飛世界特急:初乗車
『まもなく終点高須子。終点高須子。ご乗車されましたお客様は座席に荷物の置忘れが無いよう気をつけてお降りください』
部員の会話盗み聞きから始まり、空き教室で美純という女子からは嫌疑をかけられ、生徒会長にも目を付けられた俺は、なんとか波冶駅に戻り高須子行きの電車に乗っていた。
「結局部員さんたちはやる気そこそこあるように見えたけど?」
邑石は車両の壁にもたれ掛かったまま俺に確認してきた。
「俺もそう見えたよ、漫画研究部自体にやる気があるのは確かだと思う」
「じゃあなんでさっきそう答えてくれなかったの? 『やる気と言ったら......』ってなんか意味ありげな感じ出してたじゃん」
さっき部室の前で邑石に問われた時は勿体ぶって意味ありげに答えようとしたが、それは部室の近くにいた自分が部長として振舞わなければならないと感じていたからだった。
しかし今、俺がいるのは電車の中。
波冶高校の学生でなければ俺が部長であることを知る者はいない。だから冷静になって部長ではなく一個人として部員たちの気持ちを考えてみると、勿体ぶるほど重要でもなく、全く非難できるものではなかった。
「やる気があるって言っても、部の存続のために俺がやろうとしていた事とはまた別のことに対して向けられたものだったんだよ」
「簡単に言ったら、音楽バンドとかでよく聞く方向性の違いってやつ?」
「まぁそんな感じ。でもうちがやってるのは音楽じゃなくて、ただの部活だけどね」
自分で分かりやすく言い換えたことで納得したのか、邑石は腕を組み頭を上下に振った。
ガガーッ。
終点高須子駅に着いたことで扉が開いた。
話に夢中で準備ができていなかった俺たちは荷物を両手で雑に抱きかかえて急いで降車した。
「いやーでもなんだかんだそういうのって上手くまとまる物じゃない? 私の勝手なイメージだけど」
まだ話を続けていた邑石は、珍しい灰色の三人掛けのベンチに座った。
「俺もなんだかんだ丸く収まるんじゃないかなって心のどこかで思ってるけど、でも部の存続が掛かってるからさ......やっぱり皆にはそっちにもやる気を出してもらいたいんだ......ってあれ? こんなベンチあったっけ?」
「あれ、確かに。まあ気にしなくていいでしょ。それで部員の皆にやる気を出してもらうにはさ......」
ブーーーッ。
邑石の続けようとした言葉を大きな音がかき消す。
その音がする方、さっきまで俺たちが高須子行きの電車に乗って通ってきた線路の奥から、灰色の列車がホームへと入ってくる。
『まもなく飛世界特急が参ります。ご乗車されるお客様は今一度確認をお願いします』
飛世界特急と呼ばれたその列車は、俺たちのいる乗り場へと入ってくる。
そして、見たところ3両ある列車の最後尾の車両がこの灰色のベンチの前に停車した。
「なに? 飛世界特急って? こんな灰色の無機質な列車初めて見たんだけど」
入ってきた列車の異質な外観に俺が圧倒されていると、車両の扉が全て開き、その一番後ろから灰色のスーツを身に纏った初老の男性がこちらへと歩いてきていることに気付いた。
その男性は灰色のベンチに座る邑石の横で立ち止まり、俺と邑石を一瞥した後、列車へと誘導するように右手を横に出した。
「定刻通りに運行するためにお客様には迅速な乗車をお願いしております」
その男性から発せられたのは俺たちをこの列車の乗客として急かすような言葉だった。
「えっ、えっ、えっと......どうする?」
急かされ、焦り始めた邑石がこちらに不安そうな顔を向けてくる。
「え、わかんないけど......とりあえず乗っとく?」
俺がそう言うと、邑石は灰色のベンチから立ち上がり列車の方へと歩き始め、同時に灰色のスーツを着た男性も車両の一番後ろへと戻っていった。
少し遅れ、慌てて邑石の後を追って列車に乗り込んだ瞬間、扉は勢いよく閉まり、目的地を告げるアナウンスどころか確かに車内にいるはずの乗客誰一人の声も聞こえないまま、列車は動き始めた。
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