のっぺらぼう
狭心症めいた。
「君にね 僕の瞳をあげよう
だってね
僕はもう何も見たくはないんだ」
そうかい
じゃあもらっておいてあげる
何も 見えないほうが 知らないほうが
幸せなのなら
そうしてね
君はもう二度と
あの子を見れなくなるんだよ
それでも
幸せなのなら
「君にね 僕の耳をあげよう
だってね
僕はもう何も聴きたくはないんだ」
そうなの?
じゃあもらっておいてあげる
何も 聞かないほうが 知らないほうが
幸せなのなら
そうしてね
あなたは もうどれだけ願っても
あの愛しい声を聞けなくなるの
それでも
幸せなのなら
「君にね 僕の口をあげよう
だってね
僕はもう誰とも話したくはないんだ」
そうかい
じゃあいただくよ
何も喋れぬ方が
幸せなのなら
けれどね
あなたはあの愛しい子に
想いを告げることも キスすることも
できなくなるんだよ
それでも
幸せなのなら
「君にね 僕の手も足もあげよう
だってね
僕はもう進みたくはないんだ」
そうなの?
じゃあいただくよ
どこへも 行けないほうが 触れないほうが
幸せなのなら
けれどね
あの温かい指を握ることも
一緒に隣を歩くこともできなくなるの
それでも
幸せなのなら
「君にね 僕の脳をあげよう
だってね
僕はもう辛い記憶を持って
生きてなんていけないんだ」
そう?
ならもらっておくね
君がこんな記憶もういらないなら
そうしてね
君は忘れてる
辛い記憶も
幸福な記憶も
絡まりあってることを
一緒に幸福も失うことも
それでも
いいのなら
のっぺらぼうの君は気付くんだ
もう君の世界にはなにもないこと
それでも君は頑なに
それを拒否し続けるのかい?
穢れていようと 堕ちていようと
この世は愛しい
それを知らぬまますべて拒否した
君はいつかそのことに気付くのかな
気付いたところで
拒否し続けるのかな
願わくば
君が望んだように
君の世界が幸せであるよう
君の中に君はある
そうでしょ?