モクモクが見つけた宝物
ぼくは、雲のモクモク。雨を降らせる雲だ。ぼくが顔を出すと「あ~曇ってきたよ〜雨も降り出しそう。家に帰らなきゃ」「もう少し遊びたかった〜つまんなーい」と迷惑そうな顔をして帰っていく。ぼくはいつもため息をついてはしょんぼりしていた。ぼくって迷惑なの?
ぼくには空に仲間がいる。太陽、風、星、月。ほかにもたくさんの仲間がいるんだけど、ぼくは風のヒュールが苦手なんだ。ヒュールはその時の気分でぼくを追いかけてくるんだ。ヒュールがぴゅ~っとぼくに向かって風を吹かせると、ぼくはみんなのいる街の方へ流れるんだ。すると急に空に広がったぼくを見てはみんなが顔をしかめるんだ。ぼくだって迷惑かけたくないのになぁ…ぼくはみんなに好かれたいし仲良くしたい。でも近づくと嫌な顔されるし…
ぼくの住む場所はトンガリ山。パパとママと一緒に静かに浮かんでるんだ。そんなぼくたちを歌にして子供たちは歌っているみたい。「トンガリ山に風がふきゃ、雲がやって来て雨が降る 早く逃げろよ雨降るぞ〜 遊びはこれでおしまいだ 晴れたらみんなで遊びましょう」
なんて歌だ。ぼくたち家族は相当嫌われてるじゃないか。
そう言えば前にヒュールが言っていた。
「西の街のアンバータウンじゃあ、もう長い間雨が降ってなくて困ってるそうだ。みんなお祈りしてまで雨を待ってるらしいぞ」って。それならぼくは旅に出よう。ママたちには内緒の一人旅。いっつもママは「自分の好きにしなさい」が口ぐせだしね。
初めての一人旅だ。空を飛ぶ鳥たちにアンバータウンの場所を聞きながらやっとたどり着いた。すると空を見上げていた子供がぼくを見て大声で叫んだ。
「雲さまだ!雲さまどうかぼくの街に雨を降らせてください。お願いします。」手を合わせ頭を下げてぼくに言ってきた。
えっ?こんなに歓迎されたのは初めてなんだけど!嬉しくなって言われた通り雨を降らせた。
すると子供は「お父さん、お母さん、雨だよ!雲さまが来てくれた!雨を降らせてくれたよ!」といそいで呼びに行った。その子のお父さん、お母さんが走って家から出てきて「雲さま、ありがとうございます。」と何度も頭を下げた。ぼくはなんだか自分のことが誇らしくなった。こんなに感謝されて、ぼくのしたことを喜んでもらえて、今日は雲で良かったと心から思えた。場所が変わるとこんなにも違うんだ。
ぼくが嬉しい気持ちでいっぱいでいると、さっきの子供がやってきた。ぼくを見て「雲さま。ぼくはダッシュと言います。さっきは雨を降らせくれてありがとうございました。雲さまのおかげで街は救われました。本当にありがとうございました。」
それを聞いて「そんなに喜んでもらえると照れるなぁ…あとぼくはモクモクって言うんだよ。雲さまなんて呼ばないでモクモクって呼んでよ。ぼくは友達が欲しいんだ!」そう言うとダッシュが「じゃあモクモク今日から友達だね!ヨロシク!」そう言うと大きく手を振ってくれた。
アンバータウン最高!! 来て良かった。
アンバータウンは居心地が良かった。誰もぼくを嫌がらない。それどころか恵みの雨を降らせてくれると感謝されている。ここは本当に住みやすい街だ。でもやっぱりパパとママに会いたくなるな…ちょっと淋しくなってきた。
そんなある日ダッシュがかけよってきた。「モクモク〜今度街で収穫祭をやるんだ!そこでは歌や踊りもやるんだよ!見に来てくれよ!」と嬉しそうに誘ってくれた。「お祭り?誘われたのも初めてだし、歌や踊りを観るのは好きなんだ!必ず行くよ〜」と約束した。
初めての約束だ。ワクワクした。そしてあったかい気持ちになった。友達っていいな。アンバータウンに来て本当に良かった。
ぼくはこの街を潤すために頼まれたらいつだって雨を降らせた。田畑は元気になり街の人は喜んだ。トンガリ山の下の街アクアタウンはどうなってるかな?パパやママに何も言わずに旅に出てしまった。なんだか気になってきたな〜
いよいよ街の収穫祭が来た。ダッシュ達は一生懸命練習した歌と踊りを見せてくれるんだ。楽しみだなぁ~ワクワクするよ。
初めに街の偉い人が話をした。「今日は待ちに待った収穫祭です!今年はモクモクのおかげでいつもより沢山の野菜や果物、穀物が実りました。どうもありがとうございました。街中の人々の生活を豊かにしてくれたお礼に歌と踊りを贈りたいと思います。どうか最後まで楽しんでください!」開会の挨拶が終わると盛大な花火が上がり収穫祭が始まった。
まずは女の人達の歌、みんな綺麗な優しい声でとても癒されたんだ。ママを思い出したな〜。
次は男の人達。力強い踊りとかけ声で今年の豊作を祝った歌。みんな楽しそうで、ぼくはテンション上がったよ!やっぱり大人の男の人ってパワフルだよな〜ぼくのパパみたいだ!
そしていよいよダッシュの出番だ!待ってました!ぼくはもう何日も前からこれを楽しみにしていたんだ!だって初めてできた友達なんだ!ダッシュにはわからないだろうな〜ダッシュは友達が沢山いるみたいだからな。ぼくを見つけてくれたダッシュ。友達になってくれた初めての子なんだ。必要とされて初めてぼくは自分を好きになった。それがどれだけ嬉しい事なのかダッシュには分からないと思う。これはぼくにしか分からない気持ちなんだ。ありがとうダッシュ。いつまでも大切にするよ。ダッシュとこの街を。
そして、ダッシュたちの歌が始まった。
トントコトントコ トントコトントコ太鼓の音が鳴り響く
トンガリ山に風がふきゃ雲が流れて雨が降る
早く逃げろよ 雨降るぞ 遊びはこれでおしまいだ 晴れたらみんなで遊びましょう
え?この歌アクアタウンの子達が歌ってた歌だ!なんでダッシュが歌ってるんだ!ぼくはこの歌悲しくて苦手なのに…楽しみにしてた歌、この歌だっただなんて…
ぼくは歌の途中だけど帰りたくなった。後ろを向いてそっと帰ろうとしたその時、突然ヒュールが「モクモク!まてよ!よく聴け!この歌最後まで聴くんだ!」そういってヒューっとぼくを吹いてダッシュの方に向かせた。すると2番が始まった。
トンガリ山に風がふきゃ雲が流れて雨が降る 恵みの雨だ ありがたい これで田畑も喜ぶぞ 晴れたら元気に一仕事
トンガリ山に風がふきゃ雲が流れて雨が降る 雨が上がって虹が出て あぁ素晴らしいこの景色 天に向かって感謝しよう
ぼくは泣いていた。ああ、ぼくは知らないだけだった。天にあるもの全てに対する大きな感謝の歌だったなんて。ぼくは心から感動していた。涙が雨となった。今日の雨は太陽の光もあって、とてもキラキラして見えた。街の人達は「お天気雨だ〜いいことありそう!」と、喜んでいた。ダッシュが駆け寄ってきて「どう?モクモク!一生懸命練習したんだ!モクモクに聴いてほしくて!」と目を輝かせて言った。ぼくは「ありがとう。本当に今日は最高の日だよ」とまた泣いた。そういえばヒュールは?と振り返るとヒュールはニヤニヤと笑っていた。「そろそろトンガリ山に戻ってこいよ!パパさん達待ってるぜ〜ママさんなんてたまにモクモクは何も言わずにどこ行った?って雷落として大変だったんだぜ〜」と苦笑いしていた。でもぼくはダッシュともアンバータウンとも別れたくなかった。ぼくが下を向いているとヒュールが「なーにも心配はない。いつでも来れる。ヒュール様がぴゅ~とすればひとっ飛び!すぐにここに戻れるさ!さあ一人旅はそろそろ終わらせて、もといた場所へ帰るんだ」そういうと、優しくうなづきながら笑った。苦手なヒュールが今はとても優しくて頼もしく見えた。あの時歌の一番だけ聴いて帰ってしまったら、ぼくは何もかも失っただろう。ヒュール本当にありがとう。きみも大切な友達だ。そしてぼくは帰ることに決めた。
「ダッシュ、街のみんな、今までありがとう!ぼくはここに来て自分のこと好きになれました。そしてぼくは迷惑をかけてるだけじゃないってわかった。ぼくはぼくの出来ることに気づけたよ!ぼくもみんなにとって意味のある存在なんだって誇りを持てたよ。ありがとう。ぼくは帰ります。でもまた必ず来ます。雨が必要なときはいつでも呼んでね!それまでどうかお元気で!」
ぼくは大きな声で挨拶してヒュールに思いっきり吹き飛ばすようにお願いした。お別れはちょっと辛いからね。「よし、じゃあ帰るぞ~みなさんお元気で〜またモクモクが来たら相手してあげてくださいね〜」そうヒュールが言うとダッシュ達は泣いて手を振った。手がちぎれそうなくらい大きく力強く振っていた。「バイバ〜イ!モクモク〜必ずまた来てね〜モクモクはこの街の恩人だよ〜ありがとう」それを聞いてぼくがうなづくとヒュールが「ではまた〜」と言いヒューっとぼくに向かって力強く吹いた
ヒューヒューブワァー
ヒュールの勢いでぼくはあっという間にトンガリ山に着いた。パパが気づいた。「おかえり〜ずいぶん長い一人旅だったね」と優しく迎えたくれた。ママはどこ?と探すとブツブツ話し声が聴こえて見てみるとママだ。でもなんだかビリビリしたものが…雷か?そっと近づくと「まったくまだ帰ってこないのかしら〜心配させて!でもいつも私が好きにしなさいって言っちゃってるからね〜それにしても遅い!」ブツブツ、そしてビリビリ。雷を落とすほどではないけどちょっとビリビリが見え隠れしてる状態だ。これだ。ヒュールが言ってたやつは。みなさんゴメンナサイ。少し怖い思いさせましたか?もう大丈夫。雷はおさまるでしょう。
そして「ママただいま〜」と言うと、振り返ったママからはビリビリが一瞬で消え、その代わりに大粒の涙が…山には大雨注意報が出されそうだ。「一人旅長かったわね!心配したのよ!何も言わないで出かけて困った子ね」とぼくを抱きしめた。ムギュ〜と久しぶりに感じたママの感触。やっぱりここがぼくの居場所なんだ。
ぼくは旅の間に起きたことを沢山話した。旅に出ようと思ったきっかけや傷ついたこと。そして、出会った初めての友達ダッシュのことや、街の人たちから感謝されて自信を持てたこと。その街の収穫祭であの嫌いだった歌が歌われて帰ろうとしたこと。それをヒュールが引き止めて最後まで聴いたら本当の歌の意味を知れたこと。そしてヒュールが本当はいい奴だったこと。この一人旅はぼくの大切な旅だったことと、旅を途中でやめさせなかったパパやママにもお礼を言った。きっといつだって連れ戻せたのに待っててくれた。ぼくを信じて。これからはアクアタウンの子供たちとも仲良くできたら一番良いのになぁ…とぼくが思っていたら、ヒュールが「あのさ〜モクモクが見えなくなって子供たちが話してたから言っておいたよ。あの歌の一番しか知らないのかって。大人に聞いて最後まで覚えて歌ってみなって。モクモクは一番の歌詞を聴いて傷ついて旅にでたんだぜ!って言ったらしばらくしたら最後まで歌えるようになってたよ。あいつらも何か考えてんじゃないのかな?ちょっとしたことで、傷つくこともあるし、そのせいでいなくなる奴もいるってね。」ヒュールがそう言うと山のすぐ下に子供たちが集まっているのが見えた。一番背の高いリーダーのスカイが手を振っている。大勢の子供たちも一緒だ。そして
「モクモク〜傷つけてゴメンナサイ!あの歌は一番しか知らなかったんだ。モクモクを傷つけるなんて思わずに歌っていたんだ!ゴメンナサイ!僕たちヒュールに言われて大人たちに聞いて最後まで覚えたんだ!聴いて欲しいんだ」と言うと大きな声で歌い始めた。
トンガリ山に風がふきゃ雲が流れて雨が降る
早く逃げろよ 雨降るぞ 遊びはこれでおしまいだ 晴れたらみんなで遊びましょう
トンガリ山に風がふきゃ雲が流れて雨が降る 恵みの雨だ ありがたい これで田畑も喜ぶぞ 晴れたら元気に一仕事
トンガリ山に風がふきゃ雲が流れて雨が降る 雨が上がって虹が出て あぁ素晴らしいこの景色 天に向かって感謝しよう
ぼくはまた泣いた。雨が降ると分かっていても泣いた。もう雨が降ることなんて気にしない。みんなから嫌われてない事が分かったから。歌が終わると太陽が出てきて空には雨上がりの虹がかかった。
ぼくは雲のモクモク 雨を降らせる雲だ 迷惑をかける時もあるだろう でもそれだけではない 人々を助けるための雨を降らせることだってできる ぼくの感じ方一つで生き方が変わるんだ 生きていれば避けようもなく人に迷惑をかける時もある
でも役に立つ時もある それがぼくが見つけた答えだ この答えはぼくに自信をくれた宝物だ ぼくはこの宝物をもって生きていく
これがぼくの生き方だ




