Sランクダンジョン
僕はゲートの前に着いた。
「お、おい!あれって…」
「ああ。間違いねえ、『死煙』だ。」
「マジかよ、俺、Sランカーなんて初めて見た。」
「にしても、不気味な格好だな。」
『死煙』の名は結構売れている。その特徴は黒いコートに深くかぶったフード。その内側には煙の体が渦巻いている。
僕も煙を使うので、家族にはばれているかもしれない。学校に通えば、ばれるのも時間の問題だ。
…本当は、名が広まる前にエリクサーを手に入れたかったが、ここまで長引くとはな。
いかん、また気が急いてしまった。
僕はギルド員であろう女性にSランクのギルドカードを見せ、ゲートを潜る。
ここは、洞窟エリアか。煙を使う僕にとって、最高の環境だ。
僕は体中から煙を出し、洞窟全体を、一酸化炭素を大量に含んだ煙で満たす。
…殲滅完了。宝箱の中身、その他資源も煙を使って回収済みだ。
僕の体の中は、なぜか底なしなのだ。煙で包んだものなら何でも体の中に収納できる。本当は体の煙の総量で決まるようだが、定期的に世界中から大量の煙を吸収している僕の場合、本当に底なしになってしまった。
それはともかく、コアはっと、あったあった。
僕がコアに触れようとした瞬間、地面からミスリルの槍が飛び出し、僕の心臓辺りに突き刺さる。
…なるほど、地面の下に、呼吸の必要が無いミスリルゴーレムがコアの守護者か。
まあ、体が煙になる僕に物理攻撃はほとんど効かないんだけどね。
僕は煙になった左腕からオリハルコン製の鎖を取り出し、それに煙を纏わせて高速流動させ、ミスリルゴーレムの胴体に叩きつける。
鎖はミスリルゴーレムの胴体をえぐり、核を露出させ、煙でそれを取り除く。ミスリルゴーレムの体は倒れ、僕はそれを煙で包み込み、収納する。
「終わった終わった。か~えろっと。」
僕はコアを手に取り、ゲートの前に転移させられる。同時にゲートに紫電が走る。ゲートが閉じる前兆だ。
「皆さん!ゲートから離れてください!」
さっきのギルド員の女性が呼び掛ける。
僕はそれを背に、『黒猫』が所有するマンションに向かう。
「さすがだね。一時間も経たずにSランクダンジョンを攻略してしまうとは。…まあ、報酬は少し上乗せしてあるが。」
「さすが、ギルマス。仕事が上手いし速い。」
「ははは、お前には及ばんよ。まあ、お前が『黒猫』の看板になってくれているからこんな仕事ができるんだ。感謝してるよ。」
「もうそれは何度も聞いたよ。…じゃあ、僕は帰るね。」
「ああ、また頼むよ。」
僕は建物から出た後、体を煙にして世界中に薄くばらまいてある煙に接続し、世界中で出た煙を回収して家に置いてある分体に合体し、そのまま寝た。
またいつも通りの日常だ。まだエリクサーが手に入らない。
まだナギサの目は光を感じる事ができない。
…ああ、もどかしい。僕にはこんなに力があるのに、その力では、五年かけても、大切な人の本当の笑顔を取り戻すことができない。
だが、それでも僕はあきらめない。諦めることもないだろう。絶対に。