【第一話】
僕の名は菅井――将棋王菅井だ。
高校二年生になったが、いまだに彼女を作れずにいた。
――でも、そんな日常も今日で終わりにするんだ……。
――夕暮れの校舎裏。
僕の目の前には、ずっと想いを寄せてきたアズサちゃんがいる。
「どうしたの?こんなところに呼び出して……」
冷たい風に煽られて、アズサちゃんの黄金色に輝く長い髪が揺れる。
「僕……アズサちゃんのことが好きなんだ!僕と付き合って欲しい!!!」
「……やだ」
「……え?なんで?」
「だって菅井君、将棋弱いんだもん。私、将棋弱い人嫌いなの」
「は?僕、将棋王なんだけど……」
「なにが将棋王よ。ウォーズ3級のくせに」
「3級」の言葉が、僕の心にグサリと刺さった。
「しかもあんた、将棋歴5年でしょ?私は将棋歴2年半で初段になったのに」
「…………」
「それに、人のアドバイスは全然聞かないし。いっつも同じミスして負けるし。そのくせ、たま~に勝ったら猿みたいに手を叩いて喜ぶし」
……返す言葉もなかった。
「そういうことだから、あなたなんかとは付き合えないの。さようなら」
そう言って、アズサちゃんはこの場から立ち去ろうとする。
「ちょっと待って!!!」
「……何?」
「僕は勝負所でパワーを発揮するタイプなんだ!僕が格上の相手に将棋で勝ったら、キミはきっと僕を見直してくれるはずだ!」
「それで、どうやって証明するの?」
「『衣良瀬』に勝つ!アズサちゃんも知っているだろう?あいつは三段だ。僕があいつに勝つところを見せる!」
「……分かったわ。いらせ君に勝ったら、考え直してあげるわ」
――決戦のときは来た。
ここは、ストリートボードゲーム屋。
僕らはこの店を「スト屋」と呼んでいる。
今日、ここにアズサちゃんと衣良瀬を呼び出した。
「アズサちゃん、来てくれてありがとう。見ててくれ、僕の勇姿を!」
アズサちゃんは冷めた目で僕を見返す。
将棋盤を挟んだ向こうには、僕の宿命のライバル、いらせが座っている。
「菅井、わざわざスト屋まで俺を呼び出したからには、なにか勝つ算段があるんだよな?」
「ああ。今日こそキミを叩きのめしてあげるよ」
将棋が強くて、イケメンでイケボのこの男を、今こそ倒してアズサちゃんを手に入れる!
対局開始!
いらせの戦法は……やっぱり来た、奴の得意の右四間だ!これなら……
ジャックポットシステム発動!
僕の唯一にして最強の必殺技が炸裂する!
よし、序盤は互角以上だ。
――中盤以降も、僕の思惑通りの展開が続く。
風……いや、「神風」だ!
間違いなく今、僕に神風が吹いている!
……勝てる!ついに僕がいらせを倒せる!
アズサちゃんは僕のものだ!!!
いらせはおもむろに僕の飛車をつかむと、自分の駒台に置いた。
「あっ………………」
いらせの角の利きをうっかり見落として、飛車をタダでとられた。
――その後はなすすべもなく、あっけなく負けた。
「はい、俺の勝ち」
「菅井君やっぱよっわww」
二人は負けた僕を見て嘲笑っている。
「ねえ、アズサちゃん、菅井なんかより俺と遊ばない?カラオケでも行こうぜ」
「いいよ!いこいこ」
こうして僕は、大好きな女の子を将棋で奪われた。
僕は将棋が弱いから女の子を取られた。
将棋が強くなればきっとモテるはずだ。
僕はこれから真の将棋王になって、女の子をゲットするんだ……!
あんまり言いたくないけどね。
二話に続く……
※この物語は実在する人物像とまあまあ関係あります。