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原点禁書――The Zero’s Forbidden Codex  作者: トランス☆ミル
第二章 神話

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第二十篇 ミスパールの苦悩

 『秩序』を司る大君主オーバーロードミスパールは苦悩していた。


 その理由は、ただ一つ。『混沌』を司る大君主オーバーロードジェスト。


 ミスパールにとって、ジェストは妹にあたる概念体だった。


 同じ三位概念から派生した大君主たちは皆、兄弟姉妹のような存在である。しかし、その中でも秩序と混沌は、互いが互いを成立させる表裏一体の概念。


 故に、二柱は姉妹として結び付けられていた。


「また世界が溢れている……」


 ミスパールは静かに額へ手を添える。


 ジェストの創り出す世界は、あまりにも自由だった。


 法則は一定せず、因果は気まぐれに捻じ曲がり、境界は曖昧になる。


 本来であれば一つの世界として完結するはずの混沌は、その勢いのまま他の世界へと滲み出し、侵食を始める。


 その度にミスパールは現れ、乱れた構造へ秩序を与えた。


 境界を定め。法則を固定し。崩れかけた世界を、世界として成立させる。


「せっかく作ったのに……何してんだよ」


 そう言うジェストに対し、ミスパールはただ静かに息を吐くだけだった。


 それだけではない。ジェストは気に入らないことがあれば、すぐに他の大君主オーバーロードへ突っ掛かる。


 モートには「暗すぎる」と笑い、ロウには「熱苦しい」と茶化し、ラプラスには「面倒」と言い放つ。


 その度に仲裁へ入るのも、決まってミスパールだった。


「ジェスト。貴女はあくまで世界の大きな歯車。その歯車を乱すことは止めなさい」


「うるさいな、ミスパール。何をやろうと、俺の勝手だろ」


 そんなやり取りが、何度繰り返されたか分からない。


 それでもミスパールは、ジェストを見捨てることはなかった。




 だが、ある日。事件は起きた。


 ジェストは、天界ヘブン第七階層へと赴く。


「気に入らないな、ザイオン。この世界にはもっと混沌が必要なのに、お前は調和のためにしか創造しない」


 ジェストは、ザイオンの元へ行くと、不満そうにザイオンを見上げた。


「それを僕に言って、どうする気だい?」


 静かな天界ヘブンに、両者の声が響いた。


「ザイオン、勝負しよう。今、ここで」


 ジェストが告げる。それは宣戦布告だった。


 ジェストの放つ混沌のオーラは、大地を揺らし、空間を砕く。


「落ち着け、ジェスト。そんなのが、認められるわけないだろう」


 ザイオンは困惑する。


 これは単なる喧嘩ではない。


 秩序を乱す行為。


 そして何より。大君主オーバーロードは、世界のシナリオへ直接干渉してはならないという戒律に、抵触しかねないものだった。


「――そこまで」


 そんな中、一つの声が響く。


 ミスパールだった。


「ジェスト」


 穏やかな声だった。しかし、その声には秩序そのものが宿っていた。


「これ以上は、許されません」


 その刹那、幾重もの光がジェストを包み込む。


 鎖ではない。檻でもない。秩序そのもの。


 世界を定義する法則が、混沌を優しく拘束した。


「くっ、放せミスパール!」


 暴れようとも、秩序は揺るがない。


 ジェストは抗議するが、ミスパールは首を横へ振る。


「混沌とは本来、可能性を混在させる変化への起点。無闇に秩序を乱し、壊すものではありません」


 その言葉に、ジェストもそれ以上は抵抗しなかった。




 それからほどなくして、大君主オーバーロード会議の招集される。


 秩序。混沌。生。死。そして数多の概念が、一堂に会した。


 今回の件を受け、大君主オーバーロードたちは改めて話し合う。


「僕たちにも意思が宿っている以上、互いに思うところがあるのは自然なことだ」


 始めに、ザイオンが口を開く。


「しかし、それを世界へ持ち込むことは許されない」

 

 それに、変化を司るアナストロも続いた。


 しばしの沈黙。やがて、一つの結論へと至る。


「不平不満があるなら、公の場で決着を付ければいい」


 そう提案したのは、性質を司るオールだった。


 私情を世界へ持ち込まない。戒律を守る。互いを尊重する。


 その全てを満たす方法として、大君主オーバーロードたちは決議した。


 個々に対して不平不満がある者は、公の場で正々堂々と決闘を行うこと。


 世界へ干渉せず。私怨を持ち込まず。力と信念のみで決着をつける。


 この決議は、後に長い年月を経て一つの催しへと発展する。


 概念と概念が競い合い、互いを理解し、親睦を深める祭典。


 後世の世界では、こう呼ばれることになる。


 ――大君主オーバーロード親善大会。


 その始まりは、一柱の姉が、一柱の妹を止めた小さな出来事だった。

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