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11.

「ぜひ、また工房へいらしてください。私も、あなたの剣術や実戦経験を聞かせてもらえたら参考になると思います。私たちが作る魔術具が、実際の戦場でどれだけ役に立つのか、生の声を知りたいので」

 リリアナがそう言うと、レイナルドは意外そうに目を見開き、すぐに柔和な笑みを浮かべた。

「ええ、喜んで。もしよろしければ、私の国での騎士団訓練なども案内しますよ。実際に兵士たちがどんな苦労をしているかを知っていただければ、さらに良い魔術具を作るヒントになるかもしれませんからね」


 短い会話の中にも、リリアナとレイナルドの間にはどこか温かな交流が芽生え始めていた。工房を見学したあと、レイナルドたち騎士団は礼儀正しく別れの挨拶をして去っていく。

 その背中を見送りながら、リリアナはじっと手のひらを見つめた。自分が好きで続けてきた研究が、こうして異国の人々との繋がりを生み出すなんて、かつては想像もしなかったことだ。


 クレアが横から顔を覗かせて、小声で「感じの良い方だったわね」と囁く。

「そうね。実力や立場だけじゃなく、人柄も素敵な方みたい。工房の職人たちも好印象を持ったみたいだし」

「さっき、ミラベルたちも『あの騎士団はただの視察じゃない』って言ってたわ。きっとリリアナの研究にも協力してくれるんじゃないかって期待してた」

 クレアの言葉に、リリアナはふふっと微笑む。自分の研究や技術に興味を持ってくれる人は少なくないが、人として敬意を払ってくれる人はそう多くはない。レイナルドはその希少な一人かもしれない。


 そんなことを考えながら工房へ戻り、再び作業を再開する。周囲の職人たちは先ほどの来客に触発されたのか、さらに活気づいて作業に取り組んでいるようだ。量産型の防護魔術具――これが完成すれば、戦場や危険地帯で苦しむ兵士や一般市民を大きく救えるに違いない。その確信が彼女らを奮い立たせているのだ。


「よーし、今度は素材の比率を少し変えてみよう。ガルスさん、あの棚にある鉱石サンプルを持ってきてもらえますか? 刻印の焼き付け温度も再調整しないと……」

 リリアナが次々と指示を出し、各々が動き始める。いつもの工房の光景――しかし、どこか今は一段と前向きな空気が流れていた。

 これまで、リリアナは自分の研究を“自分のため”に続けてきた。だが、今や彼女の技術を求める人々は国内外に広がり、具体的に協力したいと手を差し伸べる騎士たちもいる。そんな事実がリリアナを、そして工房全体を強く突き動かしているのだ。


(もっと良い魔術具を作ろう。それが私たちに課せられた使命なのかもしれない……)


 リリアナは心の中で小さく燃え上がる決意を感じる。防護魔術具の量産化は容易ではないし、コストや品質のバランスを取る作業には膨大な試行錯誤が必要だろう。

 それでも、この技術が完成すれば“多くの命を救う”という具体的な恩恵につながる。リリアナは、自分が培ってきた錬金術と魔術刻印の知識を総動員し、さらに工房の仲間たちの力を借りて、一歩ずつゴールへ近づいていくつもりだ。

 そして何より、その過程で出会った誠実な人々――レイナルドのように技術だけではなく「人柄」まで見てくれる人物たち――と繋がれるのが、何よりの励みになる。


「さあ、頑張るわよ。これが完成したら、また新しい景色が見えるはず」

 リリアナが振り向きざまに声をかけると、ミラベルやガルス、クレアも大きくうなずいた。軍部の依頼という“公的な重圧”の中でも、彼女はしなやかに前を向く。

 こうしてアルトワーズ工房は、騎士たちの視線と期待を背に受けながら、“平民兵士でも扱える防護魔術具”という新たな挑戦に拍車をかけるのだった。

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