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選挙義務化の法律ができたら二人は…  作者: M
第一条 選挙義務化の法律ができたら二人は…
2/2

2 「好き」への答え during開票速報


 登呂さんは、どうしてそんなこと聞くの?と言う顔をするが、ちゃんと答えてくれた。


「ううん。何かで投票に時間掛かったらいけないと思って、午前中は空けておいたの。」


 さすが優等生。僕はそんな事なんて一ミリも考えやしなかった。

 登呂さんに公民館の出口で貰った証明書を見せる。


「あの、その、あそこのカフェ行かない? この証明書持っていったら、コーヒーとかスムージーが半額になるんだって。」

「え、本当に? 良いの!?」


 登呂さんの顔がぱぁっと明るくなった。また笑顔になる。

 表情がコロコロと変わって面白い人だ。


「投票しただけで割引してくれるの? 寿林くんって選挙に詳しいんだね。」

「ま、まあね。」


 父さんからの受け売りで証明書を貰っておいて良かった。

 登呂さんなら、そのくらい調べてても良さそうなのに。やっぱり選挙の授業は二年生のうちにやっておくべきだよ。


「失敗したなぁ。私、証明書を貰わなかったよ〜。」

「大丈夫、僕が奢るよ。」


 僕なりの謝罪を籠めて。二年も気付かなくてごめんなさい。

 単に奢るよりは、安くなるからって言っておけば、彼女も警戒しないと思う。


「いや、凄く嬉しいけど。でも、それは悪いよ〜。」


 登呂さんは、オーバーに手を振って断ろうとする。

 でも、顔はニヤけてる。これは本気で嫌がってはないはず。

 じゃあ……


「今日は登呂さんの誕生日でしょ。お祝いだから、奢らせてよ。」

「え、なんで知ってるの?」


 良かった。正解!

 今日投票できる十八歳の同級生は、四月二日が誕生日の人だけ。彼女は留年していないから…

 つまり、彼女も誕生日。


「違った?」

「いいえ、違わないです。ありがとうございます。でも、なんで知ってるんですか?」


 登呂さんが急に敬語になるから、思わず笑ってしまう。

 本当に可愛い人だな。


「お誕生日、おめでとう。」


 改めてそう言うと、登呂さんは嬉しそうに照れて笑いながらも、その目線は少し混乱しているみたいだ。


「ありがとうございます。でも、なんで私の誕生日を知ってくれてるの? 嬉しっ。でもなんで?」

「どうするカフェ? 行く?」

「もちろん!」


 僕たちはカフェへと向かい、登呂さんにお詫びのスムージーを奢った。

 いや、お祝いのスムージーだ。



 僕が彼女の誕生日を知っていたというカラクリに登呂さんが気付いたのは、その日の夜になってからだ。

 僕が選挙速報を見ていると、スマホが鳴った。


 今日教えてもらったSNSで、彼女から『お誕生日おめでとう』とメッセージがきていた。

 僕は『ありがとう』とだけ返す。


『誕生日、私と同じだったんだね』


 僕は、あるあるネタで返す。


『春休み中だから、友達に祝ってもらえないんだよな』


 すぐに既読が付いて、返信がくる。


『今日は寿林くんにお祝いしてもらえて、人生最高の誕生日でした』


 友達に誕生日を祝われたことのない者同士の共感にしては大袈裟だな。


 ただ、彼女とカフェで話をしてみて、とても楽しかった。結局昼過ぎまで話をしてしまった。もっと前から彼女と話しておけば良かったと少し後悔。


『三年生も同じクラスになれるといいね』


 僕がそう送ると、すぐに返信。


『良かったら、明日も会ってくれませんか?』


 ああ。カフェで「明日も暇」って話したわ。だから、予定あるからって断れない。

 よく覚えててくれてるなぁ。


 確かに今日の話は盛り上がったし、楽しかった。だけど、二日連続で会うほどかな。

 返信しようとしていると、追加のメッセージがきた。


『一日遅れだけど、私から誕生日のお祝いをさせてください』


 ああ、そういうことか。

 貸し借りは無しにしようってことだな。


『そんなこと気にしなくて良いのに』


 僕はそれだけ送って選挙速報に戻る。開票率はまだ五%。父さんが頑張って開票しているはずだ。

 自分の投票した候補の得票数はあまり伸びてない。

 ……まあ、そんなものなのかな。


 今度は、少し時間が掛かってから返信がきた。


『今日はいっぱい話ができて分かった』


 分かった?

 ああ、良かったの打ち間違いか。


 登呂さんは本当に話好きだな。

 今日も登呂さんの話を聞いているだけで面白かった。

 地味な見た目とは大違いだ。


 どう返そうか悩んでいると、またメッセージ。


『やっぱり私、寿林くんのこと好きです』



 やばい。

 ……なんだこれ。

 そう言えば、話の流れで彼女いるのか聞かれた。今まで付き合ったことなんてないと正直に答えてしまった。


 登呂さんと話した感じだと、からかいや冗談でこんなことを言う人じゃない。

 すごい勇気を振り絞ってこのメッセージを送ってきたに違いない。



 どうする?


 断る?

 それとも?

 付き合うの?

 明日どこ行く?



 なんて返信したら良い?


『ありがとう、でもごめん』?

『友達からはじめよう』?

『何それ罰ゲーム』?

『お願いします』?


 うわ、僕はどうしたいんだ。

 そんなつもりはなかった。

 登呂さんと付き合うなんて考えもしなかった。

 ……本当に?


 僕の心のそこには、もしかしたらという気持ちがあったのかもしれない。

 じゃなきゃ、お詫びとはいえ、あそこで誘ったりなんかしないよな。


 なんて答えよう。

 「告白メール 返信」で検索してみる。何個かの例文を見つけた。


 さっそく、僕の頭の中で選挙が行われる。



 第一回 登呂さんへの返信選挙


OK党ありきたり派

 『よろしくお願いします』

OK党正直派

 『突然でビックリしたけど、とても嬉しい』

OK党ちょっと嘘入り派

 『僕も好きでした』

様子見党

 『ありがとう』

保留党

 『もっとお互いに知り合ってからにしよう』

断る党直球派

 『ごめんなさい』

断る党ごまかす派

 『実は好きな人がいるんだ』



 今日も話しして楽しかったし。もっと話してみたいと思ったし。OK党に一票。


 嘘を吐くのは彼女に失礼だ。ごまかしをする奴に投票するなんてありえない。正直派に一票。


 でも、まだ一日しか話してない。保留党に一票。


 とりあえず明日会って話してみてから決めるとかじゃ駄目かな。様子見党に一票。


 いや。でもそれって、もう付き合ってるのと変わらない気もする。

 登呂さんと付き合う……どうしたらいい? 保留党に……でも、嫌だとは思わない。OK党に一票。



 ああ、選挙の授業を二年生のうちにやっておいて欲しかった。判断基準とか決め手とか教えてもらえたんじゃないだろうか。


 僕はかなりの時間悩んでしまった。



 第一回 登呂さんへの返信選挙結果


一位 当確『返事が遅くなってごめん』


 とりあえず、謝ってから。

 誰だって、誠実な人に投票したいもんな。


二位 当確『突然でビックリしたけど、とても嬉しい』


 僕の正直な気持ち。

 僕も嘘つきには投票したくない。


三位 当確『僕はまだ登呂さんが好きかは分からない。でも、もっと話したいと思ったから、明日会おう』


 僕は、まだ自分の気持ちが分からない。

 登呂さんをどう思っているか分からない。

 だからもっと話をしてみないと。

 みんな、自分の話を聞いてくれる人に投票したくなるし。


 僕は意を決して、その三つのメッセージを送信した。


 登呂さんの返事待ち。

 選挙速報を見てみるけど、何も頭に入ってこない。

 誰が当選したんだろう。

 …登呂さんは、もう寝てしまったんだろうか。


 と思ってたら、三連続のメッセージ。


『ありがとう』

『明日十時に今日と同じ場所で』

『約束だよ』


 僕はすぐに返信した。


『もちろん約束』


 約束はちゃんと守らないと。

 公約を守らない人は選ばれない。


***


 告白された時に、こんな事考えてたって話をしたら、


「もう出馬する方の気分だったの? 被選挙権は義務化されてないよ。」


 って、美緒に笑われた。

 僕も一緒に笑った。


※10 この話は「投票の義務化」じゃなくて、「十八歳選挙権」なんじゃないかと書き終わってから気が付いた。

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