質問は微風に掻き消された。
「にゃ〜♪お菓子のお家にゃ〜♪」
猫耳グレーテルが言った。
「にゃは〜♪変な兄気取りのヤツも撒いたし…一人で食べちゃうにゃ〜♪」
グレーテルが走り出した。なんとグレーテルは優しい兄、ヘンゼルを撒いてしまった様です。
「にゃ〜♪まずは中身から頂くにゃ〜♪」
ばんっ
勢い良くグレーテルがお菓子の家に入った。すると
「わ!姉御!やっほー♪」
「よう猫!」
口の周りにホイップクリームがついているダブル太郎を発見した。
「にゃにゃ!?ルゥちんに短足!?」
驚くグレーテル。
「なんで此処にいるにゃ!?」
「なんでって…なぁ?」
桃太郎が言った。
「小腹が空いたんだよ」
浦島太郎が言った。
「にゃ!?ほとんど食べちゃったにゃ!?」
「おう!この椅子美味いぞ?」
「こっちのテレビもなかなかだよ姉御!!」
「…」
唖然とするグレーテル。
「…あ…あたしも食べるにゃ〜♪」
「おし!その息だ猫!」
「にゃー!!」
そして三人は喜々としてお菓子の家を貪り始めた。
コンコン…
「…ん?」
赤ずきん…いや赤ずきんはとれちゃってるな…エリアが起き上がった。
「やだ…私寝ちゃってたわ…!」
ベッドから飛び起きたエリア。
コンコン…
「は、は〜いっ!今出まーす!!」
いそいそと髪を撫でつけるエリア。そして
ガチャ
「お待たせしましたぁ!」
ドアを開けるエリア。
「キェッキェッキェッ…美しいお嬢さん?美味しい林檎は要らんかえ?」
黒いローブを着て、フードを被っている老婆が現れた。
「っ!!」
かなりビビるエリア。
「キェッキェッキェッ…毒など入っておらんよ?」
(その笑い方の時点で怪しいんですけど…)
「い、要りません!!」
エリアが言った。
「どうしてだい?」
「林檎なんて…た、食べません!!」
赤くて水々しい林檎に軽く誘惑されるエリア。
「美味しいえ?一口食べてみないかえ?」
老婆が薦める。
「う…」
物凄い美味しそう。
「…食べないのかえ?」
「は…はい!!」
無理矢理自己規制するエリア。
「そうかえ…残念じゃ…」
しょげかえる老婆。
「…あ…」
気の毒そうに老婆を見るエリア。
「と見せかけてトリャー!!!!」
「もがっ!?」
エリアの口に林檎を突っ込む老婆。
「キェッキェッ!あばよ!!それは猛毒だぜ!!」
老婆は走り去って行った。
「う…っ!!」
苦しそうに喉を押さえるエリア。
「猛ど…毒…?」
膝をつく。
「そ……ら…」
バタッ
エリアは倒れて動かなくなった。
『ヒヒーン!』
「うわっ!?」
白馬が突然前足を上げた。
「ど、どうした―…」
『ヒヒーン!』
血相変えて走り出す白馬。
「ええ!?何!?何なの!?」
『ヒヒーン!』
小さな小屋の前で立ち止まる白馬。
「ったた…何なのさ…?」
白馬から降りる王子様。
「?」
家の入り口から手が出てるのが見える。
「…なんだ?」
家に近付く王子様。すると
「エリア!?」
そこにはエリアが倒れていた。
「エリア!?大丈夫!?」
「…」
返事が無い。
「ちょっ…ええ!?エリア!?」
揺さぶる王子様。
しかしやはり返事が無い。
「そ…そんな…っ」
血の気が引く王子様。
「エリア…」
『ちゅーすればいいんだよソラ』
「!?」
突然声がして驚く王子様。そしてエリアを見る。
『そっちじゃねぇよ。俺だよ俺。俺俺』
「…俺俺サギ?」
『違ぇし!俺、白馬!』
「!!」
気が付くと白馬が後ろに立っていた。
『おいおいソラ、速くしろよ?その子死んじまうぜ?』
「何を!?」
王子様が聞く。
『だから"ちゅー"だって!』
白馬がキレ気味で応える。
「何言ってんの!?死者を愚弄する気!?」
『ああ…てええ?!』
白馬が驚く。
『え?!愚弄!?』
「そうだよっ!エリアは…死んでるんだよ!?」
王子様が言った。
『いや、だから死んでな―…』
「エリア…腐らない内に燃やしてあげるからなっ!!」
『やめいっ!?』
白馬が止める。
「何なのささっきから!?」
王子様が言った。
『んだーかーらー!!死んでないって言うとんのじゃボケが!!!!!!』
「っ!?」
白馬がキレた。
『速くしろ言うてるやろ!?屑が!!!!』
「え?エリア…死んでないの?」
キョトン顔の王子様。
『アホか!?よう見てみい!!!!』
「はっはい!!」
エリアを向く王子様。
ニヤリ☆
邪悪な笑みを浮かべる白馬。
『かましたれ!!』
ドカッ!!
「うわっ!?」
ちゅっ
『きゃー!ようやったソラー!!』
白馬が言った。
パチッ
エリアが目を覚ます。
と同時に
「きゃあああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!?」
王子様から飛び退くエリア。
「…エリア!大丈夫!?」
「そ…そそそ…ソラ?!」
真っ赤なエリア。
「い…いいいいいいいいいいいい今…な、ななな何っ…!?」
「え?…あ!ごめんねエリア?」
謝る王子様。そして立ち上がった。
「もぅ…危ないだろ白馬?」
『きゃー!きゃー!ソラ君やる〜♪』
「はぁ?」
飛び跳ねる白馬。
そこから少し離れた所で
ドッキドッキドッキドッキドッキドッキドッキドッキ
(…いいいい今…私っ…ソラと…!!!?)
口を押さえるエリア。
(わわわ…私の…ファースト―…)
血が蒸発するほど顔を熱くするエリア。
「きゃああああああああああああああああああ!!」
布団に潜るエリア。
「エリア!?」
『ヒヒーン♪罪な男よ!!』
「はあ!?」
「ふー!食った食った♪」
「美味しかったにゃ〜♪」
お菓子の家は跡形もなく消えた。
「さあ!他のみんな探さなきゃね!!」
桃太郎が言った。
「おう!そうだな!」
「レッツゴーにゃ♪」
そうして歩き始める三人。すると
パッカラパッカラ…
「あ!みんな!!」
王子様が言った。
「にゃ〜ん♪ソっっ!?」
「ソッッ!!」
「ソッッ!?」
三人の動きが止まる。
「?どしたの?」
王子様が言った。
「「ぶっ…!!」」
吹き出すダブル太郎。
「………………はっ!!」
自分の身なりを思い出す王子様。
「「ぎゃーはっはっはっはっはっはっ!!!!」」
「み、見るな!!僕を見るなっっっ!!!!」
酷く赤面する王子様。
「にゃ〜ん♪王子様にゃ〜♪格好良いにゃ〜♪」
『ヒヒーン♪』
「「ぎゃーはっはっはっはっはっはっはっ!!」」
「みっ見るな―――――――――っっ!!!!!!」
こうして五人になったメンバー。
「ぶっ…パー子は何処だろうね…ふっ…ソラ兄…?」
「くくっ…三編みだから…その内地面から…ふっ…湧き出てくるだろ…?」
「ふっ…そうだね…ぶっ…シャっ…シャーン」
「…」
王子様のソラは白馬に乗ってうつ向いている。
「…エリた〜ん?どうしたにゃ〜?」
「え?や、ナンデモナイワ?」
「片言にゃ〜?」
「そ…ソンナコトナイワ?」
「真っ赤にゃ〜?」
「キノセイヨウフッ…ウフフヘホホ」
「にゃ!?エリたんが壊れたにゃ!?」
「フフヘホハー」
「エリたーん!?」
「…出口かしら?」
ジャンヌが亀裂の前で立ち止まった。
「この呪い…厄介ね…」
地面を触るジャンヌ。
「此処かしら?」
岩を叩くジャンヌ。すると
ガゥン…
「!」
空洞音が響く。
「ゲヘヘ…此処ね!!」
ジャンヌが言った。
「ちょろぼんまんぼ!!」
・・・
・・・・・・
「…」
何も起こらない。
「…ちょろぼんまんぼ!!」
・・・
・・・・・・
「…成程ね?」
伸びをするジャンヌ。
「こりゃアイツらを利用するしかないわね!!ゲヘヘ!!」
そう言って、ジャンヌはぶくぶくーって消えた。
…んん!?ジャンヌって一体!?