第2話 ネィバーランド
「よくぞ参られたな。」
シルエリが案内した部屋の中に入ると、重々しい口調の老人が口を開いた。
「連れて参りましたあ〜♪オーブ様〜♪」
にこっと笑いながらシルエリが言うと
「ご苦労、シルエリ。」
微笑みながらオーブが言った。
「きゃはっ☆褒められました〜♪」
キャピッと喜ぶシルエリ。
「…」
ソラがぐるりと部屋を見回すと、真っ白い部屋の中には、シルエリ、オーブ、蛙、鳥、亀、虎、龍以外何もない事が分かった。
…虎と龍?
ソラは早く家に帰りたくなった。
「ふぉっふぉっ、そう恐れなさるな。コイツらはおまえさんを取って喰ったりしないぞ?」
そんなソラを見て朗らかに笑うオーブ。
「は、はぁ…」
当たり前だ。取って喰ったりされたらとんでもないコトになりそうだ。いや、なる。
(何故に反語?)
ソラがナレーションにささやかな疑問を感じていると
「ソラ、と申したかな?」
オーブが問掛けてきた。
「はい。はじめましてソラです」
早く帰りたいからか、妙に棒読みなソラ。
「そうか。驚かれましたじゃろ?」
微笑みながら再び問掛けるオーブに
「そうですね。ここはドコなんですか?」
再び棒読みで返すソラ。
「ここはおまえさんがいた世界の隣の世界の"ネィバーランド"じゃ。」
「へー…え!?」
微妙に驚くソラ。
「…普通…凄く驚くと思いますケド?」
小首を傾げるシルエリ。
「ふぉっふぉっ、こんな所におまえさんを呼び出したのは他でも無い。」
そんなソラを見て、朗らかに笑いながらオーブが
「今、ネィバーランドは消滅の危機にさらされているのじゃ。」
って言った。
「そぅなんですよ〜ヤバイんです〜♪」
ヤバイのに語尾に"♪"を付けるな。
「そこでじゃソラ。ガブリエルが選んだ異界のおまえさんに願い事を二つだけ叶えてやろう。だからこの世界を救…」
オーブがうまい具合いに話を持っていこうとすると
「なんですか?急に」
ってソラが言った。
「…ええ!?普通今の話の流れで分かるでしょ?!」
取り乱すオーブ。
その時
「ケロケロっ?」
オーブの肩にいた蛙が鳴いた。
「やぁ〜ん☆可愛い〜♪」
「はい!?」
豹変するオーブに戸惑うソラ。
「あ、このコ、ワシの"ピンキー"ちゃん♪可愛いじゃろ?」
デレデレするオーブ。
そんなオーブを見て
「願い事決めました」
ってソラが言った。
「おぉ!」
急速に元に戻るオーブ。
「それで―…」
オーブが尋ねようとした瞬間
「早く帰りたいです。」
ってソラが言った。
「「はぁ!?」」
期待ハズレにも程がある発言に、思わず突っ込むオーブとシルエリ。
「ちょっ!?えっ!?何!?今なんつった!?」
オーブが聞き返すと
「早く帰りたいです。」
再び取り乱すオーブにさらりとリピートするソラ。
「…どーしても?」
オーブが聞くと
「どーしても」
コクンと頷くソラ。
「…どーしても?」
「どーしても」
「…どーおしても?」
「どーしても」
「…どーお―…」
「くどいです」
「酷い!!」
オーブの硝子のハートが砕け散った。
「…チッ」
舌打ちするオーブ。
「オーブ様?!」
驚くシルエリ。
「ペッ…しゃーねーな」
唾を吐きながらオーブが言った。
「ま、まさか"アレ"をする気ですか!?」
シルエリが尋ねると
「そのまさかじゃボケ分かってんならさっさと用意しやがれ使えねーなクソ」
シルエリに眼を飛ばしながらオーブが言った。
「ひっ…ひゃいっっ!!」
あまりの変貌ぶりにシルエリの声が裏返る。
「…絶対無理だと思いますケド…」
そんな事を呟きながら、何やら無駄にデカいプレートを持って来たシルエリ。
「…ソラ」
すると、オーブが口を開いた。
「はい?」
ソラが返事をすると
「このプレート読め?」
オーブが命令した。
「…痛い子の背、貝を透く?」
そのまま意味不明の文を読むソラ。
「もっと速くかつ、5回続けて読めよ畜生」
「? 痛い子の背貝を透くいたいこのせかいをすくいたいこのせかいをすくいたいこのせかいをすくいたいこのせかいをすく…」
見事に一度も噛まずに、かつ、スピーディーに読んだソラ。
そして
「…あ。」
何かに気付いたソラ。
しかし、もう遅かったようだ。
「成程な?」
ニヤリと笑うオーブ。
「…っ!!」
青ざめるソラ。
「さっすがソラ様〜♪」
はしゃぐシルエリ。
「そうかそうかこの世界を救いたいか!ワシは嬉しいぞソラ!!」
にこっと笑うオーブ。
「く…!!」
悔しそうに下を向くソラ。
「…だが丸腰では危ない。ピンキーちゃん!」
オーブはそう言うと
「ケロケロっ♪」
「?」
自分の肩に乗っていたピンキーをソラの目の前に跳ばした。
すると
「………ぅぷ」
ピンキーは吐き気をもよおした。
(えええええええええ!?)
自分の顔を見て吐き気をもよおしたピンキーちゃんにショックを受けるソラ。
すると、ピンキーは
「ゲロっっ」
っと吐いた。
が、気付くとそこには言い様の無い気持ち悪い液体では無い物が吐き出されていた。
(…これは)
その吐き出された物を見て
(………………………剣?)
小首を傾げるソラ。
「驚いたじゃろ?」
ソラの心を読んだのか、オーブが口を開いた。
「ワシの可愛いピンキーちゃんは、持ち主にピッタリの武器を吐き出す事が出来事のじゃ」
説明するオーブ。
「蛙が!?」
ソラが突っ込むと
「はい♪ソラ様っ♪これはソラ様の物です〜♪わぁ〜剣ですか〜格好良い〜♪」
にこっと笑いながら、シルエリは吐き出された剣を取って、ソラにそれを手渡した。
(汚…)
シルエリから剣を受け取ったソラがそう思った瞬間
すこっ
「え?」
床が無くなる音がした。
「ええええええええ!?」
絶叫しながら墜落して行くソラ。
「行ってらっしゃいませソラ様〜〜〜!!頑張って下さいねぇ〜〜〜〜〜!!」
シルエリの激励の言葉を聞きながら、ソラは猛烈なスピードで落下していった。
その下に広がる
"ネィバーランド"へ。