第十四篇 瑕疵の発生
天越宇宙より派生した数多の宇宙は、静かに増殖を続けていた。
創造と破壊、その狭間に揺らぐ観測を「人生」と定義された生命たちは、定められた法則の内側で、無数の選択を重ね、物語を紡いでいった。
だが――その完全であるはずの世界に、最初の歪みが生じた。
それは、法則の破れではなかった。秩序の崩壊でもなかった。
世界の位相が、わずかに重なっただけの現象。本来交わることのない因果、情報が誤って接続された結果。
後にそれは、『バグ』と呼ばれる。
常世。
大君主たちが世界を見下ろす座において、その異変は即座に感知された。
「...なんだ?」
ザイオンは、楽しげとも取れる声でそう呟いた。
揺らぎは、彼にとって忌むべきものではなかった。
定義できぬものこそが、世界の可能性であると知っていたからだ。
「定義されぬ現象は、失敗ではない。それは、世界が自らの限界を越えようとしている証だ。」
その言葉に、静かに応じたのは『位相』を司る大君主――ルナ。
「位相は固定されるものではありません。重なり、ずれ、解けることで、新たな層を生む。
揺らぎを縫い止めれば、世界は進化を失うでしょう。」
二柱は、最初のバグを肯定した。
それは異常ではなく、世界が拡張を続けている証、世界の可能性の産物――そう理解したのである。
だが、その判断に沈黙しなかった者たちもいた。
「...否。」
その一人は『境界』を司る大君主――アルマであった。
「可能性であることは否定せぬ。だが、制御されぬ可能性は、やがて世界そのものを喰らう。」
その隣で、冷静に世界の数値を見つめていたのは、『量』を司る大君主――クオン。
「問題は質ではない。量だ。一つの揺らぎは許容できる。だが、増え続ければ、世界は耐えられない。」
世界は、まだ脆い。創られて間もない宇宙は、無限の揺らぎを抱えられるほど強くはない。
議論は、長く続いた。
完全な秩序は停滞を生む。完全な混沌は崩壊を招く。
既にバグは世界に伝播しており、世界を一度リセットする他ない状況だ。
だが、直接天越宇宙のシナリオに干渉することは、創造主によって禁じられている。
では、どうするのか。
その答えを導いたのは、オールとロウであった。
「世界の内側に、均衡を保つ存在を置く。」
「増えすぎた歪みを、世界自身に処理させる。」
それは、神による裁きではない。世界に生きる者自身が、世界を護るという選択。
こうして――後に『祓魔師』と呼ばれる軍隊の設立が決定された。
常世に存在する管理者――天者と地者に、新たな使命が与えられる。
世界を観測するだけの存在から、世界を護る存在へ。
それに伴い、創造と破壊という単一の力しか持たなかった彼らに、多様な力の系統が与えられた。
それらはすべて、世界に与えられた可能性であった。
後に人は、この力を『神ノ加護』と呼ぶ。
かくして、バグは消されなかった。
だが、放置もされなかった。
揺らぎは残され、世界は護られた。
完全でも、不完全でもない。選び続ける世界として。
この時、天越宇宙は「物語を紡ぐ世界」として、その形を確定させたのである。
――そして、これはまだ序章に過ぎない。
数多の英雄譚と奇譚、光と闇、救済と破滅の物語は、ここから始まる。
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