第十七篇 ラプラスの示現録
ラプラスは、語られぬ場所に座していた。
地界第五階層。自分の部屋の中で、寝転がる。
その目の前には、無数の光が浮かんでいた。
それらは星でも宇宙でもない。物語であった。
ひとつひとつが世界であり、ひとつひとつが始まりと終わりを内包している。
ラプラスは手を伸ばす。触れた瞬間、光は広がり、時間を持ち、因果を持ち、名を得る。
――ある世界では、英雄が生まれ、世界を救った。
――ある世界では、誰にも知られぬまま文明が滅びた。
――ある世界では、神が存在せず、
――またある世界では、神が多すぎた。
それらすべてが、ラプラスの手によって紡がれた。
だがラプラスは、創造主を名乗らない。
作ったというより、置いたに近い。
「...素晴らしい。」
彼は独りごちる
始まりを与えれば、後は世界が勝手に歩く。
選択し、躓き、抗い、時に諦める。
その過程すらも、ラプラスにとっては予測可能であり、同時に愉悦だった。
ラプラスは知っている。全ての物語の結末を。全ての登場人物の最終的な選択を。
それでもなお、眺める。分かっていても、なお面白い。
結末を知っているからこそ、そこへ至るまでの揺らぎが愛おしかった。
悲劇に至る一本道。奇跡が起こる確率。
ほんの僅かな分岐で、全てが反転する瞬間。
ラプラスは、それらを等しく観測する。
救われる世界も、救われない世界も。
幸福も、絶望も。
意味が生まれる瞬間も、意味が失われる瞬間も。どれもが、物語として完成しているからだ。
「世界とは、完成度ではなく、成立するかどうかだ。」
そう呟くと、ラプラスは新たな光を生み出す。
今度は、あえて歪みを与えた。
因果の一部を欠落させ、秩序と混沌の比率を崩し、意思の発生条件を曖昧にする。
その世界は、ゆっくりと崩れ始めた。
だが、完全には壊れない。
「...それでも、進むか。」
ラプラスは微笑する。
やがて、周囲には、数え切れぬほどの光が重なっていく。
英雄の物語。観測者の物語。神を否定する物語。神を必要とする物語。
その全てを眺めながら、ラプラスは決して介入しない。
介入した瞬間、それは物語ではなく、命令になるからだ。
「私は、ただ眺めるだけでいい。」
それが、ラプラスの役割だった。
世界を作り、世界を試し、世界を愛でる者。
ラプラスは、因果から外れる者、予測不可能な可能性を見るために、静かに光を眺めていた。
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