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15.

 荒れ果てた田畑を抜け、丘を越えた先に広がる光景は、リリアナたちの想像をはるかに上回る惨状だった。村のあちこちには魔獣による爪痕(つめあと)が残され、焼け落ちた家屋も少なくない。避難場所を探す住民たちが道端で途方に暮れ、子どもの泣き声が聞こえる。

 レイナルドをはじめとする騎士団、そしてリリアナの工房から駆けつけた職人メンバーは、まずは村人を安全な場所へ誘導しながら、同時に魔獣への警戒態勢を敷いた。道具や馬車を使って急ごしらえの防衛線を築き、そこにリリアナが試作した“防護魔術具”を配置していく。


「これが……貴女の工房で作られた新型ですか?」

 レイナルドが、床に固定された小型の魔術装置を興味深げに(のぞ)き込む。腰ほどの高さの筒状の器具で、上部に円環状の金属パーツと、簡素な魔術刻印が刻まれているのが見える。

 リリアナは手際よく魔力の結晶を差し込むと、装置からほんのりと淡い光が立ち上るのを確認した。

「はい。私たちが開発中の防護魔術具を簡易化したものです。この筒が半径十数メートルに防御壁を展開してくれるはず。耐久力はまだ実験段階で、どこまで持つか分からないんですけど……」

「それでも、こんな小さな装置で複数の人間を守れるなら、大いにありがたいですね。拠点防衛にも役立ちそうだ」


 レイナルドの騎士仲間たちも、装置に手をかざして不思議そうに首をかしげる。彼らは魔術の専門家ではないが、目の前でうっすらと展開される防御の光の壁に、「これなら村人を守る臨時の盾になる」と感嘆の声を上げていた。


 さらにリリアナたちは、兵士や村人が身につけられる護符の配布も始める。従来の重装備は騎士団には有用だが、一般の村人が使いこなすのは難しい。そこで、短時間だけ身体強化や防御力を上げる簡易護符を作り、配れるように準備していたのだ。

「こ、これを首から下げておけば……魔獣に襲われても大丈夫ですか?」

 震える声で問う村のお年寄りに、リリアナは優しい笑みを浮かべる。

「完璧に防げるわけではありませんが、逃げる時間を稼いだり、致命傷を負いにくくなる効果があります。とにかく危険を感じたら速やかに避難してください。わたしたちができる限りサポートしますので」


 その言葉に、村人たちの表情はわずかに安堵の色を帯びる。リリアナの工房の職人仲間も総出で護符の数を確認し、「ここは子どもや老人を優先に」「足が速い人は周辺の偵察をお願い」と手際よく指示を出していた。

 そんな様子を眺めながら、レイナルドは改めてリリアナの熱意と技術に舌を巻く。国益だけを考えれば、こうした大量生産に近い形の装置や護符は採算が合わない場面もあるだろう。だが彼女は、人々を守るためにわずかな時間も惜しまず開発を進めてきたのだ。


「リリアナ……貴女ほど実力がありながら、こうして危険な最前線まで自ら足を運ぶのは、なかなかできることではありません。心から敬意を表します」

 レイナルドが真摯(しんし)な眼差しで言うと、リリアナは少しだけ照れたように頬を染めながら首を振った。

「何をおっしゃいます。私も現地を見ないと分からないことがありますし、それに今は緊急時。工房でじっとしていられませんよ」

「……なるほど、すごい方だ」


 そのまなざしの奥に、騎士団副官としての尊敬だけでなく、ひとかたならぬ好感が(にじ)んでいることに、周囲の騎士たちも薄々気づいていた。彼らも、命懸けで国境を守る使命を担う身。そんな彼らから見ても、リリアナの行動力と情熱はまぶしく映っているのだ。


 しかし、そんな一体感に包まれつつある現場へ、突然ひとりの男が乗り込んできた。

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