第十三篇 楽園創世書
宇宙に生命が満ち、物語が数え切れぬほど紡がれし後。
ザイオンは、天越宇宙全体を見渡し、かく宣した。
「宇宙における生命の生活を、この天越宇宙全体に再現したい。」
それは、管理されし世界ではなく、試されし世界でもなく、力なき者が歩み、選び、積み重ねることで形作られる、楽園の構想であった。
ロウとモートは、その意図を理解し、計画に参与した。
そして、大君主による会議が開かれ、議論の末、一つの結論が導き出される。
――力は、遍く与えてはならぬ。
常世の住人は、創造と破壊に由来する力を持つが故に、世界を容易く歪める。
故に、権限は限定されねばならぬ。
選ばれし者のみに力を与え、それ以外の者には、力なき自由を与える。
この思想をもとに、創造主の力を使い、天越宇宙の構造を部分的に改変した。
だが、その改変の過程において、極めて微細なる歪みが生じた。
それは、概念にも満たぬほど小さく、無に等しき欠落であった。
しかし後に、それは世界を蝕む厄災――『バグ』と呼ばれるものの萌芽となる。
されどこの時、大君主はその歪みを顧みなかった。
彼らは概念であり、全知全能の外側に在りし者。
世界を完全に統べるよりも、世界を楽しむことを選んだが故の、最初の不覚であった。
やがて彼らは、世界を最小限の干渉で維持するため、新たなる仕組みを定めた。
これが、『アカシックレコード』、および『GOD』と呼ばれる管理体系である。
宇宙や多元宇宙といった構造と構造の狭間に、ボイドを設け、そこに世界を自律的に管理する情報構造を配置した。
この時より、世界は「直接統治」から「記録と観測による管理」へと移行した。
次いで、創造主の力により、存在の階梯が定められる。
【常世における存在】
『天者』。『地者』。
極低確率にて、権限と特殊な力を授かる管理者的存在。
『天人』。『地人』。
力を持たぬ、生活者としての存在。
【現世における存在】
現世には、力を授かる者は存在しない。
代わりに、人の中より権力を得た者に、大君主が間接的に権限を与える。
これにより、現世は完全なる観測領域として保たれた。
かくして、天越宇宙は発展し、国家が生まれ、文化が芽吹いた。
地界には魔力を持つ魔獣が、天界には神力を宿す神獣が生まれ、亜人、獣、人、植物、あらゆる生命が混在する世界が完成した。
階層ごとに文化は異なり、信仰は分かれ、価値観は多様化した。
それこそが、大君主が望んだ可能性の楽園であった。
やがて、大君主十四柱は、今後の在り方を定めるため、再び会議を開いた。
議題は一つ。
――我らは、世界に留まるべきか。
ザイオンは告げた。
「世界を護りつつ、人々の一員として生きたい。」
多くの大君主は賛同したが、『操作』を司る大君主――インペル、『混沌』を司る大君主――ジェストは反対した。
インペルは、自らが上位存在に縛られている事実を認めたくなかった。あらゆる権能を捨て、下位の世界の一員になろうなど言語道断であった。
ジェストも似たような意見であり、ただただ、興が乗らないとのことだった。
大君主のまとめ役で、リーダー的存在であったインペルの意見は重かった。
されど、『性質』を司る大君主――オールの一喝により、議論は収束する。
最終的に、全会一致にて、ザイオンの提案は受け入れられた。
ただし、一つの制約が課された。
――大君主は、天越宇宙のシナリオに直接干渉してはならぬ。
これは、世界の均衡を保つための、最低限の戒律であった。
だが根幹を揺るがさぬ限り、自由は許される。
かくして、天越宇宙において、仕組みは定まり、神々は地に降り、物語は神話となった。
大君主は、階層の守護者となり、支配者となり、世界の一員となった。
これを、後世の者はこう呼ぶ。
――"神話の時代"の始まり、と。
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