序幕
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――――水は、滴り落ちて流れていく。そして伝わっていく。呪いもまた、そうなのだ。
江戸時代後期頃、とある村で生贄の儀式が行われて多くの娘が悲惨な死に方をした。頭から食べられる者。または、逃げ出さないように手足から喰われ、のたうち回りながらも徐々に吞み込まれる者。一撃により、身体の骨を粉砕されて動けなくなった上で、僅かずつ喰われる者。そして水底へ引き込み、溺れさせて喰われる者。
「次は太平のとこの娘だ」
「それはもう決まっておる。しかしこのままだと、そんうちこの村には人がのうなって滅びてしまうぞ」
「なに、それなら外から連れてくればええ」
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「与助のとこの娘が化物になったと」
「あれは怨霊じゃ。これだけ人が死んでおるんだ。今やこの村は呪いで渦巻いておる。呪いが渦巻いて、怨霊となったんじゃ」
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「また死んだ」
「気にすんな。死んだのは、村の外から来たもんだ」
「そうだな、村は目覚ましい発展を遂げておる」
「そうだ、そうだ」
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「資本主義とは、そういうものだ」
「犠牲になる者がいるから、私達が裕福になる」
「そうだ、そうだ。この村はもう街だ。銀行だって建った。工業も盛んになった」
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「この街は呪いに満ちている」
「しかしこれは、つきものだ。工業が盛んになれば、福をもたらす」
「富もな」
「工場が増えれば、汚染も広がる。その代わり、街は繁栄して富を得る訳だ。呪いも同じだろ」
「街の発展の為には、多少の呪いが渦巻くのも仕方のない事だ」
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「この街を存続させ続ける為に……そしてこれからも我らや我らの子孫が代々裕福であり続ける為には……」