知り合いでもない人に愚痴るのは気が引ける
「愚痴......聞いちゃった」
俺と同じベンチに座る女子学生は、その美人な顔つきに似つかわしくない不敵な笑みを浮かべながら俺に言った。
「あ......すみません。自分一人だと思っててデカい声で愚痴っちゃってました。忘れてください......」
名前も知らない他人に愚痴を聞かれるのは、相手にとっても俺にとっても気持ちの良いことではない。
俺が謝りながら昨日と同じ量の荷物を背負ってホームの一番奥まで逃げようとしたその時、
「待ってよ。私その愚痴の続き気になるなあ」
女子学生が先ほどよりも一回り大きな、そしてどこか楽しんでいるような声で俺を呼び止めた。
振り返ると、女子学生は先ほどよりも悪い笑顔でこっちを見つめていた。
「へえ......漫画研究部って今一年生しかいないんだ。だからまだ四月中旬なのに君が部長やってんだね」
「まあ......はい」
結局俺はさっきまでいた位置に座り直して、呟いていた事の詳細を女子学生に話し始めた。
知り合いでもない人に愚痴るのは気が引ける、というか常人ならそんなことするわけないのだが、俺はこの女子学生の悪い笑顔の圧に押し負けてしまい、愚痴るしかなかった。
美人が悪い笑顔を見せるとこうも強制力が働くのかという感心もあったが、そもそも俺が断り切れない性格なのがこの状況を招いた要因だった。
「それで.....一年生だけの力で頑張ろうとしたけど部員が協力してくれなくて、さっきみたいに一人で愚痴ってたんだ」
「......はい、そうです」
あっちから愚痴を聞きたいと言ってきたのに、いつの間にか俺は罪を自白するように敬語で話していた。
「それさ、ちゃんと部員の皆と会話はできてるの?」
今まで俺の愚痴を聞いて簡潔にまとめてくれていた女子生徒が初めて俺に問いかけてきた。
「そりゃあ会話はしてますよ。学校にお願いして見せてもらった過去の活動記録を参考に、これをやろうって決めて、皆が賛成か反対かどうか聞いたり」
「それただの意思確認じゃん。会話じゃないでしょ」
女子学生が少し鼻で笑いながらツッコんできたので、俺は少しムッとした表情で問い返した。
「じゃあ、会話ってどんなことを指すんですか」
「そうだなー、例えば好きなものの話をするとか、漫画研究部に入ってどんな活動がしたいの?とか」
女子学生は前方の空を見上げながら答えた。
「そんなことなら入ったその日から話して......あれ」
すぐに反論しようとしたが俺の言葉は最後まで続かなかった。
そんな俺の心を読んだのか、女子学生は言った。
「多分、そういうことでさえ話してなかったんじゃない? 部活としての活動をすることに必死になりすぎて」
「そういえばそうだったかも......部の立ち位置的にちゃんと活動記録を残さないとすぐ廃部になるからって言われてて、それでなにか活動記録を残すことに必死になりすぎてたのかも」
「でしょ? だからさ、君は今から回れ右してこの駅を出て、学校に戻ってちゃんと部員の皆と会話してみるべきだよ」
女子学生は親指を上げた右手をぐっと俺の前に突き出し、鼓舞してくれた。
その思いに動かされた俺は、荷物を再び背負ってホームの出口へと向かおうとした......が、ベンチを離れる前に女子学生の方を向いた。
「何? どうしたの? ......あ、もしかしてもう部員との仲が険悪だからついてきてほしいとか?」
俺の思っていることを完全に言い当ててきた。この女子学生は俺の心をどこまで読んでいるのだろうか。
女子学生はベンチから立ち上がり、驚いて固まっていた俺の腕を掴んでホームの出口へと走り出した。
「そういえば名前言ってなかったね! 私1-6の邑石咲璃! 君は1-3の......何君だっけ?」
走りながら俺の方を振り返って、邑石は尋ねてきた。
「鹿原陽! よく俺のクラス知ってたね」
俺が尋ね返すと、邑石は前を向いたまま顔を傾げて、
「あれ? なんでだろう? 初対面のはずなのに」
と呟いていた。
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