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少食の獏  作者: 光輝
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早く起きて

相変わらず目覚めは良くない、別に何ともないが腹を触る、

夢の中で俺はここからガブリと喰われた、まぁ夢なので何ともないが、

とりあえず食堂に向かう、食堂には(れい)結斗(ゆいと)がいた、

(じん)幸成(こうせい)は先輩の寮に行っているのだろう、

朝の挨拶もそこそこに俺が退場した後の夢での出来事を二人に聞く、


(あき)がやられた後、あの番人はすぐに巻き込まれた四人を食ったんだよ、

 でもって俺と結斗もそのまま爪で裂かれたから、

別にあの子としゃべったわけでもない。」


「面目ないぃ。」


怜と結斗もすぐにやられたらしい、

で、二人に話を聞こうにもここにはいないわけだから、

先に病院へ向かう、あの子はともかく他の四人は目覚めているはずだ。


病院に着くとすぐに(げん)さんが俺を迎える、


(あき)、遅いじゃないか。」


「もうすぐ4人の検査が終わるから先に病室で待っておくといい。」


源さんに言われて病室に入ると未だに眠り続けている女の子がいた、

はじめて見た時と比べて苦しそうな寝顔をしている、

もう一度彼女についての書類を見る、




調査書


対象者   

鈴木 カエラ  16歳


家族構成  

父親  43歳  介護職員

母親  42歳  看護師

 妹  14歳  中学生


特筆事項  

両親ともに逮捕歴もなく、いたって一般的な過程であると思われる、

対象者は受験にて公立高校に落ちて現在は二つ隣の市の私立高校に通っている。

前述にて逮捕歴はないとされているが、昨年近隣から3件の通報が寄せられ、

警察が介入する問題がこの家庭にて発生している、

いずれも父親の対象者の妹への指導方法での通報で、

対象者はどの問題でも2人の仲裁に入っており、

日常的に2人の仲裁に入っていたとみられる、対象者に問題は見られなかった。



「通報されるほどの指導ねぇ。」


俺が彼女についての書類を読んでいると病室の扉が開く、

他4名の子達だ検査が終わったのだろう、

俺の顔を見るなり化けものでも見たかのような顔をする、

無理もない、夢の中で出会った見ず知らずの人間との現実での遭遇だ、

とりあえずこのまま見つめあっても仕方がないので声をかける。


「…おはよう、数日ぶりに目覚めた感想は?」


俺なりに気遣いを込めた声掛けだったのだが、

相手方はどうも俺に良い印象を持っていないらしい、

現に今、俺は一人の少年に胸ぐらをつかまれているのだから。


「おい、どういうことだよっ!

 お前らがあそこに現れてから全部台無しだよっ!

 もう一度寝たけどあの夢、もう見れないんだよ…」


まぁ、なんというか、普通の夢だとしても二度寝で夢の続きは見れないだろ、

どうしたもんかと思案しつつ、胸ぐらをつかんだ少年をベッドに飛ばす、

寝たきりだった人間がすぐに体をうまく動かせるわけがない、

どうしたもんかと考えていると一人の少女が俺に質問をする。


「あの、カエラはまだ目覚めないんですか?」


彼女は今も眠ったままのカエラの手を握っている、

同級生からの聞き込みによると彼女はカエラの親友だそうだ、

彼女だけじゃなく他の3名も心配そうにカエラを見つめている、

カエラがどれ程皆に愛されているのかがわかる、

また彼女はつぶやく、


「カエラ、私もあの夢の中で死にたいよ…」


思わず漏れ出た本心といったところだろう、


「カエラちゃんは君たちに

 死に場所を提供するためにあの夢を見せてたわけじゃねーよ?」


急に病室に入ってきたのは仁だ、胃が膨れている、

恐らく先輩の所でたらふく飯を食ってきたんだろう、仁は続ける、


「夢の中でも言ったと思うけど、

 彼女みたいにこのまま眠り続けると死ぬんだわ、

 君たちが夢から追い出されたのは彼女がそれを知ったから。

 彼女は自分も含め、生きるために、あの夢を創ったんだと思うぜ、

 現実がつらくても過去を思い出して、夢を思い出して、

 耐えてほしかったんじゃねーの?」


「ま、知らんけど」


最後の最後で最強ワードを出してきやがったこいつ、

まぁ、少なくともこの子らにも思うところはあるらしい、


「カエラ、夢なんかじゃなくて現実でさ、皆で遊ぼうよ、早く起きて」


少女がカエラに語り掛ける、今夜にでも彼女の夢を喰わねばいけないな、

そこに源さんがやってくる、


「やぁやぁ、君たち体の調子はどうだい?

 これから君たち4人には普通病棟に移ってもらわないといけないんだ、

 申し訳ないがあの看護師さんについて行ってもらえるかな?」


「でも…」


4人は心配そうにカエラを見つめる、


「だ~いじょうぶっ!この二人、君らとそんなに年齢は変わらないけど、

 凄腕だから!きっとカエラちゃんも明日には君らと同じ病室さっ!」


無責任すぎる発言だがそれが俺らの仕事だし、

こちらとしても今夜に彼女の夢との決着をつけるつもりだ、


「約束するよ。」


そう伝えると4人はおとなしく看護師について行った。


寮に戻り仁から話を聞く、

あの後、番人を幸成の力で押さえつけて彼女と話をしたらしい、

仁はまたおにぎりを食い始めたが構わず質問する、


「で、あの子は何がつらくて夢を見るようになったって?」


「最初は中学生の頃の夢は夢でも家での夢を見ていたらしい、

 その頃はただの悪夢だったらしい、

 で、だんだん夢の内容を自分で操れるようになったんだってよ。」


「その最初の頃の夢から何かがわかるかもな、

 他には?何か言っていたか?」


「さぁ、ただ彼女いわく”友達だけが私の生きる理由”だったそうだ。」


「カエラちゃんには最初の夢をよく思い出すように言ったし、

 多分今も今夜もその夢を見続けると思うぞ。」


「仁、助かった今夜にケリをつけよう。」


最初は中学生に戻りたいだけの少女だと思っていたが、

彼女の友人への想いは並々ならない、

恐らく友人に依存する原因があったのだろう、

そして今、彼女はその原因を夢で見ている、苦しそうな寝顔だった。


今夜は彼女の夢を静観することから始めよう、

彼女を追い詰めたものを明らかにするために。


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