前世の記憶
え?私が何故死にたかったか?
17歳のうら若き乙女が何でビルの屋上から全てを投げうって飛びたかったか?
今さらそれ聞く?
正直、あまり覚えて無いのよね、昔の事…と言うか産まれる前の事なんて覚えてたら私の海馬破綻しちゃう。
前世の記憶って言うの?
その事だってつい最近思い出したぐらいなのに。
思い出した世界の中の私はいつも泣いていた。
暗い部屋でただ1人で泣いていた。
すごく生きづらい世の中だったのかな。
それぐらいしか分からない。
昨日の朝何を食べたかだってすぐに思い出せないぐらいなんだから。
そんな昔の事思い出せる筈がない。
それに…。
今の私はめちゃめちゃ幸せ過ぎて。
この命の灯火を自ら消そうなんて間違っても思わない。
それどころか100歳だって300歳だって、生きれる限り生きてやる!
夢華として生きている今、本気でそう思う。
特別な何かをしている訳じゃないのに、困っていると誰かしらが手を差し出してくれる。
何不自由なく暮らせる今、そんな急に前世の事を思い出してしまいかなり戸惑っている。
そして、更に困惑しているのが…。
「ゆーめか、実は夢華の見たがってた映画のチケットが2枚あるんだけどー明日早速明日行かなーい?」
兄、樹の事だ。
七三に分けたサラサラツヤ前髪から覗く、キラキラな大きな目がハートマークになっているのは通常運転だ。
ついこの間までは樹はただ単に極度のシスコンの兄だとつい最近までは思っていたのに。
まさか、この兄までが前世からの因縁だとは思いもしなかった。
一ヶ月前、家族で行った都心近くの観光地。
その場所に着いた途端、ひどい頭痛と吐き気に襲われ、立っていられなくなった。
どうやら、それは私だけでは無く、隣にいた樹も同じように疼くまっていた。
私の脳裏に見た事の無い景色が広がり…、景色?景色なのか?空から地上までのダイブ。
猛スピードで突き抜けてゆく世界の中、耳に入る風の音が視界からの情報よりも先に精神に直撃した。
それは刹那の出来事だった。
後は何も聞こえなかった。何も目に映らなかった。
「ああ…」
心配する両親に何も答える事ができず、ただ涙が止まらなかった。