第十篇 物語創世記
天越宇宙が、三つの領域へと分かたれし時。創造主は、創造と破壊を司る二つの領域――常世にのみ、大君主を遣わした。
始まりを与える者。終わりを与える者。概念を具現化する者。
彼らは、世界を維持し、導くための管理者として生み出された存在である。
明確な意識を持った概念体化身である大君主は、自身を起源とし、常世に最初の人を生み落とした。
それは、創造と破壊の力を持った世界の管理者であった。
ただ一つ――観測を司る第三の領域。現世のみは、例外であった。
現世に生み落された彼らは、世界を創る者ではない。世界を壊す者でもない。ただ、世界を「観る」者だ。
こうして、世界にまた新たな可能性の形が形成された。
そしてこれこそが、天越宇宙における"創世の時代"の始まりである。
やがて、大君主たちの手により、常世は繁栄を極めた。
天界は秩序を得、地界は変化を宿した。
その最中――一柱の大君主が、新たな提案を口にする。
「数多の宇宙を創ろう。」
そう告げたのは、『生』を司る大君主――ザイオンであった。
「原初宇宙を雛形とし、我らの世界のごとく、人を生み出すのだ。
創造と破壊の狭間に揺らぐ観測を、『人生』として歩む生命を。あらゆる可能性を内包した、物語を創ろう」
創造より派生した概念を司るザイオンは、世界を創ることを娯楽とし、発展そのものを望む存在であった。
原初宇宙に組み込まれた、人が生まれ得る設計。
それは彼の心を強く打った。
その言葉に応えたのは、『死』を司る大君主――モート。
「創造と破壊の間に生き、必ず終わりを迎える生命か。」
モートは、しばし沈黙した後、静かに頷いた。
「...良い。それは、実に面白い。」
かくして、大君主による世界拡張計画が始動した。
その後、計画の進行と共に、多くの大君主が創造に携わった。
中でも中心となったのは、『因果』を司る大君主――ラプラスである。
ラプラスは、全てを見通す特殊な『全知の眼』を有していた。
それにより、無数の可能性を同時に観測し、破綻せぬ最適解のみを選び続けた。
「概念の配置、設計、シナリオ――おおよそ完成だな。」
そう呟いたラプラスの背後で、『定義』を司る大君主――ロウが口を開いた。
「全ての宇宙で、同一の法則を敷く必要はないだろう。
法則を変えれば、結末もまた変わる。」
同じ選択であっても、世界が違えば、結果は異なる。
それこそが、可能性の本質であった。
ザイオンは、その言葉に深く頷く。
続いて、『秩序』を司る大君主――ミスパールが、静かに告げた。
「ならば私は、最低限の枠組みのみを残しましょう。
世界が壊れぬための秩序だけを定め、それ以外は、生命の選択に委ねます。」
力は与えない。永遠も与えない。知識さえ、最初は与えない。
ただ一つ――可能性のみを与える。
それは秩序であり、同時に混沌であった。
そして――天越宇宙誕生の時より存在する、原初宇宙。
その一角、名もなき惑星に、微かな揺らぎが生じた。
「...始まったか。」
ザイオンが、息を呑むように呟く。
揺らぎは形を得、形は意味を持つ。
最初の生命の誕生である。
それは弱く、脆く、短命であった。
世界の理に抗う力もなく、概念を理解する知恵も持たず、ただ生き、やがて終わる存在。
「...これが。」
モートが、静かに言葉を落とす。
「面白いな。」
ロウは、かつてない光景を前に、わずかに微笑んだ。
それから、やがて生命は増え、群れを成し、進化し、言葉を持ち、他者を意識するようになった。
彼らは、自らを人と呼んだ。
原初宇宙に組み込まれた設計は、完璧であった。
故に、大君主が創りし宇宙に生まれた生命には、必ず人が現れた。
こうして――世界を構成する最小単位として、「宇宙」が確定した。
この瞬間、宇宙における物語は、正式に始まったのである。
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