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第二幕




 ザーーーーーーー……


 ゴロゴロゴロ……


 雨は更に強くなっていた。


 ブルルルルル……


「きゃあああっ!!」


 理香のスマホが鳴って、恵が悲鳴をあげた。


「ちょ、ちょっと恵!! びっくりさせないでよ!!」

「びっくりさせてるのは、理香でしょ!!」

「だって、見てよ。外はもう真っ暗。それに土砂降りだし、雷まで鳴っているんだよ。それでママが迎えに来るまで何か話を1つってなったら、そんなの怖い話に決まっているでしょ。そういう流れでしょ」

「決まっていないし、流れでもないわよ!! 私、怖い話は苦手って言っているよね!」

「えーー、でも普段は好きなアイドルやら芸能人、ドラマとかそんなのばっか話てるでしょ? こういう時は、やっぱさ、こういう時でないと楽しめないような話を……」

「ちょっと理香、それでスマホ出ないでいいの?」

「うおっと! そうだった、そうだった! ってママだ。皆、ちょっと待っててね」


 理香はそう言って、スマホを耳に当てるとそのまま教室を出て行った。その後ろ姿を睨みつける恵。更にそんな恵の事を困った顔で眺める栄美。恵が怖がりな事も、理香が怖い話とか大好きな事も佳穂は知っていたので、こうなるのは仕方がない事だと深い溜息をついた。


 理香が戻ってきた。


「ごめん、お待たせ――」

「理香ママ、もう学校に来てくれるって?」

「ううん、どうもね。もうちっとだけ、かかるみたい。なんか家を出る直前で仕事の電話がどーとかあーとかあったらしくてね……って、まあそういう事で皆の事は、私とママが必ず家まで送り届けるからさ。もう少しだけ、ここで時間潰してようよ」

「理香と理香ママじゃなくて、理香ママが私達を家まで送ってくれるんでしょ!!」

「小さな事は気にしないー。ほれ、それじゃ怖い話の続きしよ!! こういうのは、順番に話を回していくもんじゃからのう!!」

「理香、あんたもう話し方がおかしくなってきていない?」

「そう?」

「そうよ」

「嫌よ、怖い話なんて!! っもう!」

「えーーー、それじゃあ次は恵が話てくれる?」

「嫌だって言っているでしょ! いい? 怖い話って大抵作り話なんだろうけどね、それでも人を怖がらせるような話をしていると、そこに怖いナニかを引きよせちゃうのよ!!」


 一瞬、全員が唾を呑み込んだ。恵が今言った言葉。それを聞いたからだった。


 いつもの恵なら、怖い話をすると「怖い話なんて全部作り話なんだからね」っと一蹴しようとする。それなのに、今日は少し違った事を言ったからだった。


 大抵作り話なんだろうけどね……っと。つまり先に理香が話した真っ赤な傘の女の子の話。それとそんな恐ろしい事が起こった学校に、以前理香がいた事実。本当に理香は、その亡くなった子のクラスメートだったのか。それなら、その女の子の恐ろしい死に顔を理香は見たのだろうか。


 それらの気になる事が、佳穂、栄美、恵の頭の中を一瞬巡った。気になるけども、自ら詳しくこれ以上の事を聞けない。まるで何か、自分の中にある防衛本能のようなものが働いているような感覚もあった。


「でも私だけっていうのも、なんかちょっとアレじゃない」

「私は嫌! 怖い話なんて、ないもの!」

「じゃあ、佳穂か栄美、話してよ。2人は、怖い話好きでしょ? それにさっきも私の話を興味深い感じで聞いてくれていたし。だから私もとっておきの体験談を話したのよ」

「えーーー……栄美、なんかある?」

「そうね、怖い話っていうのなら、そうね。怖い体験というか、たまに怖いと思う事があるかな」

「怖いと思う事? それって?」

「これ、私だけじゃいかもしれないんだけど」

「うんうん」


 佳穂と理香は、栄美の話に耳を傾ける。恵も怖いと言ってはいるものの、椅子に座ったまま話に参加をしていた。


「あのさ、お風呂に入る時の話なんだけど」

「何処から洗うとか、そういう話? それ話すと、男子って結構聞き耳立ててたりするよね」


 栄美の話に、早速理香が茶々を入れる。


「そういう話じゃなかったよね」

「ごめんごめん」

「これは私の体験談。お風呂に入る時、大抵皆そうかもしれないけれど、まず身体から洗うのよね。それから洗顔、頭って順番なんだけど……髪を洗っている時、急に背後に何か感じる時ってない?」

「え?」


 栄美が自分の体験談と言って話始めた話……それは、栄美だけでなく佳穂、恵、理香、ここにいる全員が一度は体験した事がある事だった。


 風呂場には自分しかいないはずなのに、絶対的な気配を感じることがある。この場にいる4人は、そういう体験をした事があったのだ。栄美は続けた。


「お風呂で髪を洗っている時、背後でナニかの気配を感じる事がる。そしてそれは、恐ろしいナニかという事を私達は知っている」

「確かに気配を感じる時はある。だけどそれが恐ろしいナニかっていう事を、私達が知っているってどういうこと? 確かに気配を感じた事はあったわ。でもそこに恐ろしいナニかがいたっていう確証はない。だって私、見た事ないもん」


 恵が言っている事は、明らかに自分の内側に湧き水のように溢れ出る恐怖を打ち消そうとするような、そんな気持ちがあった。怖いからこそ、否定をする。だがここで怖い方が楽しいはずの理香が、恵の言った事に対して一理あるという顔を見せた。


「確かに恵のいう事も解るな」

「なぜ?」

「栄美の話が本当か嘘かって話じゃなくてさ、私的には恵と違って本当である方がより面白い訳で」

「私、面白くないよ!」

「でもさー、確かにお風呂で髪を洗っていて、視線というか……気配を感じる事ってあるのも事実なんだよね」


 栄美は、ほらねという顔を3人に向けた。


「でもね、でもだよ。これ本当の話なんだけどね。私、それで髪を洗っている時に気配を感じた時に、思い切って後ろを振り返ったんだよね。1回じゃないよ。今までで4回はやってると思う」

「さ、流石理香っていうべきか……」


 佳穂はむしろ呆れた目で理香を見た。理香は、後頭部を摩って照れると話の続きに戻った。


「でもね、4回はやったと思うけど、一度もそこに誰もいなかったんだよね。勿論、栄美が言うように、誰かの気配は感じる事はあるよ。でも振り向いても、誰もいなかったから」

「そう、理香は試したんだ。それじゃ、もう一つ?」

「え、なに?」

「お風呂で髪を洗っている時に気配を感じた時、どっちから振り返って背後を確かめた?」

「え? え?」


 理香は、いきなりそんな事を質問されて慌てた。どうだったかはっきりと覚えていなかったからだった。佳穂や恵の顔を見るけれど、親友の顔を見ても答えは解らない。


「えっと……こうやって、頭洗っていたから……右かな」

「100パーセントじゃないけど、大抵はそうらしいわよ。ん? って思ったら右から振り向く。でもね、お風呂でナニかの気配を感じた時、右からではなくて左から振り返るとそれが見えるらしいわ」

「え、うそ!?」

「一応手順ってものがあって、気配を感じたら両目をゆっくりと閉じるの。薄目も駄目よ。完全に閉じる。そして左からゆっくりと後ろを振り向いて、パッと両目を開く。するとそれが見えるらしいわ」

「ま、マジで……!?」


 この4人の中でも栄美は一番、お姉さんタイプで成績も優秀だった。だからかもしれない。彼女の言葉には、他の3人を恐怖させる説得力があった。その事を既に悟っているような顔をする栄美は、更に言った。


「一応、言っておくけど……それをハッキリと見たら、ただでは済まないらしいわ」

「ただで済まないとは……?」

「私が聞いた話では、死ぬ事になる。この場合は、そのナニかに殺されるって事だけど、それかもしくは呪われる、狂人になるとか色々と説はあるわ」

「きょ、狂人!?」


 理香の話は、何処かで耳にする事がありそうなホラー話だった。さっきの理香の話は、真っ赤な傘をさす少女の正体を解き明かそうとしていた友達の死を目の当たりにしてというゾっとするものだった。それも驚きだったが、栄美の話はここにいる全員が身に覚えのあるものであり、否が応でも戦慄が走る。


「お風呂には、お湯がある。お湯は水でしょ。水のある所は、古くから霊が溜まりやすいっていうらしいし、そういうのもあるみたい」

「そ、そそ、そんな話をされて、私、今日から1人でお風呂入れないよ!!」

「フフ、それなら恵は、優しい大好きなお兄ちゃんと一緒にお風呂に入ってもらえばいいんじゃないの?」

「からかわないでよ! 本当に怖いんだから!」

「私のは、皆一度は体験している話だって思っていたから、3人共かなり怖がるだろうなって思ったの。でも要はよ、要は私が言った方法で後ろを振り向かなければ大丈夫って事だから、安心して」


 栄美の言葉に佳穂と理香は溜息をつく。


「安心って言ってもねえ……」

「うん、余計に気になって……というか……」

「ははは、佳穂と恵は兎も角、理香は振り返っちゃいそうだよね。それじゃ、もう一つだけ知恵を授けておこう」

「授けなくていいよー、もー」

「恵は特に聞いといた方がいいかもよ。自分の背後にそのナニかがいる場合……というか、現れた時……必ず鳥肌が立つらしいよ」

「と、鳥肌?」

「そう、それが合図……自分の背後にナニかがいるっていうサインよ。その時、そいつは必ず私達の真後ろに……」


 ゴロゴロ……ドドーーーーーン!!!!


『ぎゃあああああああ!!!!』


 近くに雷が落ちた。いや、佳穂達がいるこの学校に雷が落ちたようだった。その証拠に停電になり、佳穂達のいる教室は真っ暗になってしまった。


 震えあがる恵。彼女だけではなく、佳穂と栄美も流石にちょっと恐怖で身体を震わせていた。教室に残っているのは、もう4人だけ。しかも真っ暗で、窓の外からはザーーーーっという激しい雨の音。雷がまるで何かに激怒しているかのように鳴り響いていた。





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