私の日常
「ーーーっ!ーーーろよっ!」
「ーーーーー!」
うるさい、もう少し寝てたい、
「お前が学校行けばいい話やろ!!」
「行きたくないって言ってるやん!!」
あぁ、ほら泣き出したよ、朝から近所迷惑なのに、
「泣けばいいって思っとるんか⁉そんな甘ないぞ!」
「パパ、もうやめてって!」
お母さん、今日も仕事なのに朝からこんなことで困らすなよ、
バチンッーーー
「あ”あ”あ”ぁぁっ!!!」
起きなきゃ、そうやって毎朝ベットから身を起こしてた、
「ユカ、こっちおいで。」
「お姉ちゃん!」
泣き叫ぶ妹を慰める、現在7:35分、
ユカはもう家を出なければ学校に間に合わない時間だ、
「俺はなんも難しいこと言ってないねん!学校行けって言ってるだけやろうが!」
「わかった、もう分かったから」
顔を真っ赤にして切れる父親をなだめるお母さん、
「行かん!行くくらいやったら死ぬ!」
また火に油を注ぐようなことを…
「おぉ!そんなんいうんやったら死ねや!」
こいつは本当に大人なのだろうか、
父親なら父親らしく寄り添うってことをしてほしい、
「もういいから、ユカ、今日も休むの?」
お母さんが優しく聞く、平日はこのやり取りが毎日ある、
「休む!!行かない、」
これで終わりじゃない
「どーせゲームとかスマホいじりしかしないんだろ⁉」
「うるさい!!」
「出せ!全部出せ!ゲームもスマホも!会社に持っていく!」
「カエラ、お前の分もだ、出せ!早くしろ!」
意味が分からない、飛び火だ、こっちは毎日学校にも行っている、
意味の分からないお前の八つ当たりの怒りも受け入れている、
なんでこっちまで、、
「はよ出せや!!」
「…はい。」
準備のために洗面所に立つ、横では母も準備をしている、
「ごめんね、カエラ、カエラは何もしてないのに、」
お母さんはいつも私に謝る、お母さんが悪いわけじゃないのに、
お母さんは仕事に行く、看護師の仕事はとても大変で、
帰りだって遅い、あの頃の夜ご飯は高頻度でチェーン店の牛丼だった、
「全然!大丈夫だよー!お母さんこそ今から仕事なのに…」
嘘だ、全然大丈夫なんかじゃなかった、妹が学校に行かなくなってから
毎朝ふたりの喧嘩の罵声や泣き声で目が覚めてた、正直辛かった、
でもそれ以上に辛いのはきっとお母さんだから、
私までお母さんを困らせてしまうわけにはいかなかったんだ、
「お仕事、気を付けてね!」
お母さんに声をかけ私も最後の準備をする、
父親は明らか不機嫌ですというオーラを振りまきながらゲームを持っていく、
ガキかよ、ユカの部屋を覗く、
「大丈夫?」
「あっち行って!見んなや!」
心が折れそうだ、これが私の毎朝、毎日つらいかった、
なんとなく気持ちが切り換えれなくて下を向いて歩く、
そしてまた同じことを考える、
学校にくらい行けよ、
でも行きたくない理由もあるんだろうな、
今の時代学校にいかんくても勉強もできるやろ、
でも父親としては学校に行ってほしいんだろうな、
どっちの気持ちも考える、でもやはり大人として父親に譲歩してほしい、
考えれば考えるほどやるせなくて、腹立たしくて泣いてしまいそうになるんだ、
タタタタっ
「ドーンっ‼!!!!」
「ぐえっ」
「カーエラっ!おはよー!!」
後ろから走ってきたスズが私の名前を呼ぶ、
突進をかましてきたのはヒカリ、後から追いついてきたのはリンだ、
頭の中で駆け巡っていた私のマイナスがすべてどこかへ飛んでいく、
幸せなんだ、わたし、どんなに家がつらくてもみんなと友達なら、
通学路のあの十字路は私の大好きな場所、
学校に行くのに私は誰とも約束をしていないけど、
誰かと会えて、誰かが私に走ってきてくれて一緒に学校へ向かう、
通学路だけじゃない、学校に着けばみんなに会える、
話してくれる、それだけで幸せなんだ、みんなが笑ってくれればいい、
皆とずっと一緒にいたい。
でも、なんだろう、ここ最近寝つきが悪いからかな、
勉強に集中できない、まずい、このままじゃ志望校に落ちてしまう、
食欲も湧かない、食べるのは食べるんだけど、
高頻度で出てくる牛丼の味を感じない、
食べすぎたからかな、小さな、小さな異変がおきていた。
家じゃ集中できない、塾の自習室を使えばいいだけなのに、
家に帰ればもう体が動かない、どうして、どうして、このままじゃダメだ、
お母さんに相談しなきゃ…お母さんに?ずっと塾にも行かせてもらっていたのに、
今更志望校を下げるなんて、ダメだ、
それにお母さんは仕事でずっと疲れている、
相談なんて、できなかった。
でも、どうしようきっとこのままじゃ無理だ、
落ちた時の私立高は二つ隣の市にできる新設校、誰も、行かない、どうしよう、
もうこのまま死にたい、きっとこの先の人生、今より楽しいことなんてない、
ダメだ、だめ、だめ、どうしよう、どうしたら…
そんなことばっか考えてた頃、
prrrr
電話だ、伯父さんだ、国公立大学をでていて、一種の尊敬を抱いている人、
この時期の電話だ私への応援のメッセージだったりするだろうか、
なぜか期待してあの時私は電話に出たんだ、
「もしもし…」
「おぉカエラ久しぶり!元気か?」
「まぁぼちぼち、どうしたの急に電話なんて、」
「あー、そうそう、いまユカって学校行ってないんやろ?」
喉から変な音が出そうになったんだ、あの時
「なんか話したい事あったらいつでも聞くから、
俺に電話しろって言っといて!それだけ!じゃぁ言っといてな!」
「はーぃ」
電話を切る、視界がぼやけて、うずくまって泣いたのを覚えている。
そのあと受験で落ちて二つ隣の市の私立高に通い始めたんだった、
通学がとてもしんどくて、行き帰りだけで満身創痍だった、
電車の中でいつも考えるのは悪いことばかり、
もし、もっと頑張れていたら、
もし、高校がもっと近ければ、
もし、誰か一人でも同じ中学の友達がいてくれたら
もし、駅のホームから線路に飛んだのなら
長い通学時間の間そんなことばっかり考えてた。
私が高校生になったタイミングで妹のユカはまた学校に通い始めた、
毎日が楽しそうで、毎日嬉しそうに友達の話を母に語る、
そして、父にも、あんなに毎日口うるさくののしりあいをしていたのに、
父と妹はそれは仲のいい親子になってたんだ、
母は病棟が変わって少し仕事が楽になったようで毎日ご飯を作るようになった。
タイミングが悪かった、そうなのかもしれない、
努力が足りなかった、もちろんそうだ、でも、でも、でも、
あそこにいた私はきっと知らないうちに壊れてたんだ。
また私が泣いている、声を出すとお母さんに心配をかけてしまうから、
うずくまって、腕で口を押えて、声を殺して、
あの時はもう15歳なんだからと考えていたが、
今思えばまだ15歳だったのかもしれない、
必死に泣いている私を見下ろす、誰にも気づかれなかった、今も昔も。
なのに、急に横から手が伸びてきて泣いている私の頭を誰かがなでる、
横を見るとこの間わたしが追い出した男の人が立っていた。