第61話 森のクマさん
「あれ?早いねジャンヌ」
ソラが言った。
「モヤシには負けんばい」
「どこの人?!」
「ウチの朝飯が食べられるなんてメルヘンの極みね!」
ジャンヌがフライパンを振りながら言った。
「ええ!?ジャンヌ料理出来るの!?」
ソラが驚いた。
「出来るわよ!!乙女だもん☆ゲヘヘ」
「わぁ!助かるよジャンヌ!!」
ソラの顔が輝いた。
「僕以外料理作れないんだもん!!久しぶりだな〜料理作らない日は♪」
「お?大根と毛玉がいるじゃない?」
ジャンヌが聞いた。
「ああ、全然駄目」
即答。
「駄目ね〜」
「本当にね」
「まぁゆっくりしてなさいよモヤシ!今日のセンチメンタル朝食は"モヤシ炒め"よ!」
「うん?!あ、モヤシ炒めね…」
一瞬ドキッとするソラ。
「まずは油を敷いて〜♪」
手慣れた様に油を敷くジャンヌ。
「…」
「?…何?」
ジャンヌがこっちを向いた。
「モヤシ…」
「…っ!?」
じりじりとよってくるジャンヌ。
同じく後退りするソラ。
「モヤシ炒めにはモヤシが必要よね?モヤシ」
「うんそうだねジャンヌ」
「モヤシ?」
「…何?」
「モヤシもやもやモヤシもやもやモヤシモヤシモヤシモヤシもやもやモヤシモヤシが80円♪」
「何の歌!?」
「あっと言う間に"豚の旨煮"の完成♪」
フライパンの中にはいつの間にか"豚の旨煮"が出来上がっていた。しかもなんかブヒブヒ言ってる。
「!?」
目の前の現実が信じられないソラ。
「ってかフライパンで"豚の旨煮"?!」
「旨いかどうかの主導権はウチにあるわ!!」
「いやどうでもいいよ?!」
「モヤシ炒め作ってたハズなのに…しくじったわね」
悔しそうに舌打ちするジャンヌ。
「いやいや!?凄いと思うよ!?」
「…モヤシに同情されるなんてファンタスティックね…」
「ええ!?」
朝からワケの解らない会話に苦しむソラ。
「いいからテーブルに運ぶわよ!」
「あ、うん」
そう言って、ブヒブヒ言ってる豚の旨煮を運ぶ二人。
「…ブヒブヒ?」
ソラが言った。
「豚の旨煮よ」
「ブヒブヒって事はコイツ生きてない?!」
「死んでるわよ」
しかし豚の旨煮は確かにブヒブヒ言ってる。
「だからブヒブヒ言ってるよ!?」
「…モヤシ?」
「何?」
ジャンヌが咳払いした。
「生きてるか死んでるかの主導権はウチにあるわ!!」
「豚が可哀想だろ!?」
「喰っちまえば胃袋とシンクロナイズドスイミングよ!!」
「うんそうだね。せめて殺そうね」
ドスンっ
ソラが包丁をぶっ刺した。
「わぁ!豚の旨煮だ〜♪」
ルゥが降りてきた。
「朝からコッテリしてるにゃ〜」
「美味しそう♪」
続いてアミュ、エリア。
「一口三万♪」
ジャンヌが言った。
「「高っ!?」」
「余裕♪」
「「いやいや!?」」
ルゥが札を出そうとしたので止める二人。
「チビッコーのおかず畑♪」
某CMの様に歌うジャンヌ。
「チビッコ言うな?!」
「じゃあミクロマン」
「格好良いな!?」
「ルゥ?!片仮名に惑わされないで?!」
「頂きますにゃ〜♪」
ウィルポン砂漠に着いたメンバー。
「毛玉、吐かなくなったね!」
ジャンヌが言った。
「元々吐かないにゃ?!」
「儚いわね」
「漢字でボケんにゃ?!」
「暑いわ…」
「相変わらずだねここ…」
「大丈夫?みんな」
ソラが言った。
「…相変わらず平気そうだねソラ兄」
「羨ましいわね!ウチなんか汗掻きマクリマクリスティーよ!!」
ドバーと汗を滝の様に流すジャンヌ。
「うわ!?」
「パー子!?」
「掻き過ぎにゃ?!」
「そう?」
ジャンヌがそう言うとピタッと汗が止まった。
「「「「!?」」」」
「スイッチオフよ!!」
「…え?」
「駄目駄目エリ姉。いちいち構ってたら世界が滅びるよ」
「行こう?」
「あ、うん!」
進み始めるメンバー。ジャンヌを残して。
「シカトね!メルヘンの向こう側だわ!!」
そう言うとジャンヌがメンバーを追い掛けていった。
「げ…カーフェイ…」
ヴェルナが言った。
「あ!…やあヴェルナ☆」
爽やかに言うカーフェイ。
「ケモい」
「ケモ!?」
「キモいの比較級よ」
「ええ?!」
「…まさかあんたと考えるコトが一緒なんてねぇ〜…」
ヴェルナが黄色の台座に腰を下ろした。
「運命の赤い糸だよ?ヴェルナ☆」
カーフェイが言った。
「コモい」
「!?」
「キモいの最上級よ」
「酷くない!?」
「赤い糸ねえ…」
ヴェルナが自分の小指を見ながら言った。
「え?何?乗り気?!」
笑いながらカーフェイが言った。
「もしあったら喜んでこの小指をぶった切るわ」
「…そう…」
肩を落とすカーフェイ。
「馬鹿かお前ら」
セルシオが現れた。
「あ!セルシオ!」
「やだぁセルシオも一緒なのぉ!?」
「はっ!俺が嫌だよ」
「なんですってぇ?」
「色惚けと思考が同じだった事がな」
「ああ成程!」
「酷くない!?」
突っ込むカーフェイ。
「みんな〜!おやつ持ってきたよ〜♪」
クロレカが現れた。
「クロも?!」
ヴェルナが言った。
「えへへ〜♪来ちゃった」
可愛く笑うクロレカ。
「砂漠で余計に熱々だね」
「黙れ色惚け」
「だからっ―…」
「魔物ちゃん!どうしたの?」
クロレカの隣に魔物が現れた。
『わおーん』
抑揚の無い声。
「ええ?!本当?!」
『わおーん』
「うん!解った」
クロレカがそう言うと、魔物が去っていった。
「…どうしたのぉ?」
「リアラちゃん達が捕まっちゃったんだって!!」
クロレカが言った。
「「ええ?!」」
「…敵もなかなかやるみたいだな」
「うん…どうしようセル君っ!!」
「落ち着けクロ」
「あぅ…うん…」
そんな二人を見て
「…ラブラブね…」
「お熱いねぇご馳走様っ」
「やんなってくるわぁ…ガキに負けて…」
「なんなら私と―…」
「コモい」
「あぅ…」
「そ!それでねみんなっ!!」
思い出したようにクロレカが続けた。
「敵さんもこの砂漠にいるんだって!!」
「「ええ?!」」
「…」
「どうしようどうしようどうしよう!?」
「落ち着きなさいよぉクロ!」
「台座は壊れないし…」
カーフェイが言った。
「ええ?!」
「試したんだ」
「無駄足じゃない…」
ヴェルナが言った。
「こんなに汗掻いちゃって…早くシャワー浴びたいわぁ〜…」
「どうしようどうしよう!?」
「決まってる…」
セルシオが言った。三人の動きが止まる。
「返り討ちだ」
「ある〜日〜森の中〜ジャンヌに〜出会あった〜♪」
上機嫌で歌うジャンヌ。
「花咲く森の〜道〜ジャンヌに出会あった〜♪」
「…元気だねパー子」
「二番はチビッコが歌いなさい?」
「ええ?!やだよ!?」
「歌えよチビこのやろー」
「…しゃあねぇな…」
咳払いするルゥ。
(ノリノリじゃんか…)
ソラの心の声。
「その日、花咲く森の道でジャンヌに出会ってしまったソラ兄。何か凄まじく嫌な予感がする。なのでソラ兄はジャンヌが口を開く前に脱兎の如く逃げ出した。」
(歌じゃねぇ!?っていうか僕!?)
「流石チビッコね!はい次大根」
「ええ?!わ、私!?」
「頑張ってエリ姉!」
「…わ、解ったわ!」
少し考えるエリア。
「…こほんっ…ところがジャンヌが後から"ゲヘヘ"と狂った様に笑いながら四ん這いで付けてくる。自分が付けられてる事に気付いたソラは持てる限りの力で走り出した。しかしジャンヌはソラの足元からにゅっと出てきてソラを捕えてしまった。」
(だから歌じゃねぇ!!!っていうかどんな状況だよ!?)
「なかなかスリリングね!次は毛玉よ!!」
「にゃ〜い♪」
楽しそうに笑うアミュ。
「土の中から完全に姿を現したジャンヌが口を開いた。ソラソラに戦慄が走る。するとジャンヌは
"落し物よ!ゲヘヘ"
と言った。ソラソラがジャンヌの手を見ると、ジャンヌの手には白い貝殻の小さなイヤリングが…いや、イヤリングではなかった。何故ならイヤリングはジャンヌの手の中で粉々になっていたから…」
(壊しちゃった!!?ってか僕そんなのしてないし!?)
「ふふんっ♪やるわね!シメはウチよ!」
「「「頑張って!!」」」
(ちょっと!?)
「そのイヤリングを見て
"ジャンヌありがとう!"
とモヤシが言った。そこで微笑むジャンヌ。
"モヤシ、ゲヘヘ♪一緒にメルヘンの向こう側に行ってみない?"
"嫌"
ジャンヌは次の瞬間モヤシに襲いかかり、喜々としてモヤシの体をえぐりはじめた。その後モヤシの行方は……誰も知らない。」
「ソラーっ!!」
「ソラ兄ーっ!」
「ソラソラー!!」
「…」
「いやー!楽しかったわ!!まるでダンデライオンね!!」
「本当ね〜♪」
「面白かったにゃ〜♪」
「流石ソラ兄だね♪」
「そだね〜♪フレイムアタック♪」
「「「ぎゃあああああ!!!?」」」
ドカァッッッッッッッッ
「そうはいかないわ!」
ジャンヌだけ避けきった。
「す…スゲェ…パー子!!」
「ソラの魔法を防ぐなんて…」
「…遅いわね」
「うん…」
「…」
「早くしろよ…」
メンバーを待つ四人組でした。