第8話 かわいいね
怪とは
1.元人間、及びかつて人間に使われ人間を慕っていた道具等。人間と道具で一個体、大多数で一個体の怪もいる。
2.負の感情を持ったまま死んでしまった、あるいは誰からも忘れ去られたもの。
3.本来行くべき場所に行けず、未練に縛られて特殊な人間の夢に干渉してしまうもの。
4.一つの怪が出現している間、他の怪は出現しない。
5.みんながみんな、襲うわけではない。
夜の世界とは
1.特殊な人間のみ干渉できる夢の中の世界。
2.物や建造物は現実とほぼ同じ配置をしているが、人間がいない。
3.代わりに、未練を残した怪がおり、怪のエネルギーが覚めるのを妨げる。
4.戻る(覚める)には、怪の悩みを解決する。
5.この世界にいる間、現実世界では時が進んでいない。
遂にベッドの未練を晴らしたコムギ。泣くのをやめて、次なる怪のところへ向かった。ベッドとの別れは寂しい。けれど、早くパパとママに会うためにも泣いてる暇ではないのだ。
「はよ来やんかいゴルァ!」
声のする方へ向かい、物置へ辿り着く。
そこにいたのは、荒々しい声に反して美しい花柄の壺。
「たくっ、何してたんだよアァン!?」
しかし機嫌が悪そうで怖そうだ。
どうにかして話しかけないと。
「こんばんは、えっと...かわいいツボさんだね。」
コムギはどう反応していいか分からない。
そこで、見たまんまの感想を述べる。
「な、なんだよ〜おい///照れるじゃねえかこのやろ〜。」
なんだよこいつ、めんどくせぇな。
コムギは僅か6歳ながらそう思い、眉間に皺を寄せた。
「改めて、俺ぁ壺の怪だ。この館にやってきてからずっとここにいる。」
壺は急にデレるのをやめ、自己紹介を始めた。
「どうやら、ベッド野郎の未練を晴らしたみてぇじゃねぇか。おめぇ大したやつだな。」
壺は、これまた大きな声でコムギを褒めた。
しかしこの言い方、まるで今まで見ていたかのようだ。
「え?ツボさんはベッドさんのこと、しってるの?」
コムギは壺に問いかける。
「あー知ってるとも。どんな見た目か知らんが、お前が来る前は何度か会話した事があんだ。けど、俺の番が来たという事はつまり、ベッドの奴を成仏させたって事だろう?」
どうやらベッドさんの知り合いだったらしい。
悪い人じゃないと判断したコムギは、更に質問を続ける。
「ところで、ベッドさんとツボさん。それと、ほかにだれがいるの?あとどれくらい?」
コムギはあと100体だろうと1000体だろうと怪を解決させてあげるつもりだ。それでも、あと何体でこの世界から出れるか気になっていた。本当はベッドさんに聞けば良かったのだが忘れていた。
「そうだな、どんな怪なのかは俺の口から言う事は出来ん。この世界の御法度だからな。けどあと何体かと言う質問については、俺を含めてあと4体だな。」
あれ?思ったより少ない?。
ベッドさんの記憶で見たあの家主の人、色んなものに恨まれてそうだからもっといるものかと思っていた。
あと4体解決させてあげればこの世界から出れると思うと、少し安心した。
「もし他の怪さんの名前を言うとどうなるの?」
しかし、どんな怪がいるか事前に分かればより早く動けるのに、どうして言ってはダメなのか気になった。
「いいか?ベッドの奴の時の俺もそうだが、他の怪も"そこにいるし、見ている"。俺を除いた3体の怪も今こうやって話している事を聞いてるんだ。んでもう一つ、1番大事な事だが"夜の世界で形を失った物は死ぬことが出来ない"。つまり、どの世界からも消えてしまうんだ。ただお前は帰れるようになる。お前は悪い奴じゃ無いとからしねぇと思うが、もし悪い奴が来て、どこにどんな怪がいるか知ってしまったら、どうすると思う?」
この世界の御法度の本質。
コムギでも理解できた。
「こわす。」
つまりそういう事だった。
成仏される為に、そして悪い奴に破壊されない為に、言ってはならないのだ。通りでベッドさんは喋らなかったんだ。
「そういう事だ。本当なら教えてやりてぇが、他の怪からしたら溜まったもんじゃねぇだろうな。だから、他の怪の事を知りたけりゃ、まず俺を成仏させるんだな!」
壺は続けて本題入る。
「俺の未練はなぁ、まず俺をとある部屋に持っていって欲しいんだ。」
壺は急に声のトーンを落とした。
未練を叶えて貰うはずなのに、何故か悲しそうだ。
「わかった。いいよ。」
正直、コムギは心の中で「えっ?そんなこと?」と思ってしまい、言いかけてしまった。しかし、ベッドの事を思い出しその気持ちを押し殺した。怪になったのだから、どんな理由であれ、とてつもなく大きな悲しみがあるのだろうと。
あの時は何とも思わなかったが、ベッドさんに向かって"そんなの"と言ってしまったのを今では後悔している。
「よっしゃ!んじゃあ、俺が案内するから持ってくれ。くれぐれも、落とすなよ?」
さっきの話を聞いて、コムギは少し慎重になった。
もし壊してしまったら、壺さんは消えてしまう。
コムギは慎重に持ち上げた。
「いくよ、壺さん。」
コムギは赤子のように壺を抱きかかえた。
「頼むぜ!えっと、名前はなんだ?」
そういえば、壺さんに教えてなかった。
「コムギっていうの。よろしくね。」
コムギは抱きかかえた壺に、笑顔で名前を言った。
「コムギかぁ。いい名前だな!宜しく頼むぜ!コムギ!」
それに対して壺はガハハと笑いながら返事をする。
お互い仲を深めて、いざ目的地に向かって歩き出したが、
「あっ!ごめん!」
「えっ?」
コムギは一歩踏み出した瞬間、足元にあった箱に躓いてしまった。コムギはバランスを崩してこけそうになる。しかし、なんとか体勢を立て直した。
「おっとっと!ふぅ〜。ごめんなさいツボさん。」
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ!」
あと一歩で大惨事になるところだった。コムギはえへへぇ、と言っているが壺からしたらジェットコースターよりも怖かった。
「おいおいおい!いきなり怖いって!やめろよそういうの!」
幸先不安な展開に、壺は声を荒げてキレだした。
これに関しては壺が正しい。
「ごめんなさい。壺さん...。」
怒られて反省してるのか、コムギの声が小さくなった。
「ったく、マジで気をつけろよ?もうええから、気にすんな。」
本来、壺の存命に関わる問題だが、快く壺は許してくれた。
コムギはうんしょっと立ち上がり、足元を気をつけながら物置を出た。
「それじゃぁ壺さん、どこにいくの?」
コムギは部屋を出て、玄関の方に向かって少し歩き出す。
「とりあえず2階に上がってくれ、その部屋は2階の廊下の右手1番奥の部屋なんだ。」
コムギは目的の部屋が分かったので歩く速度を上げる。
あっという間に2階へ向かう階段の手前まで着いた。
「それじゃあ、壺さん登るよ。」
ベッドと地下へ降りた時を思い出した。
あの時も慎重だったが、今抱えているのは壺。
こけて割れたらその瞬間アウトだ。
さっきコケかけた事もあり、ゆっくりと慎重に登っていった。
「ほんま頼むで?コケんのは洒落ならんで?もっとゆっくり登れよ!アカン!危ない!きゃあー!」
壺はさっきのがトラウマになってるのか、ぐちぐち何か言っている。ベッドさんもそうだが、何故階段ではこうも皆んなうるさいのだろう。慎重だから黙ってろと、コムギは静かに心の中でそう思った。
だが慣れたもので、あっという間に2階に登りきった。
「ふぅ〜。つかれたぁ。」
コムギは一旦壺を置いて一休みする。
最上段に腰をかけて座り込んだ。
「はぁはぁはぁはぁはぁ。ゴックン。はぁはぁはぁはぁはぁ。」
壺は過呼吸になっていた。
実際登ってる最中に何度かコムギが躓きかけた。
壺は、マジでやらかすんじゃないかとヒヤヒヤしていた。
「よっ、よっしゃ!ハァハァ。俺を連れてって欲しい部屋は廊下右の1番奥の部屋だ。ハァハァあと少しだ頑張れ!ハァハァ。」
しかしもうあと少しだ。
とりあえず難所は突破したのであとは部屋に着くだけ。
ここまで来ればもう大丈夫だろう。
「わかった。それじゃあいくよ。」
コムギは再び壺を持ち上げ、言われた通りに部屋に向かった。部屋の前に着くと、扉にまた看板が掛かっていた。
看板には「Atelier」と書かれていた。
「ツボさん。これ、なんてよむの?」
しかし、コムギには英語が読めない。
「アトリエだよ。俺はこの部屋で生まれたんだ。」
コムギはキョトンとした。
アトリエという単語を知らないので、どんな部屋か想像できなかった。コムギは壺を持ち替えて、ドアノブに手をかけてゆっくりと開ける。
ガチャッギィィィーーーーッ
扉を開けるとそこは、なんとも言えないガラクタばかりが置いてある汚い部屋だった。
ハッピー氏です。
投稿が遅くなり申し訳ございません。
中々重い腰が上がらず、投稿が遅れてしまいました。
中学時代では丁度壺の怪の途中まで描き終えていて、それ以降はキャラ設定と展開のみの記録から新しく書き始めることになります。なので、さらに投稿が遅くなってしまいます。
少人数ではありますが、読んでいただける人がいますのであまりペースを落とさず完結まで持っていきたいと思います。
また、次も宜しくお願いします。