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6.

 朝の光が工房の窓から差し込む頃、リリアナは作業台の上に広げた革製ノートを見つめていた。そこには細かな魔術式の設計図や、過去の実験データがびっしりと書き込まれている。彼女は夜明けと共に起床し、新たな研究の段取りを考えていたのだ。


「さて……まずは、前回の試作で問題があった部分を洗い出さなくちゃ」


 リリアナがつぶやくと、同じ部屋で道具を整理していたミラベルが「お嬢様、今朝も早いですね」と声をかける。彼女は工房の女性職人のリーダー格で、リリアナが剣や回復薬を作るときも大いに手を貸してくれた。

「うん。昨日の段階で、刻印の一部がうまく発動しきらなかった原因を調べたかったの。思った以上に素材の相性が難しいみたいで……」

 リリアナはノートをめくりながら複数の図面をチェックする。そこには魔術式の複雑な線や記号が重なり合い、初心者が見れば一瞬で頭が痛くなりそうなほど細やかな研究痕跡が残されていた。


 最近、リリアナは王宮や貴族との交渉の合間を縫いながら、新たな試作品を作り始めている。目標は「より小型で、扱いやすい防護魔術具」の開発。大掛かりな武具だけでなく、日常の護身や小規模な戦闘にも応用できるようにするのが狙いだ。

 魔術の力を込めた護符や短剣など、試作だけは山ほどあるが、実用段階にはまだまだ遠い。素材の耐久性や魔術式の整合性をさらに高めなければならないのだ。


「よし、まずはこの短剣型の試作品に新しい刻印を加えてみるね。あの回復薬に使った古代のルーン文字を参考にすれば、エネルギー効率が少し良くなるかもしれない」

 リリアナがそう言うと、ミラベルは「了解です」と(うなず)き、魔力測定用の道具を手にして作業台へ並ぶ。二人が息を合わせて材料を混ぜ合わせ、刻印の試し打ちを始めたところで、工房の外からガルスの声が聞こえた。

「お嬢様、ミラベル! 悪いがちょっと来てくれ。学術院の連中が来たらしい」


 思わぬ来訪者にリリアナは顔を上げる。王宮の使いならともかく、「王立学術院」はまた別組織だ。魔術や錬金術の研究を国の学術面で統括している、権威ある機関である。

「学術院の人たちがここまで……?」

「どうも、“お前さんの研究を見学したい”と事前に連絡があったらしいぞ。それが今朝、急に到着したみたいだ」


 リリアナは急いでエプロンを外し、ミラベルとともに工房の玄関へ向かう。すると、そこには学術院の紋章を身に着けた三名ほどの研究員が立っており、一見してわかるほど高価そうな書類カバンや杖を携えていた。

 一行を代表するように、白髪混じりの男性が一歩前へ出る。穏やかな笑みを浮かべているが、その目は興味の対象を逃がすまいとする研究者特有の鋭さを帯びていた。


「これはアルトワーズ伯爵家のご令嬢、リリアナ・アルトワーズ殿でしょうか。私は王立学術院から派遣されました、グラハムと申します。本日、貴女の研究内容を改めて拝見させていただきたく伺いました」

 丁重な物腰に、リリアナはぺこりと頭を下げる。

「ようこそいらっしゃいました。あいにくと、まだ試作段階の品ばかりでお見せできるような完成品はありませんが……」

 するとグラハムは目を輝かせ、「もちろん構いませんとも。むしろ、現場の生の実験を拝見できるのは光栄の極みです」と興奮気味に答えた。


 こうして思わぬ形で始まった学術院の視察は、午前中いっぱい行われることになった。工房の敷地内をぐるりと回り、材料保管庫や刻印の作業スペースなどを丁寧に見学しては、グラハムら研究員が盛んに質問を投げかけてくる。

「この素材はどの地方で入手されたものなのか?」

「魔力を付与する際の温度管理はどの程度の精度で行っているのか?」

 リリアナやミラベルが交互に答えるたびに、研究員たちは真剣な眼差しでノートを埋めていく。


「失礼ながら、リリアナ殿はまだ二十にもならぬお若いご年齢と伺っています。それでいて、あの回復薬や剣など、国宝級と称されるほどの品を生み出したとは……一体どんな学習を積まれてきたのです?」

 視察の途中、グラハムがそれとなく尋ねた。リリアナは作業台で短剣を磨きながら、少し照れくさそうに答える。

「私は、物心つく頃から父の工房に出入りしていたんです。特別に英才教育を受けたわけではありませんが、手伝いをする中で自然と技術を覚えました。魔術学院の正式な課程も一応修めましたけど、実践で学んだ部分が大きいです」

 彼女にとって工房は第二の家であり、そこで技術者たちと過ごす日々こそが最高の学び場だったのだ。


 視察が一通り終わった頃、グラハムたちは学術院の方針について語りだした。

「ご存知の通り、学術院は国全体の魔術・錬金術研究を牽引する組織です。私どもは貴女のような若く優秀な研究者を発掘し、さらなる才能を開花させる環境を提供したいと考えています。そこで……」

 ここで言葉を区切り、グラハムはリリアナの目を見据える。

「リリアナ殿、よろしければ学術院に席を置いて本格的に研究をしませんか? 国宝級の品を生み出せる人物ならば、最新設備や潤沢な資金を使って、さらに大きな成果を出せることでしょう」

お読みいただきありがとうございます!

本日最後の更新でした!


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― 新着の感想 ―
指導役にってことで所属させるなら普通にデメリットの方が大きい気がする。研究実験する時間が減るし無駄な学院の派閥争い舐め腐ったガキの指導とかしないといけないし成果物もパクられる
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