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どうせ酔えない美酒〜 ソーヴィニヨン 〜  作者: メメントモリ


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プロローグ:美酒と嘘つきのブログ

世の中には二種類の人間がいる。  自分がついた嘘を忘れて安眠できる人間と、ついた嘘の重さを律儀に計量して、その重みで不眠症になる人間だ。  僕はと言えば、おそらく後者の、それもかなり「お利口」な部類に属している。


 新宿駅の東口、巨大なアルタビジョンを見上げてみればいい。そこに映っている自信家そうな美女は、非の打ち所がない笑顔で僕らを見下ろしている。彼女は賢い。自分が「花」として讃えられている間、その根っこにある「幹」がどれほど泥にまみれているか、観客には決して悟らせないからだ。


「ねえ、あの人、私に似てると思わない?」


 隣でそう呟いた女の声は、雨の音にかき消されそうだった。午前一時。

眠らない街・渋谷の南側、錆びついた看板を掲げたバーのカウンターで、僕たちは「緑色の液体」を眺めていた。それはたまにしか注文されない、悪趣味な色のテキーラだ。


「どうだろう。君よりは少し、性格が悪そうに見えるけど」


「正解。彼女はフィクションで、私は現実。でも、世界はフィクションの方を愛しているのよ」


 彼女の名前はエリカ。  自称・嘘つきのブロガーで、僕の「唯一の友人」と呼ぶにはあまりに危うい境界線上に立っている女性だ。彼女の瞳は、まるで選び抜かれたソーヴィニヨンのように深くて冷たい。その奥を覗き込もうとすればするほど、自分の中の「理由」を探して切なくなることを、僕はもう知っていた。


「最後は君のミスだよ、エリカ」


 僕はグラスを揺らしながら言った。  彼女が書き殴るブログは、この街の「幹」の部分を暴き出してしまう。隠しておくべき傷を、誰にも触れられないはずの痛みを、彼女は言葉にして、ネットワークという海に放流し続けている。


「ミス? いいえ、これはただの書き損じ。あるいは、神様の居眠りよ」


 彼女は笑うが、その膝に掛けられたプリマヴェージのような柄のブランケットは、小刻みに震えていた。  僕たちは生きている。  絶えず燃えるこの街で、どうせ酔えない美酒を喉に流し込みながら、答えの出ない理由を探している。


 これは、そんな僕らが「無事」でいるための、少しだけ騒がしい夜の記録だ。

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