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夜の館の夢語  作者: ハッピー氏
1章 ベッドの怪
5/17

第5話 もどるために

怪とは

1.元人間、及びかつて人間に使われ人間を慕っていた道具等。人間と道具で一個体、大多数で一個体の怪もいる。


2.負の感情を持ったまま死んでしまった、あるいは誰からも忘れ去られたもの。


3.本来行くべき場所に行けず、未練に縛られて特殊な人間の夢に干渉してしまうもの。


4.一つの怪が出現している間、他の怪は出現しない。


5.みんながみんな、襲うわけではない。



夜の世界とは

1.特殊な人間のみ干渉できる夢の中の世界。


2.物や建造物は現実とほぼ同じ配置をしているが、人間がいない。


3.代わりに、未練を残した怪がおり、怪のエネルギーが覚めるのを妨げる。


4.戻る(覚める)には、怪の悩みを解決する。


5.この世界にいる間、現実世界では時が進んでいない。

シーツと掛け布団を洗い終わったコムギ。

次は脱水なのだが、コムギは初めて見る機械に困惑していた。


「ベッドさん。これなぁに?」

コムギは大きな機械を指差し、枕に問いかける。


「これは脱水機。洗濯物が吸いすぎた水を、このローラで絞り出すんだ。」


枕はコムギの問に対して普通に返したが、心の中では、

「あっと少し!あっと少し!」

と自分の未練が晴れる事にワクワクしていた。


前の家主に乱雑に扱われ、放置された結果今ここにいる。

ベッドにとっては苦痛だった。

ただ普通に使われて、普通に生涯を終えたかった。

その夢すらも叶わないのか。

そう思っていた時、目の前に現れた幼い少女。

今、その少女が自分を洗ってくれている。

「この少女なら、私の未練を晴らしてくれるかもしれない。」

目の前の光景が、自分にとってとても嬉しく、それだけで心が晴れそうだった。


「でもベッドさん。これどうやるの?」


ただ、幼すぎるのが玉に瑕なのだが。


「そうだね。まず、シーツからやろうか。シーツの短い方をローラの間に真っ直ぐ差し込んで、ある程度入ったらそこのハンドルを回すんだ。」


コムギは言われ通り、シーツを脱水機に差し込んだ。

コムギの二の腕ほどの長さがあるハンドル。

それをしっかり握り、回し始めた。


「んーしょ。ちょっと、おもい...。」


コムギがハンドルを回すとシーツから水がボタボタ落ちる。

反対側からピンと張ったシーツが出てきた。


「ヨシ!そのままハンドルを回すんだ。頑張れ頑張れコムギ!


それでも、水を吸ったシーツはコムギにとってはとても重い。

一周まわすだけでも一苦労だった。

コムギは両手でしっかり握り、力一杯ハンドルを回す。


「ん〜。あと、すこし...!」


シーツが脱水機から抜けた。

下に置いた大きな桶にドサっと落ちる。


「ふぅ〜。つかれたよぉ...。」


シーツの脱水を終えて、尻をついて座り込むコムギ。

しかし、まだ全て終わった訳ではない。

シーツより重い掛け布団が残っている。


「つかれたけど、やらなくちゃ...!」


コムギは疲れた体を起こし、シーツと同じように掛け布団をセットしハンドルを回す。シーツと同じように水をボタボタと落としながら布団が反対から出てくる。


「コムギちゃんは本当に凄いよ。ほんとに、ありがとう。」


枕は頑張れコールを辞めた。

コムギが最後まで終えるのを黙って見守った。

とうとう自分の願いが叶う。

その瞬間を、自分の声で邪魔したくなかった。


「ん〜。お、おもいよ〜...。」


水を大量に吸い、シーツよりも何倍も重くなった布団。

その負荷は、コムギが回すのを妨げる。

更に疲労も重なり、一生懸命押しても中々回らない。


「でもママとパパのため、がんばらなきゃ!」


よほど疲れてるのか、コムギの独り言が止まらない。

しかし、コムギは手を止めなかった。

その声に応えるように、少しづつ布団が脱水されていく。


そして、遂に...!


「お、おわったー!」


遂に、シーツと掛け布団の脱水が終わった。

コムギは終えた喜びと疲労感から、尻をついて座り込んだ。


「ありがとう!コムギちゃん!本当にありがとう!」


枕は感動していた。

涙が出ないはずなのに、なぜか声が震えている。

小さな女の子が、自分の願いを叶えてくれているのだ。

無機物であろうと感謝の気持ちで一杯だった。


「よし、これでベッドさんとバイバイだね。」


コムギはベッドの悩みを解決し、既に次の怪に会う気満々だった。あと何人か分からないけど、もう少しでパパとママに会える。それだけがコムギに元気を与えた。


しかし、ベッドはまだ消えなかった。


「それが、まだ終わってないんだ。シーツと布団を干して乾わかして、ベッドに戻して欲しいんだ。」


そう、まだ「洗濯」は終わってない。


「ふぇ〜ん。まだあるのぉ...?」


コムギはショックと疲労で大の字になり床に寝転んだ。


「まぁここまで来たんだ。あと少しで終わるよ。そこの物干し竿をセットして、二つをかけるだけさ。」


コムギはあたりを見渡すと、枕が言ったであろう物があった。

Yの字の棒が2つと長い棒が2つ。

コムギでも知ってる物干し竿だ。


「んー...。でも、あとすこし...。」


コムギは足をバタつかせて、イヤイヤアピールをする。

しかし、あと少しでベッドさんとバイバイできる。

そのために、残った力を振り絞って物干し竿をセットした。


「でもベッドさん。かわくまでまつの?じかんかかるよ?」


セットしたはいいものの、ここには太陽が当たらない。

ここで干したら何時間掛かるか分からない。


「待たなくちゃいけないけど安心して、この世界にいる間は外の世界では時間が進んでいないから、起きても君が眠った瞬間に戻れるよ。まぁ、それでも時間が掛かってしまうのは事実だけどね。あと乾くまでの間、君に見せたいものがあるんだ。」


枕が話している間に、コムギは物干し竿にシーツと布団を干し終えた。ママがやっていた様子を思い出しながらやった。枕に言われなくても、シワをしっかり伸ばして干している。枕はコムギの成長に少し感動した。


「それでベッドさん。みせたいものってなぁに?」


干しながらでも、しっかり話を聞いていたコムギ。

何を見せてくれるのか、ワクワクしながら枕に問いかける。


「見せる前に、話とかなくちゃね。まず、僕のことなんだけど、僕が何で君にお洗濯を頼んだかだね。」


さっきまでのテンションとは大きく変わり、真剣な声でコムギに返す。


この子なら、真実を話していい。

いや、話さなくちゃならない。


僕が忌まわしき物として使われたことを、"彼女達"の悲しみを消すために。


「あの汚れについて、あれは前家主の精液と、そのメイド達の血なんだ。」


ベッドはゆっくりと真実を話し始めた。


「え...!。血...!?」


コムギはびっくりした。

あたしが洗ったものは、自分が怪我した時に見るあの血なのかと。にしては量が多かった。


「それと...?せい、えき...?」


純粋無垢な女の子にはまだ聞いた事がない単語だった。

枕はコムギを見つめて、どう濁すか悩んだ。


「えっと...、精液っていうのは君のパパが、コムギちゃんを作るために出すおしっこの事なんだ。」


枕は最大限に、嘘偽りなく、誇張なしに表現した。


「え...?あたしって、おしっこでできるの?チュウじゃないの?」


あぁ、なんて純粋なのだろう。

枕はあぁいう表現をした事、そもそも精液と言ってしまった事を後悔した。

この純粋な女の子に変な知識を入れちゃまずい。


「そ、そうだね。チュウが出来ないと赤ちゃんを作っちゃいけないようなものだし、間違いでは無いよ。」


枕のその言葉に、コムギは「ふぅーん。」と返す。

なんとか話を逸らせた。


「それで、なんで未練になったのかっていうと、僕はメイド達に悲しい思いをさせてしまったからなんだ。彼女達は僕の上でおもちゃのように扱われ、最終的に僕の上で殺された。そこで飛び散った血や精液が僕の体に染み込んだ。本当は逃げたかったと思う。彼女達が泣いて、叫んで、喚いていた瞬間を、見ていた僕は何もできなくて悲しかったし悔しかった。しかし、せめて彼女達の心を晴らしたい、彼女達の悲しい歴史を消したい。その思いで洗濯して欲しいって思っていたんだ。結果、ここで怪になってしまった。」


枕は長々と自分の過去について話す。

ベッドの重く、悲しく、辛い過去。

最後まで聞いたコムギの目には少し涙が出ていた。


「ぐすん...。メイドさんたち、しんじゃったの?」


コムギは所々、枕の言う事が分からなかった。

しかし、ベッドの上で多くの人間が死んだという事は理解できた。


「うん。3人だね。」


コムギは更にブワッと泣いた。

3人も死んじゃったのか。

名前も顔も知らないけど、共感してしまい涙が止まらなかった。


「そこで、僕が君に見せたいというのは、」


枕は話を進めて、さっき言っていたものを見せてくれるという。コムギは涙を拭ってそれが何かを聞いた。


「僕の記憶さ。僕をギュッとしてほしい。それで僕の記憶が覗けるんだ。」


コムギはビックリした。

ただでさえ、悲しいお話だったのに、それを見てほしいと言われたからだ。


「メイドさんが、しんじゃうところをみるの?」


コムギは怖くなり、躊躇った。


「無理にとは言わない。これは僕の我儘で、未練の範囲外だから。けど、彼女達の為にも、僕一人が呑気に成仏するのは嫌なんだ。彼女達が生きた証を、彼女達の悲しい真実を、誰かに引き継いでほしいんだ。」


コムギは戸惑った。別に見なくてもいいのであれば、当然コムギは見たくない。しかし枕は、目が無い癖に真剣にこっちを見つめている。暫く悩んだが、コムギはベッドさんのために、メイドさん達のために決意した。


「わかった。いいよ。」


コムギは決心し、枕の、ベッドの記憶を見ることにした。


「ありがとう。それじゃあ、ぼくをギュッと抱いてほしい。」


コムギは勇気を出して、枕を抱きしめた。

ギュッとした瞬間、まるで夢を見ているような感覚になった。


しかしその夢は、夢というにはあまりにも残酷だった。

この先コムギの記憶に大きく残るものとなった。


ハッピー氏です。

今回も読んでいただき、ありがとうございます。

前回にも書きましたが、性的表現とグロ表現が苦手な方は読むのをお控えください。

全部が全部では無いですが、今後、出てくる怪にもそのような表現になる怪がいます。


また、ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。今はまだ余裕はありますが、これから少しずつ投稿ペースが落ちていきます。


それでも、最後までお付き合い頂けると幸いです。

今後とも、宜しくお願い致します。

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