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夜の館の夢語  作者: ハッピー氏
2章 壺の怪
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第9話 おえかき

怪とは

1.元人間、及びかつて人間に使われ人間を慕っていた道具等。人間と道具で一個体、大多数で一個体の怪もいる。


2.負の感情を持ったまま死んでしまった、あるいは誰からも忘れ去られたもの。


3.本来行くべき場所に行けず、未練に縛られて特殊な人間の夢に干渉してしまうもの。


4.一つの怪が出現している間、他の怪は出現しない。


5.みんながみんな、襲うわけではない。



夜の世界とは

1.特殊な人間のみ干渉できる夢の中の世界。


2.物や建造物は現実とほぼ同じ配置をしているが、人間がいない。


3.代わりに、未練を残した怪がおり、怪のエネルギーが覚めるのを妨げる。


4.戻る(覚める)には、怪の悩みを解決する。


5.この世界にいる間、現実世界では時が進んでいない。

壺に案内された部屋。

そこはガラクタが大量に置かれたアトリエだった。

窓の手前に机があり、そこだけは整理されていた。

コムギはゆっくりと部屋に入り、足元に気をつけて部屋の奥へ進んで行った。


「ここはなぁ、俺が生まれた場所なんだ。とりあえず、俺をあの机に置いてくれないか?」


壺は、優しい声で語りかける。


「わかった。」


コムギは奥の机に向かいながら返事をした。

部屋は足の踏み場が無いほどガラクタだらけ。

躓きそうになりながらも、なんとか机にたどり着いた。


「ふぅ。つかれたよぉ。」


コムギは机に壺を置いて椅子に座った。どうやら雨は止んでいるらしく、月明かりが窓から差し込む。月明かりに照らされながら、壺は続きを話し出した。


「俺を作った人はなぁ、それはそれはいい奴だったんだ。優しいが故に、誰にどんな事を頼まれても断らなかった。結局、そこに漬け込んだ悪い奴に殺されちまったんだ。」


壺の悲しいお話を、コムギは真剣に聞いた。


「だれにころされちゃったの?」


正直誰か察したが、確認のため聞いた。


「前の家主さ。俺を作った奴はそいつに雇われたんだ。」


コムギは内心「やっぱり」と思った。

ベッドの記憶で見たあいつなら、躊躇いなく人を殺せる。


「そいつは、俺を作ったやつを殺した後、俺を売り飛ばそうとしたんだ。だが、規制やらなんやらで出来なくなったらしい。その後俺はずっと、あの物置に放置されたってわけだ。」


「かわいそう。でも、どうして怪になったの?」


確かに壺の過去は悲しいものだ。だが、怪になるほど心残りがあるとは思えなかった。


「あーすまん。先にそれを言わなきゃな。俺を作った奴はな、俺の事をスゲェ気に入ってたみたいなんだ。けど、俺は自分の姿を見たことがないんだ。あいつはどんな思いで、俺をどんな風に作ったのか、それを見てみたいんだ。」


壺の怪の未練。それは「自分の姿を見てみたい。」と言うことらしい。ならば話は簡単だ。


「分かった。鏡とってくるね。」


この大きな館であれば、鏡ぐらいどこかしらにあるだろう。なんならトイレか風呂場か、そこに直接壺を持ってくればいい。コムギは、鏡を探しに行こうと立ち上がった。


「待った待った!。俺たち怪はもうこの世に存在しない。だから、鏡には映らないんだ!」


コムギはハッとして、再び椅子に座った。


「それじゃぁ、どうすればいいの?」


コムギのその問いに、壺はフッフッフと笑い出した。


「おいおい、この部屋を見渡してみな?この部屋には何がある?」


コムギが周りを見渡すと、壺制作用の粘土らしき物の他に、乱雑に置かれた紙や色鉛筆、絵の具などの画材も沢山あった。これらを見た瞬間、コムギは一つの答えを出した。そして、その答えはコムギにとって悪い予感でもあった。


「も...もしかして、絵を描くの?」


しかしこれらを見て、それ以外の選択肢が無かった。


「そういう事だ。さぁ、俺の絵を描いてみろ!」


壺はワクワクしながら、コムギに描くよう命令する。

しかし、コムギは顔を引き攣らせている。


(どうしよ...。あたし絵が下手なんだけど...。)


コムギがそう思う原因は、つい最近の事だった。

家でネコの絵を描いている途中、横で見ていたママに「まぁ!綺麗なキツネさんね!お上手!」と言われた。

褒めてくれるのは嬉しかったけど、自分が描いているのが理解してもらえなかったのがかなりショックだった。

それ以降、コムギは自分は絵が下手なんだと思い込んでしまった。


「ほらほら!早くこの世界から出たいんだろ?モタモタしてると、お前もこの世界の住人になっちまうぜ?」


コムギは一瞬ビクッとした。

脅しともとれるその発言を聞き、コムギは近くにあった紙と色鉛筆を机の上に置く。


「わかった。がんばってみる。けど、あたし上手じゃない。」


少し自信なさげにコムギは返事した。


「下手でもいいさ!さぁ早く描いてくれ!」


その返事を聞いたと同時、コムギは黒の色鉛筆を手に取る。


(えーと...こんな感じかな?)


コムギは黙り込み、必死に壺を見ながら、壺の輪郭と同じ形を紙に書いていった。壺の口の部分から側面、底の部分を通り元の描き出した部分に戻ってくる。

ぐるっと一周させただけだが、なんとか壺の形に描けた。


「ふぅ。よしっ!」


まだ序盤にすぎないが、輪郭を描き終えて少し声を漏らす。


「お?描けたのか?ちょっと見せてくれ。」


壺は気になるのか、さっきから見せろ見せろと鬱陶しい。


「ダメだよ!完成まで見ちゃダメ!それと、ちゃんと描いてるから静かにして!」


この館に来て初めて、コムギは怒った。

枕やベットさんにを運んでる時にイライラしてる事はあったが、いつも心に留めていた。

しかし、集中して作業しているのもあってか、コムギの堪忍袋が限界に近かった。

初めて見る様子の違うコムギに、壺は小さな声で、


「ス...スミマセンデシタ...。」


と溢した。

怒らせたらまずい事に気づいた壺は、コムギが描き終わるまで、じっと静かにしていることにした。


そして、コムギは作業を再開する。

次は壺の特徴でもある花を描く。まず、茶色で木の枝を描いていき、次に緑の色鉛筆で葉っぱの部分を描いていく。


(こんな感じだと思うけど...、むずかしいなぁ...)


木の枝や葉っぱを描き終えると、次に花びらを描くためにピンクの色鉛筆を持ち、花の絵を描いていく。因みに、壺に描かれている花は椿だが、コムギには全く分からない。


(う〜ん。このビラビラの部分、むずかしいよぉ...)


椿の特徴である、沢山の花弁がコムギを苦しめる。

なんとか描き終えたものの、壺に描かれた物とは全く比べ物にならなかった。


最後に、黄色で花の真ん中の部分を塗りつぶし、なんとか描き終えることが出来た。


(出来た...!出来たけど....。)


コムギは描き終えた自分の絵と、壺を見比べる。

遠近感や光沢など、コムギにそれを表現出来るほどの技術は無い。壺に描かれた美しい花の絵とは違い、コムギのは本当にただの花の絵。壺の輪郭も少し乱雑だし、お世辞にも上手とは言えなかった。


「お!完成したのか!ほらっ!さっさと見せろよ!」


やっと声出しを解禁された壺は、大声で見せるよう命令してくる。しかし、コムギは乗り気ではなかった。


「ツボさん。あたし、ツボさんを上手に描けなかったの。それでも、許してくれる?」


この絵でこの世界から出れるかが決まる。

その思いで、必死に描いたとしてもこの出来栄え。

さっき当たってしまったのもあり、壺に申し訳なくなった。


「さっきも言ったろ?下手でもいいって!さぁ、早く早く!」


どうやら壺はら下手かどうかは気にしていないらしい。

その気持ちを受け取ったコムギは、意を決して自分の描いたえを壺に見せた。


「ほら、これがあたしが描いた壺さんだよ。」


コムギは、壺に自分の絵を見せると同時に目を閉じた。

怒られるのではないか、悲しませるのではないか、どんな事を言われるか、コムギは恐ろしくて仕方がなかった。

しかし、返ってきたのは予想外の反応だった。


「は...。ははっ!アハハー!ハーッハッハッハッハァ!」


突然壺が笑い出した。

思っても見なかった反応にコムギは困惑する。

しかも、どうやら少し泣いているみたいだった。

涙腺が無いにも関わらず、涙交じりの声でコムギに感想を述べる。


「俺、こんな感じだったんだなぁ!確かにお前のいった通り、俺って可愛い見た目だったんだなぁ!そりゃあ、あいつも気にいるわなぁ!ハーハッハッハッハ!」


笑いながら、そして泣きながら、壺はコムギに感想を述べる。コムギは困惑して、どう反応していいか分からない。


「えっと...、ツボさんはこの絵どう思うの?」


恐る恐る、壺に自身の絵の感想を聞いた。


「お前、本当にへったくそだなぁ!アイツの絵と大違いじゃねぇか!けど、なんだろうなぁ。お前の絵を見てると、涙と笑いが止まんねぇんだ!」


その後も、壺はずっと笑いながら、泣き続けた。

どうもハッピー氏です。

久しぶりの投稿になり申し訳ございません。

実は転職活動により少しバタバタしていました。

今はなんとか落ち着きを取り戻したところです。

しかし、長期間空いたことで、多くの人の期待と信頼を裏切る形になり申し訳ございませんでした。

また、週一投稿のペースを維持していこうと思います。

それでは、次話以降もよろしくお願いします。

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