入学
入学式は普通だった。僕は首席合格だったから新入生代表の挨拶があったけど、模範的なものにしておいたよ。本当はナギサに手を出さないように釘を刺したかったんだけど、ナギサにやめろと言われていたのでしなかった。
その後、クラス分けが発表され、(皆が同じクラスになるように校長を脅した。)無事、皆と同じクラスになれた。Aクラスらしい。担任の先生はアイコ先生と言い、まだ教師歴が二年と短いが、在校生ほとんどの生徒に慕われている、マスコット的存在である。
そして、学園の施設等の案内や説明、HRを行い、下校した。
「「ただいまー」」
僕達は家に入る。
「あら、おかえりなさい。どう?学校は楽しかった?」
母さんだ。
「うん。皆と同じクラスになれたし、先生も優しそうな人だった!」
ナギサが言う。
「ああ。ナギサの制服姿は最高だった。」
僕は本音を言う。
「え、///ちょ、やめてよぉ。恥ずかしい。」
ナギサは顔を赤くして、ニマニマしている。
「あらあら、いつも通り、仲がいいのね。」
母さんが微笑ましそうに僕たちを見る。
「ただいま~」
父さんだ。
「「「おかえり」」」
「夕食はできてるわよ。」
母さんが茄子とトマトのチーズグラタンを机に出す。
「やった!ナギ、これ大好きだよ!」
「ええ、高校入学、おめでとう。二人とも。お母さん、嬉しいわ。」
「おっと、そうだったな。なら、遠慮はいらん。思う存分食べろ。」
僕の両親は僕達の入学を祝ってくれた。今日はずっとナギサが笑顔だ。
…僕はこの笑顔を見ると、胸が締め付けられるような感じがする。僕達が幼い頃のナギサの瞼は開いていた。だが、今は閉ざされている。
かつてのナギサの声が頭をよぎる。
「お兄ちゃん。色は、分からないの。風で形は分かっても、それがどんな色をしているのか、お兄ちゃんの顔も、分からないの。」
ナギサは涙ながらに僕に打ち明けた。その胸の内を。
もう少し、もう少しだけ待っていてくれ。絶対、絶対にお兄ちゃんが治してやるからな。
「おやすみ。」
僕はいつも午後九時に寝る。…フリをしている。
僕は煙の異能者だ。それは皆知っている。あ、『無能』は僕じゃないよ。
とにかく僕は煙で分体を作り、布団に寝かせる。僕本体は体を煙にして窓の隙間から外に出る。
僕は探索者ギルド「黒猫」の所有しているマンションに入る。
「こんばんは。久しぶりだね、『死煙』」
ギルドマスターのダイスケが僕に話しかける。
「こんばんは、ギルマス。Sランクのゲートが出たんでしょ?案内してください。」
僕はさっそく本題に入る。
「ああ、分かってるさ。これを見ろ。」
ギルマスは僕に書類を手渡す。
僕はそれを見る。
「へえ、上位Aランカーたちがやられたのか。」
「ああ。今、手が空いている者で彼ら以上の探索者は一人しかいない。Sランク探索者である、『死煙』、お前のことだ。」
「分かっている。それで、エリクサーはまだ見つからないのか?」
「…すまない。手は回してあるから、どこかで入手されれば恐らく手配できるだろう。」
「…そうか。なら今回も、報酬の半分をエリクサーの納入依頼の報酬に上乗せしてくれ。」
僕はもう、このやり取りを五年も続けている。
「ああ、分かっているが…もう少しで報酬が国家予算並みの金額になるんだが。」
「そのくらいの金額なら、国もいくらか動くだろう。」
僕は踵を返し、Sランクのゲートに向かう。