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第二話

 薄暗い地下水道は水の流れる音と、シェラの嗚咽と、父の途切れ途切れの呼吸の音だけが響いていた。

 壁に背中をもたれた父が血に濡れた手を伸ばす。

 シェラの頬に触れたその手は驚く程冷たかった。

「シェラ…すまない。私は…」

 父の顔から急速に血の気が失せていく。

「いいえ…!いいえ…!!」


 紫色になった唇から漏れ出すようなその言葉を、シェラは遮った。

「そんな事を言わないで下さい!お父様は国の為に最善を尽くして来たではないですか!!」

「…だがその選択が…この国の未来を墜す事になってしまった…。とんだ愚王だよ、私は」

 頬に触れた手から徐々に力が抜けていく。シェラの白い頬に赤い血の線が引かれていく。

「何を言います!失敗は取り返せば良いじゃないですか!また機会は訪れますとも、生きてさえいれば!だからお願い…死なないで。私を…一人にしないで…」

 最後の方はかすれてほとんど言葉にはならなかった。

 父は反対の手を懐に入れると、何かを取り出した。

「…時間が無くてこれしか持ち出せなかった。…甚だ便法だが、制度的にはこれで十分なはずだ…」

 それを見てシェラの心臓が跳ね上がる。

「いけませんお父様!それは…」

「シェラドーネ」

 父はそれまでの弱々しさが嘘のように、力強い目でシェラを見つめた。

 差し出されたのは一振りの剣。王家に伝わる三種の神器の一つ。

 王のみが持つ事を許される王位の証。

 これを受け取れば、それはそのままシェラが王位を継承する事を意味した。

「シェラドーネ。貴姫に王位を譲渡する。その命を国民の為、平和の為に使うと誓うならばこの剣を受け取れ」

 父の、シェラが大好きだった深く、張りのある声が地下水道にこだまする。

「お父様、私は…」

「…受け取ってほしい。シェラドーネ…」

 その声は王のものとも違う、消えかけそうなものとも違う、一人の父親のものだった。

 シェラは直感した。

 父はもう助からない。

 王として最後の仕事を果たす為だけに命を繋いでいるのだ。

 だからこそ、この剣を受け取りたくは無かった。

 受け取ればきっと…。

 一分でも、一秒でも…、父の命を繋ぎ止めておきたかった。

 しかし―

「…お受け致します」

 シェラは両手で剣を受け取った。

「…ありがとう」

 父は僅かに微笑み、そしてシェラの頬に当てていた手から力が抜けた。

 滑り落ちる手を、シェラは両手で掴む。

「お父様!お父様!」

「…許してほしい。お前に全て押し付ける形…になってしまった…」

 ―お父様―と、その言葉は形にならなかった。シェラの目から大粒の涙が溢れ出す。

 姫としての、いや今や一国の主となった自分の身も忘れ、シェラは子供のようにただ咽び泣いた。

 父の胸に押しつけた額から弱々しい鼓動が響いている。

 まだ生きてる。まだ生きてる。

 父の手がシェラの髪を撫でる。

「…あの男が…きっとお前を助けに来てくれる。だから、生きてくれシェラドーネ…」

「…嫌です…お父様を置いて行くなんて出来ません…一人でなんて生きられません…」

 その時、遠くから無数の人間の足音が響いてきた。

 シェラの身体がビクリと震える。

 追っ手だ。追い付かれた。

「行け、シェラ。逃げるんだ」

「嫌ですっ!」

 頭では逃げなければならないと分かっているのに身体が動かない。

 心が叫ぶ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…!!

 だが次の瞬間、シェラの身体が凄まじい力を受けて引き離された。

 父が。

 朽ちかけた身体を気力で繋ぎ止めた父が。

 シェラの身体を片腕で引き離していた。

 その力強く凄惨な姿に一瞬目を奪われる。

「…王族が一番してはいけない事はな、死ぬべき時を見誤る事なんだ。お前はここで死んではいけない」

 そう言った次の瞬間、父の腕がシェラの身体を突き飛ばした。

 軽々と飛ばされたシェラの身体が通路の縁を越える。

「…生きろ、シェラドーネ…」

「お父様!!」

 伸ばした手は、届かなかった。

 水に落ちたシェラを激しい水流が一気に押し流していく。

 水音の合間に聞こえた沢山の怒号と父の雄叫びは、しかし次の瞬間には耳に侵入した水にかき消され、何も聞こえないまま、上下の感覚も定かで無いまま、シェラの身体はただ押し流されて、そして―




―Crystalline-Cell "SAGA2"―



【戦空の魂】



第二話



「二叉路の四人」




     ◆




「はっ!?」

 目を開けて、最初に飛び込んで来たのは見慣れない天井だった。

「…テント…?」

 城じゃない。そう思ったのは一瞬で、すぐに自分が置かれている状況を思い出した。

 水を打ったような静寂の中を虫の鳴き声だけが響いている。

 薄暗いテントの天井から小さなランタンが吊り下げられているが、中に入っているのは小さな透明の石だ。

 発光系の魔法を組み合わせた簡易ランタン。燃料も空気も使わないので便利で安全だと、戦時中は随分重宝されたらしい。

 どこかから持ち込まれたと言う結晶体の加工技術によって、この手の民間転用も可能な物が随分増えた。

 こんな風に平和な物ばかりが生み出されれば良いのに。

 戦争が一番効率的に技術を進歩させる。

 人を殺す為に作り出された物が人の生活を豊かにする。皮肉なものだ。

 シェラは寝袋から身体を起こした。

 最初にこの袋で眠れと言われた時は何の冗談かと思ったが、この数週間の逃避行ですっかり慣れてしまった。

 だからしばらく見ていなかったのに。

「…またあの夢…」

 全身を嫌な汗が濡らしている。心臓が早鐘のように脈を打っている。

 枕元に用意していた水筒の水を一口飲むと、シェラは寝袋から這い出た。

 ランタンは燃料を使わないが機能させるには魔法学フィールドが必要になる。もちろんシェラは単なる人間だから使えない。

 つまりフィールドの有効範囲内に魔法使がいるのだ。

 重ね合わされたテントの入口を開くと、少し離れた場所に黒い服を着た男の背中があった。

 シェラが寝ているテントを守るように周囲に目を向けながら、時折焚き火に枯れ木を投げ入れている。

 あの後、地下水道を流されたシェラを迎えに来たのがこの男だった。

 イブリース・イーブスと彼は名乗った。

「眠れないのか?」

 イブリースはこちらを見もせずに声を掛けてきた。

「あなたも、眠らないのですか」

 入口に並べていたトレッキングシューズでは無く、外出用のサンダルに足を通しながらシェラも声を掛けた。少し用を足すには紐靴よりもサンダルの方が簡便で良い。

「ああ。さっき交代したばかりだからな。仮眠はとったよ」

 そう、と答えながらイブリースの側に歩み寄る。

 交代した相手とは、昼間に知り合った姉弟の弟の事だろう。寝る前に二人で何か騒いでいるのが見えた。

 なら彼等と知り合う前のイブリースがどうしていたのかは分からない。

 シェラが知らない間に仮眠を取っていたのか、それとも寝ていないのか。

「随分うなされてたな。また悪い夢を見たか」

 この距離で寝言まで聞き取れるとは思えないので、恐らくフィールドで感知していたのだろう。

 ランタンもイブリースの私物だ。そもそもあれはまだ軍隊の一部にしか出回っていないものなのだから。

 フィールドの『感知』の能力と『結晶体を機能させる』能力は別のものだ。

 どちらかを優先させればもう片方の能力は減退せざるを得ない。

 イブリースは外敵に対するセンサーとしてフィールドをかなり広域に広げると同時に、距離の離れたランタンの結晶体を機能させていた。

 それがどれだけ異常な事なのか、シェラには良く分からないが。

 焚き火を囲むように並べられたイス代わりの丸太の、イブリースの斜向かいの席にシェラは腰掛けた。

 その鼻先にスチール製のカップを差し出しされた。カップの中からホワリと湯気が立ち上ぼっている。

「ありがとう」

 中身は焚き火に掛かっている鍋のものだろう。血の気の引いた身体に温かいスープがありがたい。

 一口飲んだところで自分のカップをテントに置いてきた事を思い出した。

 これって間接キスかしら。

 ふとそんな事が頭をよぎるが、まぁ良いかと思う。

 旅を始めた頃は一々騒いでいたものだがそんな事にもすっかり慣れてしまった。

 結構適応能力が高いのだなと自分に感心する。

「父の…夢を見ました」

 イブリースは父の最期を見取ったのだと言う。何故あの場に彼が居たのかは良く分からないが、孤独な最期で無かったのならそれで良い。

「そうか」

 イブリースは手にしていた小枝を焚き火に投げ入れた。パキパキと焼ける音が静かに響く。

 イブリースのようだな、と何となくシェラは思った。

 夜闇のように冷静なのに、その内には静かに燃える炎のような意志がある。

 焚き火に浮かぶ横顔からは感情を読み取る事は出来ないが。

「…助けて下さってありがとうございました」

 シェラの言葉にイブリースは僅かに視線を向けた。

「突然改まってどうした。別に昨日のは俺だけのお陰じゃないだろ」

 謙遜しているとか、そう言う事では無い。ただ事実を事実として述べているだけ。彼はそう言う男だ。

「昨日の事だけではありません。アルストロメリアから脱出してきて今日まで、ちゃんとお礼を言った事が無かったですから」

 シェラは飲み干してしまって温もりが失われたカップをギュッと握り締める。

「その上で聞かせて下さい。あなたは何故私を助けて下さるのですか?」

 その時になってようやくイブリースがこちらに顔を向けた。

「あなたは私の臣下ではありません。父の友人です。少なくとも命をかけて私を助ける義理は無いはずです」

 俯いたシェラの顔の前にイブリースの手の平が突き出された。

「カップを」

 いい加減返せと言う事だろうか。

 受け取ったイブリースはスープを掬うとカップに注ぎ、シェラに返した。

「…お前の親父に頼まれたから、てのは理由にならないか?」

 シェラは暖かくなったカップを、しかし口には運ばず両手で握り締める。

「…それだけで命をかけるのですか?あなたの行為は既に父への義理や善意の域を越えています。それだけの理由なのだとしたら、私はとてもあなたを信用する事が出来ません」

 イブリースは肯定するでも否定するでも無く無言で焚き火の様子を見ている。

「失礼な事を言っている事は分かっています。ですが…私は不安なのです。あなた程の人が無償で力を貸して下さる事が。もしもあなたが敵に回ってしまうかも知れないと思うと…怖くて仕方ないのです」

 イブリースは何も言わない。聞いているのかいないのか、シェラの言葉に何の反応も示さない。

 シェラの指が小刻みに震え始める。

 さすがに気を悪くしたかも知れない。今この男の庇護を失えば、シェラに生き残る道は無い。

 しかし、だからこそ。シェラはどうしてもイブリースが信用に足る人間なのかを確認しなければならなかった。

「私には、当然あなたに与えて然るべき領地も報酬も何もありません」

 自分の身を守る力も。

「今の私にはもうあなたしか残っていないのです。だからお願い…私を裏切らないで…」

 言葉は詰まったように途切れてしまった。

 怖くて顔をあげる事が出来ない。

 馬鹿だ私は。これではさっき自分で否定した事と同じではないか。

 痛い沈黙が場を支配している。消えてしまいたかった。

「…バーナードは良い娘を持ったな」

 ぽつりと、今まで聞いた事が無い優しい声をイブリースは発した。

「え?」

 シェラは弾かれたように顔を上げた。

 バーナードは父の名だ。シェラが知る限り父を呼び捨てにしたのはイブリース以外にいない。

「奴は息を引き取る寸前までお前の事を心配していたよ。運命を背負わせてしまったってな」

 胸がズキリと痛む。お父様…。

「だから俺も心配してたんだが、杞憂だったな」

 言葉の意味をはかりかねてシェラは首を傾げた。

「それってどう言う…?」

「そのままの意味だよ。お前は冷静に人間を見る力を持っていたって事だ。それで良い。これから沢山の人間がお前に近付いてくるだろう。お前はそうやって相手が信用に足る者なのかを見極めていけば良い」

 そしてイブリースは少しだけ微笑んでシェラを見た。

「願わくば俺もそのお眼鏡にかないたいところだがな」

「す、すみません」

 シェラは素直に恥じ入る。顔が熱くなるのを感じる。

「確かに、俺は善意だけで動いている訳じゃない。俺には俺で別の目的がある。ただそれは何て言うか、イマイチ手掛かりがはっきりしないものだから。あちこち動き回って手掛かりを探すならお前と一緒に動いててもあんまり変わらないんだよ」

 話をしている間に小さくなった焚き火に新しい小枝を投げ込む。

「それに同情している訳でもない。俺はお前が付き従うに足る器だと思うから付いて行くんだ」

 イブリースの言葉にシェラは驚いた。

「器って…いつからですか?」

 イブリースは「ん?」ととぼけると。

「ついさっきだよ」

 と笑って言った。

 シェラは思わずきょとんとしてしまった。

「心配しなくても俺はお前の味方だよ。今んところはな」

 そう言ってシェラの頭に手を乗せた。

「スープが冷めちまったな。温め直そう」

「はいっ」

 シェラは満面の笑みでカップを差し出した。

 アルストロメリアを出てから二週間。シェラはようやく命を預けられる臣下を得た。

 夜は静かに更けていった。




     ◆




「では、ここでお別れですね」

 翌日の昼過ぎ、シュミラ達一行は街道の二叉路の手前に差し掛かる場所にいた。

 追っ手を振り切る為に休憩を最小限にして移動していたので、最初の予定よりもかなり速く到着してしまった。

「う…うん」

 シュミラは少し歯切れ悪くうなずく。

 シュミラとレグナがシェラと同行していたのは単に方向が同じだったからに過ぎない。

 これからシュミラとレグナは街道を右に、シェラ達は左に進む。目的地は知らない。旅の目的も、お互いの素姓も何も話していない。

 そもそもここまでの同行もシェラは強く反対していた。

 自分達の事情に巻き込む事を嫌ったのだろうが、シュミラとしてはあんな風に襲われているのを見ていきなり『ハイさよなら』とはいかない。

 散々押し問答を続けた挙げ句、彼女の連れであるイブリースに止められた。

 シェラは食い下がったが、『頼むからいつまでもこんなところに居ないでくれ。せっかく追っ払ったのにまた鎧が来ちまう』との言葉に渋々と言った感じで引き下がった。

 当然シュミラは主張を曲げるつもりは無いので、結果的にそれは同行を許されたのと同じになったのだ。

 シュミラとしては気を許したシェラが何かドラマチックな話をしてくれると期待していたのだが、まさかこんなに速く着くとは…。

「短い間でしたがありがとうございました。もう騎士に襲われる事は無いとは思いますが、夜盗や盗賊などの危険もあります。道中気を付けて」

 と、シェラが手を差し出した。

 小さく呻いてその手を見つめる。

「シェラ…あの…」

「いけませんよ」

 シュミラの考えを先読みしシェラが二の句を塞いだ。

「イブリースが分かれ道までと言ったからここまでの同行を許したのです。これ以上はご遠慮願います」

 シェラは丁寧な言葉使いながらそれ以上の発言を許さない威厳のようなものがあった。

「べ…別に…。私はあなたの部下じゃないもの…」

 何とか言葉を絞り出して反抗してみる。

 シェラは少しだけ困った顔をした。

「なるほど。確かにそれを言われると弱いですね。ならこれは私からのお願いです。どうかこれ以上私達に関わらないで下さい。危険です」

「危険ってそんな!危ないのはシェラ達の方じゃない!私達はそんな事気にしないのに…!」

「ですから、私が嫌なのです。私は近親者や友人を沢山失いました。ここで知り合ったのも何かの縁…あなた達姉弟を危険な目に会わせたくは無いのです。分かって下さい」

 諭すようなシェラの言葉にシュミラはもう一度俯いた。問答を繰り返す二人の後ろで男二人は手持ちぶさたな感じでこちらを見ている。

 レグナも一緒に行きたいと昨日の夜に話していたんだから何か言え!

 沈黙を肯定と受け取ったのか、シェラは再び手を差し出した。

「…」

 完敗だった。

「助けて下さってありがとう。あなた達の事は忘れません。あなた達の旅の目的は知りませんが、うまくいく事を祈ってますよ」

 シェラはそう言い残し、背中を向けた。

「さ、行きましょうイブリース。日暮れまでに街道を抜けてしまわないと」

 促されてシェラに続いたイブリースは背中を向けかけたところで、足を止めた。

「なぁお嬢ちゃん。着いて来たい理由を相手に求めちゃダメだ。そう言うのをうちのお姫様は一番嫌うから。信用を得ようと思うならその辺ちゃんとしとかないとな」

「ちょっと…」

 驚いて振り向いたシェラを素通りしてイブリースは街道に進み出た。

 シェラもその後に続く。

 後にはポツンと残された姉弟が二人。少しずつ遠ざかる背中を見つめている。

「良いの?姉さん。行っちゃうよ?」

 心配そうに声を掛けるレグナの足を踏んづける。

 良い訳あるか!

 だって…、だって彼女達は…。

「シェラ!!待って!!」

 気が付いたらシュミラは叫んでいた。

 シェラは驚いた顔でこちらを振り返る。

「シェラ!!私達も戦災孤児よ!!本当の両親の顔も知らない!!だけど、私はやっと家族の手掛かりを掴んだの!!ベルトラル・リシェール、あの白銀の騎士が父の事を知ってるわ!!だから、私はどうしても、彼にもう一度会わなきゃならない!!だからお願い!!一緒に連れて行って!!私を父に会わせて!!」

 精一杯叫んだ。酸欠で頭がクラクラする。

 これでダメなら仕方が無い。

 目を丸くしてこちらを見つめていたシェラが、イブリースと向かい合って何か言葉を交わしている。

 シュミラは祈るような気持ちでその光景を見つめた。

 そして次の瞬間、シェラの小さな手がこちらに向かって降られた。

 手招きをしている。

 その瞬間、シュミラの顔にパッと花が咲いた。

「やった!ほら、レグナ!何しゃがんでんの!おいでって言ってるわ!」

 うずくまったままのレグナの頭をバシバシ叩く。

「…誰のせいだと…」

「さあ、行くわよ!」

 シュミラは少し上気した頬を染め、レグナの手を強引に引いて走り出した。

「まったく、あなたと言う人は」

 全力ダッシュで駆けて来たシュミラ達を見てシェラが呆れたような、そして少し楽しそうな表情で言った。

「はっ…ははっ…」

 息が上がってしまってうまく笑えない。

 シェラは肩をすくめてイブリースを見る。

 彼は何も言わずただあの皮肉っぽい笑みを浮かべているだけだった。

「私の名前を聞いてしまったらもう後戻り出来ませんよ?」

 確認するような口調のシェラに、望むところと挑戦的に微笑みかける。

 シェラは僅かに苦笑すると右手を差し出した。

「シェラドーネ・リナ・アルストロメリアです」

 その名を聞いてシュミラとレグナは顔を見合わせた。

 イブリースは『姫』と言っていた。

 つまり、

「…アルストロメリアのお姫様?」

 目を丸くするシュミラとレグナを見て、シェラは少し悪戯っぽい表情を浮かべていた。


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