学校生活
いつも通り起床し、朝食をとる。のだが…ナギサは頭が前後に揺れている。ナギサは朝に弱く、寝ぼけたり、うたた寝することもある。可愛い。
…とはいえ、朝食中にそれが起きると、大惨事だ。みそ汁などで火傷をしてその肌に傷が残るといかん。お兄ちゃんは知っているんだ。僕が昔、その綺麗な肌を褒めた時からナギサは肌のケアに力を入れ始めたことを!
それに、ナギサにはもう、痛い思いや苦しい思いをしてほしくない。失明してしまった時のような、ナギサの泣き顔は見ていられなかった。
ならどうするか。僕はいつも、朝食の前にナギサの耳元であることを囁く。そして、その可愛らしい耳に息を吹きかける。
するとナギサは顔を真っ赤にして、言葉にならない声を発しながら頬を押さえてイヤンイヤンと頭を振る。いつも思う。このナギサ、滅茶苦茶、可愛い。
「よし、目が覚めたな。朝ごはん、食べるぞ。」
「~///え、あ、うん!」
「「いってきま~す。」」
僕達は家を出て、ナギサの体に煙を纏わせて空を飛ぶ。…やわらかい。
おっと、いかんいかん。僕はナギサの様子を見る。
ナギサは顔を綻ばせて煙(僕の体)に抱き着いている。
煙っぽいのではないかと思ったが、ナギサ曰く、落ち着くような匂いらしい。
僕達は学校に着く。急げばすぐだが、できるだけ二人でいたいので、ゆっくり飛んでいるのだ。
僕は昨日と同じようにナギサをエスコートする。ナギサは何か言いたそうにしていたが、諦めたらしい。
僕達の教室は一年A組…あった。ここだ。
僕は教室の扉を開け、ナギサのエスコートを継続する。
僕とナギサが教室に入った瞬間、教室が静まり返った。それもそうだ。ナギサの様な可愛い子と同じクラスになれるんだ、家に帰れば喜びでむせび泣くであろう。
「え!?何あの二人。」
「美男美女、兄妹か?」
「たぶん。似てるし。」
「や、やべえ。一目惚れって、あるんだ。」
「あの子って、目が見えないのかな?」
「ね、ねえねえ、あの男の子、めっちゃタイプなんだけど!」
「ちょ、ちょっと、あの子に話しかけてみようかな。」
予想通りの反応だ。…最後の奴は、シメるか。
僕はオリハルコン製のくs「やめておけ。あれに手を出せば、死ぬぞ?冗談抜きで。」
あ、さすが僕の親友アキラ。そいつの肩を掴み、止める。よく分かってるね~。
「ん。おはよ。」
カエデが話しかけてくる。
「おはようさん。」
「おはよ!カエデちゃん!」
僕達は挨拶を返し、雑談をする。
しばらくして、先生が教室に入ってくる。
「は~い!皆さん席について下さい。HRを始めますよ~。」
僕達は席に着く。僕の席はナギサの席の前だ。
「まず、自己紹介から始めましょう!私はアイコと言います。異能は植物をある程度操れます。まだ教師歴は二年目なので、頼りないかもしれませんが、精一杯力になりますので!よろしくお願いします。」
教室に拍手の音が響き渡る。
「はい、では…コウキ君からお願いします。」
先生が僕を見て言う。
「お兄ちゃん、絶対に、余計なこと言わないでよ?ナギにも他のお友達が欲しいんだからね?」
「う、分かった。そ、ういう、こと、なら。」
僕は歯を食いしばって答える。ナギサの言うことは絶対だ。
僕は前に出て、自己紹介をする。
「僕はコウキと言います。そこにいるナギサの双子の兄です。ナギサは目が見えませんが、優しい子です。目の事はあまり気にせず、普通に接してやってください。よろしくお願いします。」
僕は自己紹介を終え、ナギサの席の傍に行き、ナギサの手をとる。エスコートのためだ。
「え、いや、一人で行けるよ?お兄ちゃん。」
「いや、だめだ。もしもがあってからでは遅いんだ。」
僕は譲らない。
「うう~///分かりました。もう」
ナギサは僕の腕に掴まり、その赤くなった頬を膨らます。
僕達は教室の前に出る。
「え、えっと、ナギサです。目は見えないけど、異能で風を感じることで物の位置や形は分かりますので、さっきお兄ちゃんが言ったように、あまり気にせず、話しかけてください。」
ナギサはお辞儀する。
僕は隣で拍手する。
皆も続いて拍手する。
「あ、あの~、コウキ君の異能を聞いていないんですが、もしかして、『無能』なんですか?」
生徒の一人が僕に質問する。
「あっ、確かに。」
「え、嘘~?」
教室が騒がしくなる。
僕は指先を煙に変えて、言う。
「あっ、すいません。ナギサのことで頭がいっぱいになって忘れてました。僕の異能は煙。体を煙にしたり、それを操る異能。」
「え!?あの『死煙』と同じ異能なんですか!?」
「マジかよ!?そりゃすげえ」
「しえん?何、それ。」
「え、お前知らねえの?Sランク探索者でも最上位に入るほどの実力者だぞ?」
「まじで!?…うわ、ホントだ。ネットでめっちゃ盛り上がってるぞ。」
生徒の一人がスマホで『死煙』を調べている。
その後も自己紹介が続く。
「カエデ。冷気を使う。よろしく。」
「俺はアキラだ。異能は身体強化。よろしくな。」
「私はナツメ!アキラの彼女だから、手を出さないでね!異能は電気。よろしく!」
「えと、スミレと言います。異能は結界を張ることができます。宜しくお願い致します。」
「俺はヤマトってんだ。炎を使う。馴れ合う気はねえよ。」
そこでアイコがヤマトに言う。
「あ、ダメですよ!仲良くしてください。その方が絶対に楽しいですから!」
アイコがすごい迫力?でヤマトに詰め寄る。
「え、あ、いや、その…わ、わかったよ、よろしく。」
ヤマトは頬を赤く染め、チラチラとその身長に合っていない大きな胸を見て、言う。
その後も自己紹介が続く。
そして…
「え、えっと、ぼくの名前はヤスヒロで、え、えと、その…」
今、教室の前には不快なものを凝縮したような外見の男がいる。
極度な肥満体形で、首が見えず、その口を開くたびに唾が飛び、動くたびにフケが舞う。それに、凄い悪臭だ。
僕は教室の窓を開け、ナギサが風で空気を入れ替える。ナギサの顔が少し不快気になっている。
なるほど。存在自体が罪だというのはこういうことか。
「ああ、えっと…皆さん、ヤスヒロ君には異能がありません。ですが、このクラスの一員です。仲間外れにしないようにしてください。」
アイコ先生は僕達に言う。…それは無理だろうね。皆不快な顔をしている。
「せんせー、それは無理だって。異能を持ってないし、何よりこの見た目だぜ?皆が仲良くなんてできねーよ。」
ヤマトが言う。
「それは言いすぎよ!ヤスヒロ君だって、同じクラスの仲間なのよ!」
スミレが叫ぶ。
「な、何でいつもそいつを庇うんだ!?」
二人が言い合いを続けている。
…ふむ。どうやら、ヤマトはスミレに、スミレはヤスヒロに好意を抱いているようだ。
「はいはい。二人で言いあっても仕方ないでしょ?これはヤスヒロ君の問題だ。全部、ヤスヒロ君の行動で決めればいい。」
僕は面倒臭くなったので、ヤスヒロ君に丸投げした。