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第十幕



 東怜。黒水市、黒水北高等学校に通う生徒で、彼女もまた死んでいた。遠山理香の友人が登校中に、全身から血を吹いて死んでしまったあの雨の降る日から5年前、その学校の近くで同じ雨の降る日に転落死していた。


 その時の凄惨な写真が、なんとネット上に残っており理香はそれを目にしてしまった。


 場所は学校から徒歩15分程の場所にある浄水場。隣接して黒水池という名の池があったが、湖と言っていいほど大きな池で黒水市の人達はそこの水を生活水として使用している。


 その日、東怜は数人の同じ学校の女子生徒に呼び出されてその浄水場へ行ったとまとめサイトでは、書かれていたが、報道では逆で東怜に数人の生徒が呼び出された事になっている。


「これって……もしかして……」


 理香はそう口走っていた。


 報道ではなく、ネットの書き込みを鵜呑みするのではあれば、東怜は数人の女子生徒に苛めを受けていた。その日もそこへ呼び出されて、虐められていたという。そしてその挙句、浄水場にある一番高さのある建物にかかっていた梯子に無理やり登らされて、そこから落下。


 地面に激突した写真の彼女は、あり得ない方へ手足が曲がっていて全身の血が辺りに飛び散っていた。その鮮血の量は、まるで血の雨でも降ったかのようで到底1人の少女から飛び散ったものとは思えなかった。


 ……虐められて、殺された少女の呪い。そんな言葉が理香の頭の中に浮かんだ。同時に自分がなぜまたこんな事を調べてしまっているのか、それが解らない。


「あれ? こっちにも画僧がある」


 東怜が落下死した画像は凄惨で衝撃的で、理香の心臓を締め付けた。でもここまで来れば一緒だった。他の画像も画面に開く。するとまた別の画像。


 画像は同じだったが、別の角度から変わり果てた東怜を撮影したもの。ふとあるものへ、目が止まる。彼女が横たわる近くには、真っ赤な傘。


「こ、これって……もしかして……」


 理香ははっとした。


 ぜんぜん科学的でもなんでもない。あり得ないこと。でも理香の母親が、今日車ではねた女の子はその後、忽然と消えてしまった。そして真っ赤な傘を持っていた。


 ……間違えない。あれは、東怜の霊だったのかもしれない。


「大変だ。今日私達が見たあれは……ううん、違う。以前私が転校する前にあの学校で見たあの子は、浄水場の施設から苛めをしている生徒に突き落とされた東怜だったんだ」


 でも、なぜ彼女は幽霊となって自分の友人の前に現れたのか。接点なんてないはず。怨霊となっているのなら、自分を苦しめた相手を呪い殺すはず。なのに東例は、なんの関係もない……いや、同じ学校の生徒というだけの相手を死に至らしめた。


 何年も経って、今頃色々と気づく理香。


「そうだ。あの時は、私も凄くショックを受けてそれどころじゃなかったし……あまりにもあの子の死んでいた時の顔が凄くて、夢にも出てうなされて忘れよう忘れようとしていた。だから今まで調べる勇気もなかった。でも今日、たまたま学校で怖い話をする事になって思い出してしまって……しかもあの子を見てしまったから……」


 でも理香は納得がいかなかった。


 それでもどうして東怜は、虐めっこを呪わずに何の関係もない子を殺してしまったのだろうか。理香の友達を殺したのか。あの子はただ、雨の日の通学途中でいつも真っ赤な傘をさしている女の子を見かけて、その子がどんな子なのか顔を見たかっただけ……なのにそれだけで殺されるのか。もしかして、近づいてはいけないものに近づいてしまったから……祟り……


 考えられるのは、怨霊ということだけ。悲惨な思いをさせられて、殺された。それで全てを憎いと思って、東怜は悪霊となった。そうとしか考えられなかった。


 急に、理香は不安になった。


 あの子の話を何気なくしてしまった。それから、自分達の前にあの子が現れ始めた。その後、母親の車と激突した。それは、あの子が理香たちの存在に気づいてどんどん近づいてきているようにも思えた。


 ゴロゴロゴロ……


 雷の音。理香は椅子から立ち上がり、カーテンを開いた。窓の外を見ると、近くにある外灯のしたに真っ赤な傘をさす女の子の姿があった。


「きゃああっ!!」


 理香は怖くなって、カーテンを閉めた。


 ついてきている!! 確実に、ついてきている!!


 なぜ? あの話をしたから? それとも、以前学校にいた時にあの子と顔を見ようと追いかけたから。あの時の続き?


 理香はスマホを手に取った。そして恵に電話をかける。もしかしたら、他の皆も同様に東怜につかれている可能性があると思ったからだった。


 プルルルルルル……ガチャ。


「……はい」

「恵!! 理香だけど!!」

「……うん、なにか用?」

「え?」


 学校から帰る時、最初に送って行ったのが荒水山の山頂付近にある恵の家だった。あの時、恵は散々怖い話をしていた上に、途中で真っ赤な傘をさした女の子を車ではねたかもしれないというアレもあって、気持ちがとても落ち込んでいるというかそんな感じだった。


 でも別れる時には、私達に手を振ってくれて「送ってくれてありがとう、また明日学校で」と言って笑った。怖がりもしていたけれど、さよならを言った後時も学校にいた時も、車で送って行った時の恵も全部いつもの恵だった。


 なのに今、電話の向こうにいる恵は……確かに声は恵なんだけど……なんていうのか、いつもの恵じゃなかった。


「恵……もしかして怒っているの?」

「怒っている? 私が?」

「そう」

「なぜ?」

「え? な、なぜって恵は怖い話が苦手って言っているのに、強引な感じで皆で怖い話をしちゃったし……それももとはと言えば、私が火をつけた感じだったから、それで怖い思いをして恵……怒っているのかなって」

「そう? そんなに怖がっていたかな、私?」

「凄い怖がっていたでしょ? 今日の話だよ! もしかして、私をからかっている?」

「理香をからかうなんて……そんな事をする訳ないじゃない。そう言えばそうだったね。放課後に話をした……だけど、そんなに怖かったかなって」

「怖がっているように見えたけど……でも、そういうって事は、恵は本当はそれほど怖くなかったんだね」

「そうかも、そうかもね。あっ、でもあの理香ママが話てくれた半魚人の話は良かったわ。とてもいい話だった」


 とてもいい話? 理香は正直、アレがいい話だなんて思いもしなかった。いや、佳穂や栄美もそう思っていた。アレは、理香の母親が皆のウケをとろうとして語った作り話……


だから、いい話と表現するのは、どう考えてもおかしかった。もしかして面白かったから、いい話って言ったのだろうか。


「それで、用件はなんなの?」

「え? あ、そうだった。恵にも一応話しておこうと思って」

「何を? 何を話しておこうと思っているの?」

「実はね――」


 ネットで調べた事。そして自分の考えを恵に話した。


 以前、黒水北高等学校で虐めがあった。虐められていた子は東怜という生徒で、何人かの彼女を虐めていた女子生徒達に、黒水市浄水場へと無理やり連れていかれた。その後、そこで彼女の転落死した姿が発見されて事件になるも、同じ高校の生徒達の証言で事故死だったことになっている。


 でもネットで噂されている情報では、東怜は数人の虐めっ子に無理やりそこへ連れていかれて、浄水場の一番高い建物の外壁にかかっている梯子に無理やり登らされて、その後その上からその生徒達に突き落とされたとなっていた。虐めがエスカレートしたものだという事だった。


 落下死した彼女の傍には、直前まで手に持っていた真っ赤な傘が現場写真に写り込んでいたこと。その日は、今日と同じく激しい雨が降っていた。


 そして学校から帰る途中にも見たアレ。自分の母親が、アレを車ではねたと思った。更に理香が以前いた黒水北高等学校に通っていて、友人と共に真っ赤な傘をさす少女を追っていたが、ある日の登校中にその友人が全身の血を吹き出させて死んでしまった事などを話して聞かせた。


「そうなんだ、ふーーん」

「恵は、この話を聞いてなんとも思わない?」

「思うって何が?」

「私、突拍子もない事を思ったんだけど、ひょっとしてこの黒水市は呪われているのかもって。虐められた挙句、悲惨な殺され方をした東怜が怨霊となって、自分の無念を晴らす為にこうやって同じ年頃の女の子……しかもその呪いの存在に気づいた子を中心に、無差別に呪い殺しているんじゃないかって思って……現に、今私、さっき家に帰ってきた所なんだけど、2階の自分の部屋の窓から外を覗いたら真っ赤な傘をさしている女の子が見えて……」

「アーーハッハッハッハッハ!!」

「え? 恵、どうしたの? いきなり笑い出したりして?」

「アハハハハハハ、ごほっごほっ、げぺ……ゴポゴポ……うう……ごほん、ごめん。ちょっとおかしくて」

「おかしい? おかしいってあなた……だって、あんなに怯えていたのに……」

「怯えているのは、理香じゃない? アーーーハッハッハッハッハーー!!」

「怯えているのがおかしいの!? ふざけて言っているんじゃない!! 本当に私の部屋の窓から、その真っ赤な傘をさす女の子の姿が見えるのよ!! こんな事、普通に考えてありえないでしょ!! これは、間違いなく呪いよ!! 無残にも虐め殺された、東怜の呪い!!」

「アハハハハ!!」

「ま、また笑ってる!!」

「ごめん、ごめん。でもさ、滑稽だなって思っちゃって」

「滑稽? 何が?」

「だってさ、もとはと言えば、こんな怖い思いをしている理由なんて、学校にいる時に怖い話を始めたからでしょ? 私は嫌がっていたのに、無理やり……なのに今は、あの時に一番楽しんでいた理香が一番怖がっているように見えるんだもの」

「もういい!! 恵に電話をかけたのが間違いだった!!」

「なにそれ、逆切れ? もしかしてだけど、あの時に一番怖がっていたのって、私じゃなくてあなただったんじゃないの? だってあなたは、過去にあの真っ赤な傘の女の子を見ている。その子がどんな顔をしているのか気になって、一緒に見ようとしていた子が登校中に全身の穴という穴から血を吹き出させて死んだ。あれからその事が忘れられないて、耐えられなくなって私達にその恐怖を一緒に……」

「もういいって言っているでしょ!! 学校で怖い話を無理やりしたのは悪かったわ!! でも……恵、あなたなにか変よ⁉」

「変? 変なのはあなたでしょ、理香。ううん、私? 私が変? そんな事はないわよ。だってちゃんと私、恵に見えるよ……プツン……ップーー、プーー、プーー」

「ちょ、ちょっと恵?」


 会話の途中でいきなり電話がきれた。何かあったのかと思い、もう一度恵に電話をかける。でも繋がらない。


「なんなの……本当にさっきのは、恵? 今日の学校の事は無理やり怖い話をした私が悪い。でも恵は、こんなもの言いをする子じゃない。何処かおかしかった」


 …………


 もう一度、電話をかける。やっぱり繋がらない。


 何気なく、窓の方へと近づく。遠くの方で、ゴロゴロという雷の音。そしてずっと聞こえてくるザーーーーっという激しい雨の音。


 ……あの真っ赤な傘をさしていた女の子は、まだいるのだろうか。


 理香はカーテンをシャっと開けた。すると直ぐ目の前に真っ赤な何かが飛び込んで来た。


「きゃああああっ!!


 ドンッ!!


 窓ガラスの直ぐ向こうに真っ赤な傘をさす女の子が立っていた。ここは2階なのに、どうやって目の前に立っているのか解らず、理香は恐怖で後ろにひっくり返ってしまった。慌てて顔をあげて、窓を見る。しかし誰もいない。


 確かに真っ赤な傘と、それを手に持ってさしている女の子がいたはずなのに……


 理香はスマホを手に取ると、今度は栄美に電話をかけた。恵と同じように通じない。


 栄美はちゃんと自宅のマンションまで送って行った。だから今頃は、家にいるはず……だからこれは話し中……栄美は誰かと電話をしているのだと思った。


 仕方がないので、「栄美、ちょっと電話できない?」とメッセージを送った。


「そうだ。もしかしたら、栄美……佳穂に電話をかけているのかもしれない」


 試しに今度は佳穂に電話をかけてみた。これで繋がらなければ、栄美と佳穂は電話で何か話している可能性が高い。恵が何かおかしな感じだし、理香は兎に角、栄美と佳穂のどちらかと話をしたかった。親友の声が聴きたかったのだ。


「……はい、もしもし」


 佳穂に繋がってしまった。っということは栄美と佳穂は電話をしていない。


「もしもし、理香だけど」

「理香―。電話なんかどうしたの? メッセージじゃないって事は、何かあったとか?」


 恵は何かおかしかった。栄美はぜんぜん連絡が繋がらない。でも佳穂の口調や話し方はいつものトーンだったので、理香は安心した。


「うん、ちょっとね、話を聞いて欲しいんだけど……今、時間ある?」

「あはは、この雨だし、この時間帯だもん。もう家から出るなんてこともないし、ぜんぜんいいよ。なになに? 何かあった? 家に帰るなり、理香ママと喧嘩したとか?」

「そーだといいんだけどー、もっと別の話かな。えっと……今日、学校で雨宿りしていた時に怖い話をしたじゃない。あの話と、あの……真っ赤な傘の女の子の話。そして私が前にいた学校の話もあるし、恵の事もちょっと聞いて欲しい」

「め、恵? 怖い話のことは解るよ。今日、あんなことがあったし、錯覚かなってなったけどあの子を車ではねたのは、私も見たし……でも恵って……なんかあったんだ」

「うん、実はね――」




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