誰の夢?
頭がぼんやりとする、目の焦点もまだ合わない、
一度目を閉じてもう一度目を開ける、ここは…教室?
「お、きたきた」
仁がこちらに気づく、
「いわれたとーり、5人以外は全員俺の獏に喰わせたぞ。」
夢の中で獏達は姿を容易に現すことができる、
基本的に契約者の身にまとうものや道具として姿を現すが、
夢を喰らう時は元の姿に戻るそして今の仁の獏は…、
「うぃ~、喰った喰った~。」
喰いすぎてかいつもよりはるかに大きくなっており教室の一部を占領している。
もう一度教室を見回す、例の5人は意外にも一番前の席に全員座っている、
この5人の中で誰がこの夢の元凶なのか、まずそれを暴かないといけない。
それにしても、おかしい、
彼らからしてみれば日常に知らない男達が入ってきて、
大きな生き物が同級生をパクパク食べていくという、とんでもない状況だ、
それに大抵夢を見ている人間は、
現実だと思い込んでいるため俺らが入り込むだけで騒ぐ、
はて、どうしたのだろうと近くに行くと全員が椅子に縛り付けられていた。
「とりあえず全員縛っといたぁ。」
呑気に笑うのは幸成だ、獏は契約者の夢に添った力を与える、
そして契約者はその能力を夢の中で自由に使うことができる、
幸成の場合、獏は拘束具を自由に作り出し操る力を持っている、
つまりこいつはその力で5人を縛ったらしい。
「混乱しててこっちの話を聞いてくれそうにもなかったからな、仕方ない。」
冷静に話すのは怜だ、夢の中でのこいつの姿は少しばかりファンシーだ、
背中には天使の羽のようなものが生えてくる、そして手には分厚い本、
本人は大変嫌っているが俺も一度羽を使って飛んでみたいなとは思う。
この夢の中にはここが夢だと気づいている人がいないらしい、
ここで最初に夢を見ていた子が出てきてくれれば楽だがそう上手くはいかない、
まずは彼らにこの世界が夢の世界であると自覚してもらわなければならない、
とりあえず今の彼らの現状を包み隠さず話してみるとしよう、
せっかくなので教卓から、
「突然のことで驚かれているでしょう、
ご友人が訳の分からない生き物に食べられたことも、
見ず知らずの私たちが急に現れたのも…」
「実は今皆さんは、夢を見てるんです。」
「、、、、、、」
驚くほどの静寂、そして5人の顔にでている何言ってんだコイツ感、
まぁ、当然の反応である、
彼らからしたら楽しかった頃の日常を過ごしていたのだから、
夢を見ている間にこれは夢だ、と気づくことは中々ない、
どれだけおかしいことが起こっていてもだ、そして今回のこの夢、
5人はしっかりと中学生の頃に戻っているのだろう、今の自分たちを忘れて、
この幸せな空間を夢だと伝えるのはあまりにも酷な話だが、
このままずっと寝ている訳にもいかない、というのが現実だ。
「思い出してください、
君たちはもう卒業してそれぞれの道へと進んでいるでしょう?」
そう伝えた瞬間、明るく開放的だった教室の空気が変わる、
窓や扉からはおびただしい数の目がこちらを見ている。
一人の少女がつぶやく、
「でも、だって私たちみんなで授業をして、話して、掃除して、、”普通に”、」
「本当に”普通”だった?」
少女に質問をしたのは結斗だ、いつものゾウのぬいぐるみを抱えている。
「君たち5人はずっとここにいたかもしれないけど、
他のみんなはずっとここにいたの?」
その質問に全員が黙る、結斗は続けて質問を行う、
「じゃあ、今日のご飯は何だった?ここまでどうやって来たか覚えてる?」
少年がつぶやく
「おぼえて…ない」
もう一人の少年も答える、
「確かに、そうだ俺、あの高校に入学して、
それで、、周りに、ついていけなくて…」
各々が思い出したらしい、さらに教室の空気が重くなる、
「暁、何かが来る急いで前の扉を塞げ」
俺の獏がそう指示を出すと他の獏も扉を気にし始めた、
「結斗、お前の力でふさいでくれ。」
そういうと結斗はすぐに動きに出る、
ぽんぽんっと現れたのはぬいぐるみたち、
ツギハギだらけのそいつらは結斗が実際に持っているものだ、
そしてすぐに扉に集まった、次の瞬間扉が開きそうになったのだが、
スライドされるはずのレーンの上にぬいぐるみが居座っているので、
少ししか開かない、扉がドンドンとたたかれる、
「ここにいよぉぉ、ここにいよぉぉぉぉ、あんなところにもどらなぁでぇぇぇ。」
「ひっ…」
一人の少女が小さく悲鳴を上げる、
そして結斗もだ怖いのは苦手だと本人も認めてる。
特異な夢には大抵一体ずつ夢から人を助けようとするのを阻止する化け物がいる、
俺らはこれを夢の番人と呼んでいる、
こいつらの中に夢の特別な力が核として埋め込まれている、
獏がそれを喰ってしまえばこの夢は終わるが番人の中にあるため、
そのままパクリというわけにはいかない、一度打診したが無理だそうだ。
「わかっただろう?ここは現実じゃない、夢なんだ。」
怜が諭すように言う、
「このままここにいちゃ、みんな死んでしまうんだ、だかr」
「それでいいっ!」
一人の少年が怜に食ってかかる、
「現実になんて帰りたくない、毎日がつらい、中学生の頃にいつだって戻りたい。」
「私も、毎日駅のホームで線路に吸い込まれそうになる、
きっとこの夢に来ることがなくてもいつか自分から線路に…」
「ここにいた時が一番幸せだったんだ、だからずっとここにいたい。」
「俺らのことほっといてほしい、
他のみんなは高校でもうまくやってるんだろうけど、
俺ら、夢に見るほどここにいたいんだ。」
4人が口々にこの夢を見続けたいという、”ひとりを除いて”。
「死んじゃうの?」
一人の少女が俺を見つめる、
「あぁ、現実の君たちは管で栄養を送って命をつないでいる、
だが限界がある、人間はずっと眠れるようには作られていない。」
恐らく、彼女が…
「そんなの、ダメ。」
次の瞬間、扉の前にいたはずの番人が教室の後ろに出現した、
彼女たちと同じ制服を着た人型の番人、ヘッドホンを付けている、
抵抗する間もなく大きな口を開けた奴が来る。
避けれない…
次の瞬間俺は鋭い牙に体を食いちぎられ、
目が覚めた