一席分空けた隣に美人がいる状況が一番心苦しいと思う
目を覚ますと、俺の視界には反対側のホームで談笑している三人の男子学生が映った。
その直後、俺が座っているこのベンチの左端に座ってスマホを触っている一人の女子学生の存在にも気が付いた。
およそ肩甲骨の辺りまで伸びた艶やかな明るい茶色の髪。顔を少しニヤつかせてスマホを見ているその横顔だけでも相当な美人であることが分かる。そして何より、どこか大人びているような、そんな余裕を感じさせる落ち着いた雰囲気を纏っていた。
『まもなく高須子行きの列車がホームに到着します。ご乗車されるお客様は黄色い線の内側に下がってお待ちください』
左に座る女子学生に見惚れていると、俺が乗る電車の到着アナウンスが流れた。
慌てて足元に置いていた通学バッグと大量の道具が入ったリュックを背負っていると、目の前で電車の扉が開いた。
この電車から降りた人、乗った人の顔を見ることもなく飛び乗った俺は、扉のすぐ横の壁にもたれ掛かって、ようやく落ち着いて車内を見回した。
すると、俺と正対するように反対側の壁にもたれ掛かって先ほどと同様にスマホを見ている女子学生の姿があった。
その存在に気付いたタイミングで、俺の真横の座席に座っている二人の女子学生の会話が聞こえた。
「ねえねえ。あの子超美人じゃない?」
「わかるーマジ大人っぽい」
「えっ、てかあのバッジうちの学校の一年じゃない?」
「うわーマジじゃん。三年のあたしらより大人っぽいってどゆこと? 羨ましー」
他の人間から見ても、目の前の女子学生は相当な美人らしい。
終点の高須子駅まではわずか二駅だが、そのわずかな時間だけでも目の前の美人と同じ空間にいられるこの状況を堪能したい。
気分を上げるために、俺はズボンのポケットからワイヤレスイヤホンを取り出し耳に着けて、反対のポケットから取り出したスマホの画面の音楽再生ボタンを押した。
「............」
ガタンッ、ガタンッ。
画面を見ると、『イヤホン充電切れ』の文字が出ていた。
美人が目の前にいて今日はツイていると思ったが、そんなことはなかった。
ガッカリしてワイヤレスイヤホンを外そうとすると、真横の女子学生が再び会話を始めた。
「てかこの横の男子の荷物ってさ......」
「絶対漫研のやつだよね」
「ね。てかこの人もバッジ一年のやつじゃない?」
「うーわ、漫研が一年に任せっきりになって廃部寸前ってマジだったんだ」
「かわいそー」
俺がイヤホンをつけたのを見て話し始めたんだろうが残念ながら丸聞こえだ。
そして残念ながらその言葉は今の俺にクリティカルヒットした。
『まもなく終点高須子。終点高須子。ご乗車されましたお客様は、座席にお荷物の置忘れが無いよう気をつけてお降りください』
気が付けば、電車は終点の高須子駅に到着していた。
他の乗客と同様にホームに降りて、乗り換えのために反対側に停車していた志島駅行きの電車に乗る直前、先ほどまで目の前にいた美人な女子学生がいないかと振り向いたが、姿はもう見えなくなっていた。
次の日の17時手前。俺は同じベンチの右端に座り、項垂れて呟いていた。
「なんでこうなるんだ......皆もやれますって言ってたじゃん......なんで俺だけ......」
カッ、カッ、カッ。
近づいてくる足音に気付かないまま、俺は呟き続けた。
「もうどうしたらいいか分かんねえよ......きついって......」
「ねえ君、漫画研究部の部長やってるって本当?」
突然話しかけられたことに驚いて左側を向くと、昨日と同じベンチの左端に、今度は俺の方を向いてあの美人な女子学生が座っていた。
「ごめん。愚痴......聞いちゃった」
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