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第一話

「はっ…はっ…はっ…」

 荒い息を吐きながら少女は鬱蒼と茂る薄暗い森を走っていた。

 鋭く尖った枝葉がその白い肌を傷つけるのも構わず必死に足を進める。

 追っ手を振り切る為にジグザグに走ってたせいで完全に方向を見失ってしまった。

 たった一人残った臣下ともはぐれてしまった。こんなところを狙われたらひとたまりも無い。

 逃げ初めて既に三十分以上になる。足場の悪い森を走り続けていたせいで思った以上に体力を消耗してしまっている。

 心臓は早鐘のように脈を打ち続け、肺は吸っても吸っても空気を要求してくる。カラカラに乾いた喉は唾を飲み込む度に張り付き、その度に激しい咳と嘔吐感に襲われた。

 だが足を止める訳にはいかない。

 こんな所で死んでしまえば、身を呈して自分を助けてくれた臣下達や父の命が無駄になってしまう。

 死ねない。死ぬ訳にはいかない。

 だが思いに反して彼女の身体は限界に達していた。

 酸欠で平衡感覚が狂い、地面がグニャグニャに歪んで感じる。

 色彩を失った視界が急速に黒で埋め尽くされていく。

「はっ……はぁっ……はぁ……誰か…」

 意識を失う直前に見た白い光に向かい、少女は最後の力で地面を蹴った。




―Crystalline-Cell "SAGA2"―【戦空の魂】



第一話



『異国の少女』




     ◆




 後にも先にも『シュミラ』と言う名前を私は自分以外に聞いた事が無い。

 父…と言っても育ての父だが…に聞いても『名付け親は俺じゃないから』と言って教えてくれなかった。

 ならその名付け親に聞いてくれと言っても、どうやらその人とはもう随分長い間連絡が取れていないらしい。

 父曰くシュミラが生まれた時から家にあるネックレスにどうやら秘密があるようなのだ。

 チェーンに金属製の小さな筒が通っているだけのそれは一見すると単なるネックレスにしか見えないが、良く見ると全体的なバランスがちょっとおかしい。

 具体的には金属製の筒がちょっと大きい。左右の幅が有り過ぎるし、穴の部分も何だか大きい。

 ぶら下げてしまえば問題は無いのだが、筒は指輪よろしく右の穴から左の穴にチェーンが交通しているだけで、そのせいで筒はネックレスの中心に収まらず、常に左右どちらかに偏ってしまって何とも締まりが無い。

 なら元は指輪なのかと言えば、今度は穴が小さ過ぎる。赤ん坊の頃ならまだしもその径では私の小指も通らない。

 足の小指なら通るかも知れないが、どちらにしても幅が有り過ぎるので付けたら最後『永遠に曲がらない指袋』状態になるのは確実だ。

 ネックレスにでかし指輪に小さし。

 筒の部分には私の名前が彫られている。だがシュミラの『シュ』と『ミラ』の間にある微妙な隙間が気になる。

 まるでそこが名字と名前の境目であるかのような絶妙な隙間だ。その割に『ラ』と『シ』の間は妙に狭い。きっと初めて見る人は『ミラシュ』と読んでしまうことだろう。

 と言うか私は読んだ。

 一応『ラ』と『シ』の間に小さな青い宝石が埋められていてそこが境目だと主張しているが、焼け石に水と思えなくも無い。

 筒に彫られた名前を見て以来、私は自分の名前に借り物のような微妙な居心地の悪さを感じていた。

 由来が知りたい由来が知りたい。その思いは歳を重ねるごとに大きくなっていった。

 だからきっと、旅の目的はそれでしかない。

 戦争を起こした理由が知りたいとか格好良い事は言っていても。

 九年続いた大戦。

 そのきっかけを作ったのが、私の名付け親であるジルギア・アランドナウだと知った時、私は何故か彼に会いたいと強く思ったのだ。




     ◆




「どうしたの姉さん」

 突然立ち止まってしまったシュミラに気が付いて弟のレグナが声を掛けた。

「ううん、何でも無いの。ごめんね」

 街道沿いの森を見つめていたシュミラは返事を返すと少し離れてしまったレグナを小走りで追った。

「イノシシでもいた?お腹空いた?」

「馬鹿」

 デリカシー無くそんな事を言うレグナをねめつける。確かに最近食べ過ぎだが十三歳と言えば食べ盛りなのだ。

 アルテイルを出てからそろそろ一ヵ月。普通なら食事が一番問題になるところだろうが、魔法使養成学校に通うシュミラとレグナにとってサバイバルなどは必修科目だ。食料の現地調達などは苦にならない。

 毎日好きなだけ野草と動物肉を食べ続けた結果シュミラの体重は順調に増え続けた。

 実際胸のサイズは旅を始めた頃より確実に大きくなっている。だがそれが分からないのも全体的に何となくふっくらしてしまったせいかも知れない。

「ぽっちゃりの間違いじゃないの?」

 とまたデリカシーの無いレグナの横腹に肘打ちを食らわす。

 うずくまるレグナを冷たく見下ろしながら、しかしさすがにそろそろ食事を制限しなければヤバいかとも思う。大体なんでこいつは同い年なのに体型が変わらないのか。

 しかし腹は減る。育ち盛りなのだ。

 だが先程森を見ていたのは別に夕飯の獲物を物色していた訳では無い。

「…気のせいかな」

 確かに森の中から魔法が使われる感覚がしたのだが。

「魔法?フィールドを広げてた訳じゃないんだろ?」

 レグナも森に目をやる。だがそもそもレグナは魔法学フィールドを持たないのでその辺は視覚に頼るしかない。

 魔法学フィールドとは、一言で言えば魔法使の身体を覆うバリアのようなものだ。

 文字通りバリアとしての機能もあるが、どちらかと言えば魔法発動としての機能の方が説明としては分かりやすい。

 身体に宿った結晶体を介し、魔法文字で組まれた呪文を使い魔法の力を操る者。

 彼らの事を魔法使と呼んだ。

 魔法使の歴史は古く、最古の記録を紐解いてみてもほとんど現在と変わらない、完成された形で記されている。

 一昔前は結晶体を持って生まれる事が魔法使の要素とされていたが近年になって、具体的には大戦中の研究によって必ずしもそうでは無い事が分かってきた。

 それがレグナのように『結晶体を持たざる魔法使』だ。

 つまり結晶体は魔法発動の為の最大の要素ではあるが、結晶体そのものは魔法使になる為の要素では無いと言う事だ。

 レグナは結晶体を持たずに生まれたが魔法使としての要素は持っていた。だからレグナは結晶体を用いれば魔法使と同じように魔法を行使する事ができる。

 ただし普通の魔法使ですら自分のものとは別の結晶体の能力を完全に引き出すのはかなり難しい。実際には半分も使えれば良いところだ。

 なので自らの結晶体を持たない『持たざる魔法使』はどうしてもその能力が魔法使よりも劣らざるを得ない。

 例えば普通の魔法使は身体の周囲の空間を覆う事ができるバリアとしてのフィールドも『持たざる魔法使』は結晶体の周りからせいぜい身体を覆う程度にしか張る事が出来ない。

 また普通の魔法使はフィールドを広げる事で周囲の空間を認知する感知圏と言う範囲を持つが、『持たざる魔法使』は一切展開出来ない。

 つまり彼らは普通の魔法使が使える能力の内、魔法発動以外の能力をほとんど行使出来ないのだ。

 その魔法の威力も普通の魔法使とは比べるべくも無い。

 一般人でありながら魔法使に近く魔法使よりは一般人に近い彼らは、若干の揶揄も込めて『手品師』とか『ジャグラー』などと呼ばれていたが、最近は『アンソーサラー』と言う呼び名が主流だろうか。

 アンソーサラー、つまり『持たざる者』だ。

 そんなアンソーサラーも一般の兵士と比べれば遥かに強い。むしろ能力が単なる人間に近い分部隊に組み込みやすく、さらに訓練された兵士からも多くのアンソーサラーが生まれた事により大戦中はかなり重宝されたらしい。

 何より魔法使よりも数が多い。

 大戦中期には一握りだったアンソーサラーの数は終戦時には全体の二割近くにまで膨れ上がったと言う。

 それはともかく。

「…まあ良いわ。行きましょう」

 シュミラは唸りながら額に指を当ててフィールドを広げる真似をしていたレグナの頭を軽く叩いた。

 魔法の強さは単純に結晶体の保有量で決まってくる。魔法発動の為には魔法学フィールドが必要になり、魔法学フィールドの強さは結晶体の保有量と比例するからだ。

 フィールドの感知圏を展開していない状態のシュミラが感知できる程の魔法を行使できるのなら、その魔法使は桁違いの能力を持っている事になる。

 もし気のせいで無いならトラブルに巻き込まれる前にここを離れた方が良い。

 だがその時、森の入口あたりでフィールドを介すまでもなく明らかに草木が揺れた。ガサッと大きな音が響く。

「…………」

 思わずレグナと顔を見合わせる。

 草木は尚も揺れ続け、草を踏み分けるガサガサと言う音がどんどん大きくなっていく。

 シュミラはリュックの脇に括り付けていた魔杖を握った。

 もし相手が先にこちらを見つけているのだとしたら、もう逃げるのは間に合わない。

 同じように腰の剣の柄に手を添えたレグナを横目で見る。レグナはアンソーサラーだがその剣は特別製だ。少なくとも通常レベルの魔法使を相手にするに限ってレグナが負ける事はそう無い。

 だが相手がもし先程の魔法使だとすると…。

 シュミラは唾を飲み込み魔杖を強く握った。腰にぶら下げた布袋に手を入れザラザラとした感触を確かめる。学校や家では何度も使ったが『これ』を実戦で使うのは初めてだ。

 人を傷付けるのは好きでは無いがこの際仕方が無い。盗賊だか追剥ぎだか知らないが腕一本くらいは覚悟してもらおう。

 草を踏み分ける音はいよいよ大きくなり、森の出口辺りの木が左右に分けられた。

 レグナが鞘から剣を引き抜いた音がチン、と耳を打つ。

 シュミラの心臓が緊張でバクバクと脈打っている。

 しかし、足音の主が姿を現した瞬間、

「あれっ?」

 レグナがすっとんきょうな声を上げた。

 森から飛び出して来たのは予想に反してほっそりしたシルエットの少女だった。

 フラフラと頼りない足取りでこちらに向かってくる。

 何かから逃れるように森を振り返りながら走っていた少女は、前を向くとようやくこちらの存在に気が付いた。

 一瞬身を硬くする。しかし二人が同じくらいの歳の子供だと気が付くと安心したように頬を緩めた。

「あっ!」

 その瞬間、少女の身体は糸が切れたようにバランスを崩した。気が緩んだのだ。

 中途半端に勢いの付いていた身体が、たたらを踏みながら前のめりに倒れていく。

「レグナ!」

 受け止めなさい、と叫ぶよりも一歩早く踏み出していたレグナが地面に倒れる寸前に少女の身体を受け止めた。

「っと、あぶ…」

 言いかけたその瞬間、レグナの身体がそれと分かる程に震え凍り付いた。

 何かと思い慌てて二人に追い付いたシュミラは、レグナの腕の中を見て自分の認識の誤りに気付いた。

 少女ではなかった。

 美少女だ。

 いや、超美少女だった。

 冗談のように整った目鼻立ちに透き通るような白い肌。汗ばんだ首筋に張り付く柔らかそうな栗色の髪。

 あどけなさの残る顔立ちには不釣り合いとも思える、身体のライン。

 どれを取ってもとても同じ人間とは思えず、それは正に絵本で見たお姫様のようだった。

「えっ?あ…いゃ…その……」

 美少女にすがりつかれる形になり、耳まで赤く染まったレグナの横っ面を全力で張り倒す。

「そんな事してる場合じゃ無いでしょうが!ちょっとあなた大丈夫!?」

 シュミラの問い掛けにも少女は「…逃げ…て…追って…来る…」と荒い息を吐きながらうわ言のように返すだけだ。

 汗ばんだ手を取り脈をみる。

 早い。まるで何十分も走り続けたような脈になっている。

 それに発汗が異常だ。このままでは熱中症になってしまう。

 とにかく水分補給を。だが真水ではダメだ。

 レグナを呼ぼうとした時には、既に正気を取り戻していたレグナがリュックから水筒と調味用の塩を取り出していた。

 水筒の水に塩を入れて良く振り、少女の口元に運ぶ。

 少女は荒い呼吸を繰り返しながらも何とか水を口に含み、

「げほっ!!げほっ!!」

 噴き出した。

「ちょっとあんた入れ過ぎたんじゃないの!?」

「い…いや、そんなはずは」

 レグナは慌てて水筒と塩の袋を何度も見比べている。今更見たところで何か変わるものか。

「…辛いわ…」

 ギャーギャーと騒いでいた二人は、弱々しいが透き通るようなその声を聞いて動きを止めた。

 いつの間にか目を開いていた少女がシュミラを見つめている。その美しいエメラルドグリーンの瞳に同性のシュミラですら思わず心臓が弾んだ。

「ご…ごめんね。我慢して。このままじゃあなた倒れちゃうわ」

 大量に汗をかいた時は水分と一緒に塩分も抜けているから、水だけ補給をすると脱水症状に陥ってしまうのだ。

 うつろな瞳でシュミラを見つめていた少女は僅かに頷くと今度は吐き出さずに水を飲み始めた。

 コクコクと音を鳴らす細い喉を見ながらもう一度腕を取ったシュミラは、そこに小さな傷が無数に付いている事に気が付いた。いや腕だけでは無い、頬や脚にも木の枝や葉で付いたと思われる傷が無数にあった。

「こんなに傷だらけになって…。あなた、一体どうしたの?」

 だが少女は水筒から口を離すとそのまま意識を失ってしまった。

 シュミラの頭からサッと血の気が引いた。

 慌てて少女の身体に触れる。

 が、幸いにも少女は眠っているだけのようだ。

 よほど疲れたのだろう。意外にも穏やかな寝息を立てている。

 もう一度レグナと目を見合わせ、取りあえず少女を地面に寝かすと二人は一息ついた。

 人形のような少女の寝顔を眺めながら、この子は一体何者なんだろうと思う。

 それと同時に何か重要な事を忘れている気がした。何だろう。

 少女は眠りながらも柔らかそうにぷっくり膨らんだ唇の間から何か言葉を漏らしている。

 耳を近付けるがその声は形にならない程にか細くて良く聞き取れない。

 そう言えば先程も何かうわ言を唱えていた。

 少女は何と言っていたのだったか。

 しばらく考えていたシュミラは、次の瞬間自分が何を忘れていたのか唐突に思い出した。

「!?」

 しまった。

 慌てて魔杖を掴んで立ち上がるが、その時には『そいつ』はもうそこに立っていた。

 シュミラ達に一切気取られる事無く、しかし今や猛烈な殺気を身にまとったその男は、黒い服とそれに合わせたような漆黒の髪の間から射抜くような目でシュミラ達を睨んでいた。

「やっと見つけたぜ」

 男の呟きに心臓が跳ね上がる。

 少女は何故森を走っていたのか。少女は何を恐れていたのか。

 思い出した。少女は『逃げろ』と言っていたのだ。

 シュミラは苦い唾を飲み込む。

 間違い無い。

 少女を追っていたのはこの男だ。

 そして同時に直感する。

 この男は強い、と。




「その子を渡してもらおうか、ガキども」

 男と二人は八メートル程の距離を経て対峙していた。

 男は黒いコンバットブーツに黒いズボン。黒い上着にあつらえたような黒髪と黒い瞳。右手には指先の出る手袋がはめられているが、ご丁寧にもそれも黒と言う念の入れようだった。

 レグナは腰の剣の柄に手を置いたままちらりと横を見た。

 少女に水を飲ませる為に荷物を下ろしていたレグナと違い、シュミラはまだリュックを背負ったままだ。先制攻撃を仕掛けられた先程と違い、ここまで接近されてはその状態で戦う事は不可能だ。

 どうする?

 シュミラの話を鵜呑みにするまでも無く、剣士の直感でこの男が桁外れの力を持った戦士だと言う事が分かる。

 恐らくレグナ一人では勝てない。

 だがシュミラがいれば話は別だ。

 魔法使だった育ての父親から、シュミラは幼少より英才教育を受けている。少なくとも同年代の魔法使に限ればその実力はアルテイルで五指に入るだろう。

 だがシュミラは魔杖を片手に持ちながらも、男の言いようの無い威圧感に身動きが取れないでいた。

「この子を連れて行ってどうするつもりだ?」

「お前達には関係無い」

 時間稼ぎにどうでも良い話を振ってみてもにべもない。

 軽く舌打ちしてもう一度シュミラを見た。

 シュミラもこちらと目を合わせ軽くうなずく。

 良く考えれば男の狙いは地面で寝ている少女なのだから、おとなしく渡してしまえばレグナ達には害は及ばない。

 だが、恐らくシュミラが訴えていたのはそう言う事では無い。

 レグナは無理矢理口元に笑みを浮かべ剣の柄を強く握った。

 できないよな、そんな事。

 昔から騎士とは美しい女性を守るものと決まっているのだ。

「渡さないって言ったら…どうする?」

 その瞬間、場の空気が変わった。目に見えると思える程の殺気が噴き出し、手袋に覆われた男の右腕から赤い光が染み出す。

「排除する」

 肌が泡立つ。

 だが一瞬早く動いていたレグナは一気に鞘から剣を抜き払った。

「言ってろ!!」

 そのまま顔の横に構えた剣を赤い呪文の光が先端に向かって流れる。

 男が身構えるよりも早く、レグナの身体を衝撃が貫いた。

 剣から放たれた不可視の弾が男が立っていた空間を抉る。

 地面に突き刺さった弾が衝撃と爆音と土煙を噴出させた。

 剣から伝播した振動で手足が痺れる。

「やったか!?」

 剣を抜いたレグナがまさか遠距離攻撃を仕掛けるとは思っていなかったはずだ。

 シュミラが態勢を整えるまでの時間稼ぎのつもりだったが、アンソーサラーの魔法とは言え不意を突いた上に直撃ならもしや…。

「レグナっ!!」

 そこまで考えた時、シュミラの悲鳴に似た声が耳を打った。

 しかし振り返る余裕は無かった。

 気が付いた時、どう言う訳か八メートル先に居たはずの男の姿がレグナの真正面にあった。

「なっ!?」

「はっ!!」

 地を這うような姿勢で男が獣じみた笑みを浮かべる。

 驚愕の声を上げる間もあらばこそ、男の身体がレグナの懐に滑り込み。

「がっ!!」

 次の瞬間、レグナの身体が宙を舞った。




「レグナぁ!」

 ようやくリュックを下ろしたシュミラの目の前で、レグナの身体が吹っ飛んだ。

 比喩では無い。懐から突き上げられるように攻撃を受けたレグナの身体が、文字通り地上二メートル程の高さを飛んでいる。衝撃で手を離れた剣が高々と宙に舞い上がる。

「がはっ!」

 受け身も取れず地面に叩き付けられたレグナは胸を押さえて苦しげに喘いでいた。

 レグナが服の上から着けていた鉄製の胸当てがまるでハンマーの直撃を食らったように陥没している。

 シュミラは戦慄した。

 有り得ない。男が使ったのはハンマーなどでは無く生身の、しかも手袋に覆われてすら無いむき出しの肘なのだから。

 子供とは言え、普通の人間が人一人をあそこまで吹き飛ばす事などできるはずが無い。

 そう、普通の人間なら。

「魔法使…」

 確かに魔法ならその攻撃力にも納得がいく。だが攻撃の直前に見せた男の異様な移動速度。それがシュミラの頭を混乱させる。

 先に攻撃を仕掛けられたのにも係わらず、男はそれをどうやってか避けた上に八メートルの距離を一瞬でゼロにしてみせた。

 シュミラの目から見てもあれは瞬間移動にしか見えなかった。

 その移動能力と攻撃力がどうにも魔法とうまく結び付かないのだ。

 男の結晶体が右腕の手袋の下にあるのは間違いないだろう。

 だが魔杖も持たない男があの超加速と攻撃を同時に使った事が理解出来ない。

 魔法使が生身で扱える魔法は通常一種類だけだ。これはアンソーサラーだろうが何だろうが変わらない、魔法使が持つ絶対の不文律だ。だから二種類以上の魔法を組み合わせようと思うならば、必然的に増やしたい魔法の数と同じだけの結晶体が必要になる。

 なら能力はあくまで超加速だけで攻撃力は付随する何かか、魔法とは別の技なのだろうか。

 いや、男は鉄製の胸当てを殴ったのだ。しかも結晶体とは全く関係の無い肘打ちで。

 全てが理屈に合わない。一体何なのだ、この男は。

 男は落下してきたレグナの剣を見もせずに片手で掴むと、よろける事なくそのまま肩にトンと乗せた。

「さて、お仲間はやられちまったぜ。あんたはどうする?お嬢ちゃん」

 不敵、とはこう言う事を言うのだろう。

 奥歯を噛み締める。男が手加減したのは間違いない。一撃で殺されても文句は言えなかったのに、手を抜かれたのだ。

 だがレグナは完全に沈黙してしまった。

 自分だけでやれるか?

 いや、そもそもなんでそんな必要がある?次は殺されるかも知れない。

 素直に少女を引き渡してしまえば。

 そう言えば少女と男の関係も不明なままだ。実は少女はすごく悪い奴で男が正義の味方なのかも知れないじゃないか。

 シュミラは目だけで地面の少女を見た。美しい。同性のシュミラから見ても素直に美しいと思える寝顔。

 そしてもう一度男を見る。

 …覚悟は一瞬で決まった。

 こんな黒くて見るからに悪そうな奴、正義の味方な訳がない!


「えーいっ!!」

 シュミラは右手を突っ込んでいた布袋から手を引っこ抜くと、手の平いっぱいに握った『それ』を目の前の男に全力で投げ付けた。

「なんだそりゃ」

 しかし男は首を僅かに傾げただけで難なく『それ』を全て避けてしまった。

「おいおい、そんな目潰し効くかって…」

 呆れたように言ったところで、突然男の表情が変わった。

 後ろを振り返りながら地面に身を投げ出した男の頬を、高速で飛んできた赤い光が掠める。

「ちっ!」

 地面を回転した男はそのまま強く地面を蹴る。その後を追うように次々に地面に光が突き刺さる。

 男は何とか体勢を整えようとするが、次の瞬間地面を突き破ってはね上がった光が空中に弧を描き、逃げる間を与えず男を襲う。

 その時、男の身体を球状の揺らぎが包む。魔法使が持つフィールドのバリア機能を展開したのだ。

「甘いわ!」

 シュミラはグッと瞳に力を入れる。

 光は男を中心に螺旋を描いて舞い上がると四方から男を襲った。フィールドのバリアをあっさりと貫通し、男の手足を浅く切り裂く。

「くそっ!結晶体弾頭か!」

 男が呻いた。

 シュミラは立ち上がると魔杖を両手で握り男と少女の間を塞ぐような位置に立つ。

 左の眼球と魔杖の先端に埋め込まれた結晶体に、魔法文字で組まれた無数の呪文の文字列が赤い光を放ちながら流れていく。

 男の周囲を舞う無数の赤い光は小指の先程の小さな結晶体で、幾つかのさらに小さな結晶体が集まって構成されてる言わば『小さな魔杖』だ。

 シュミラはビットと呼んでいる。レグナは子機とか言っているがビットのが断然可愛い。

 魔杖のフィールドとリンクしたビットがシュミラの思い描いた通りの軌道を描く。

 結晶体は言ってみればフィールドの塊だ。フィールドの強さがそのままバリアの強度に変わる魔法使戦闘において、結晶体そのものの突撃を防ぐ手段は基本的に無い。

 予想通り男の戦闘能力は凄まじいものだった。致命傷を与えないようにしているとは言え、縦横無尽に飛び回るビットを不十分な体勢のまま紙一重で避け続けている。 だがその能力の高さを逆手に取り意図的に回避の方向をコントロールする事で、シュミラは男を少女から完全に引き離す事に成功した。

 ビットは男の周りを旋回しながら次々に男に向かって突入し、男の身体を掠めた後は再び旋回に戻る。

 無限に攻撃を打ち出すビットの旋回の、その半径が徐々に小さくなっていく。このまま今まで意図的に開けていた逃げ道を塞げばシュミラの必勝パターンだ。

「ねぇ!!このまま引き下がってくれればこれ以上はケガさせないんだけど、どうかな!?」

 シュミラの言葉に男は舌打ちを返した。

 なら仕方が無い。

 甚だ不本意ではあるが男には戦闘不能になってもらおう。

 狙うは脚。大腿骨の周りの筋肉を後遺症の残らない程度に破壊する。

 魔杖のフィールドの範囲内であれば目的の筋肉をピンポイントで狙えるだけの精度をシュミラは持っていた。

 シュミラの指示に従いビットの旋回全体がグラリと揺れ軌道を変える。

 しかしその時、

「あっ!バカ!」

 シュミラがビットに指示を与えたのにピッタリ合わせたようなタイミングで男が動きを止めた。

 正確に男の脚を貫くはずだったビットが男の頭に向かって雪崩落ちて行く。

 まずい。

 もう今からでは間に合わない。

 ビットが男の頭を破壊するまでの一瞬でシュミラはそんな事を思った。

 刹那、ギィンと金属とは違う乾いた衝突音が耳を打つ。

「えっ?」

 突如シュミラのフィールドの感知圏から先程打ち出したビットが消えた。

 そして、男が右肩に乗せていたはずのレグナの剣がいつの間にか振り上げられていて、その周りを砕けたビットの欠片が舞っている。

「いっ!?」

 受け止めた!違う、弾いた!?

 馬鹿な。ビットは圧縮空気の力を利用して加速を得ている。その最高速度は音速を越える。今は精度を確保する為にそこまでの速度は出していないが、それでも人間が認識できる速さでは無い。

 魔法学フィールドの感知圏を使ったとして、認識できたところで反応できるはずが無い。

 まして、弾く事など。

 次の瞬間、シュミラは自分の考えの甘さを知った。

 男の肘から先だけが猛烈に加速し、雨のように降り注ぐビットを片っ端から叩き落としていく。

 普段レグナの剣術を見ているシュミラには分かる、男は間違い無く剣術に関しては素人だ。

 だが体重移動も何もなくただ振り回している手打ちでしかないのに、男の剣は目に見えない程に速い。

「なっ…な…!?」

 唖然とするシュミラの耳にビットが砕ける音が響く。

 そして全てのビットを叩き落とした男が剣をこちらに向けて静止した。

 驚いている場合じゃなかった。もう逃げられない。

 殺られる!!

 爆発音に似た衝撃をまとい、男の身体が何の予備動作も無く加速した。抉れた地面から土が跳ね上がる。

 瞬時に最高速になった身体が五メートルの距離を不可解な加速で一気に駆け抜けた。

 シュミラは咄嗟にバリアを展開するが、無駄なのは分かっていた。

 男の持つレグナの剣は魔法を発動できる。この世界で魔法を発動できるのは結晶体だけだ。

 そして結晶体は、魔法学フィールドを突破できる。

 剣の切っ先がシュミラのフィールドを貫いた。

「っ!!」

 その薄い透明な膜をまとう鋼の先端がシュミラの喉元に突き立てられ、皮膚を破り気管を切り裂き、骨や筋肉を分断し頸動脈の血圧のままに血を吹き上げ反対側に抜けるはずだったその剣が。

 『ビタっ!』と言う擬音がそのまま当てはまるような、直前までの加速を全く無視するような不自然な挙動で、男の身体と一緒に完全に停止した。

「…っ!!」

 剣の切っ先はシュミラの喉元に食い込んでおり、寸止めと言うのもおこがましい程の、唾の一つも飲み込めばそれだけで皮膚が裂けてしまいそうなギリギリの力加減で押し込まれている。

 縫い止められてしまったように、動けない。

 長い前髪の間から覗く男の目がシュミラを睨む。

「…ったく。その小僧と言いあんたと言い、驚かせてくれるぜ」

 意外にも男は少し楽しそうに口元を歪めていた。口角が僅かに上がるだけの、ある意味皮肉っぽい笑み。

 辛うじて生き残ったビット達に指示を送る。赤い線を引いて舞い上がったビットが男の周囲を取り囲む。

 その大半が破損しているのか軌道がおかしい。

「…余計な事は考えるなよ。女を殺す趣味は無いんだ。あの物騒なものを下ろしてもらおうか」

 シュミラは思わず唾を飲み込みそうなるのを必死にこらえた。

 バレている。

 それにしてもなんて目で人を見るのだ。睨まれているだけで腰から下の力が抜けていくのを感じる。

 どうしよう…。

 見ず知らずの女の子の為に死ぬ程お人好しでは無いが、それを甘んじて受け入れられる程には人間ができていない。

 だが挙動の怪しいビットでは男を倒すよりも先にシュミラの首が跳ねられてしまう。

 キリキリと締め上げるように増していく緊張感。

「お前は…」

 男が何か言いかけた瞬間、横合いから男に向かって飛び付く人影がその緊張感を打ち破った。

「うぁぁ!剣を返せぇ!」

「レグナ!ダメ!」

 雄叫びを上げて男に組み付いたレグナは、しかし組み付く事はできなかった。

 男は剣から手を放すと、今まさに組み付こうとしていたレグナの懐に潜り込み、次の瞬間その身体が跳ね上げられた。決して小柄では無いレグナの身体が宙にキレイな半円を描く。

「がっ!はっ!」

 容赦無く地面に叩き付けられレグナは今度こそ完全に沈黙した。

 男はレグナを組み敷くと、いつの間にか手の中に現れていたナイフをその首筋に向かって振り下ろす。

「やめて!!」

 ドスッとナイフが突き立つ音が耳を打ち、シュミラは首をすくめた。

 レグナの四肢がビクリと震える。

 恐る恐る目を開くとナイフはレグナの首の数センチ横の地面に突き刺さっていた。

 そのままナイフの刃がレグナの首に押し当てられる。

「やめて!」

 もう一度叫んだシュミラを男はゾッとするような冷たい目で見上げた。

「女を殺す趣味は無いが、こいつなら話は別だ。あんまり調子に乗るなよ。二度目は無い。あれを地面に下ろせ」

 有無を言わさぬ、それは静かな恫喝だった。

 シュミラはグッと息を詰まらせると溜め息を吐いた。

 ごめんね、と心の中で謝りシュミラは魔杖を下ろした。家族とではかける天秤が無い。

 光を失ったビット達がボタボタと地面に落下する。

 完敗だった。

 あそこまで追い込んで負けた事は無かったのに。

「あなたは一体…」

 あの戦闘能力。確かに半端では無い魔法能力だが、決してそれだけにあぐらをかいたものでは無かった。

 肉体の部分を限界まで鍛え上げて始めて可能になる破壊力。

 想像を絶する死地を潜り抜けなければ得られないであろう判断力。

 あの超加速。

 不意にシュミラの頭の中に一つの名前が浮かんだ。

 それは一番近くに生まれた伝説。

 魔法使で知らない者はいない。その名を口にするのも憚れるような。

 味方からはアルストロメリアの英雄と呼ばれ。

 敵からはアルストロメリアの悪夢と恐れられた。

 九年に渡る大戦で最も敵を殺したと言われる。

 あの特徴的な黒髪。黒い瞳。

 ―黒い戦士―

「まさか…ベル…」

「…やめて、イブリース」

 突然予期していない方向から声が発せられ、シュミラは思わず「ふぇっ!?」と変な声を上げてしまった。

 振り向くとさっきまで意識を失っていた少女が身体を起こしてこちらを見つめている。

 いや、シュミラではなくて視線はその先、未だにレグナの首筋にナイフを当てている男に向けられていた。

「しかしシェラ、こいつらは…」

「この方達は私を助けて下さったのです」

 途端に置いてきぼりになった気分で二人のやり取りを聞く。

 知り合いだったの?

 そうなると安心する反面急に頬が熱くなるのを感じる。

 男の話も聞かずに攻撃を仕掛けたのはこちらの方だ。

「あ、あの…」

 シュミラは控え目に声を発してみる。

 だがきっちりそれを無視した男は、しかし緩めるどころかその表情はさらに厳しいものに変わっていた。

「バカな。では奴等は…」

 言いさして、表情が強張る。先程のシュミラと同じように何かに気が付き慌てて背後を振り返った。

 そこは森の出口。

 男が現れた時と同様にそいつらはそこに立っていた。

「えっ…あれって…」

 それは場を支配する緊張感が無ければもしかしたら笑ってしまうような、ある意味滑稽な格好だった。

 森から出て来たのは三人。それぞれが白銀色、黒銀色、青銅色の、まるで二百年前の魔法大戦の世界から抜け出てきたような、つまり時代錯誤にも騎士然とした鎧を身に着けていたのだ。

「ちっ…無駄な時間を…」

 男が吐き捨てるように呟いた。




 イブリースは自分の迂闊さを内心罵った。

 あの子供達が追っ手で無い事くらいは少し考えれば分かりそうなものだった。

 だが倒れたシェラを見た瞬間に冷静さが吹っ飛んだ。森で切り付けられたイメージから少年の剣を見た瞬間に決め付けてしまった。

 柄にも無く慌てていたか…。未熟だな。

 チラリと背後を見るとシェラは多少色白い顔をしていたが、幸い大きな怪我は無いようだった。

 良かった。

 シェラを失う訳にはいかない。今のイブリースにとって彼女の存在は自分の生きる理由の半分を占めている。

 あの騎士達の正体は知れないが、誰であろうと邪魔をする者は排除する。

 イブリースは未だ足下でノびている少年を横目で見た。

 ―しまったな。思いっきり叩き付けちまったからなぁ。死んでなきゃいいが―

 少し後悔しつつ、ブーツの踵で軽く少年の頭を蹴る。

「おい少年、聞こえるか?」

 だが少年は白目を剥いたままピクリとも動かない。

 騎士達は僅かに目配せをすると白銀を中心に左右に広がった。森の中でもそうだったが警告をするとか、そう言う気は無いらしい。

 目撃者は全員始末する気だ。

 ならそんな目立つ格好してんじゃねぇよ。

「…うっ…?」

 僅かに焦燥感を募らせていた時、ようやく少年が意識を取り戻した。

「気が付いたか少年」

「ぅ…あれ…?」

 まだ意識がはっきりしないのか、前後不覚と言った感じで左右を見回している。が、悪いがそれにかまっている余裕は無い。

「少年、さっきは悪かったな。少々状況が変わった。悪いが協力してくれ…っておい、聞いてんのか!?」

 少年は虚ろな目でぽかんとイブリースを見上げている。

 騎士達が剣を抜く音が空気を震わす。その動作は兜に覆われて表情が読めない分、無機質で不気味だった。

「しっかりしてくれ。あの子を助けたいんだろ?このままじゃ皆やられちまう」

 それを聞いた瞬間、少年の目に光が戻る。

 よしよし。男はそうでなきゃいけない。

「良いか、お嬢ちゃんも聞いてくれ。奴等あんなふざけた格好をしてるが腕は中々のものだ。俺でも三人同時に相手にするのはちょっと分が悪い」

 少女がぐっと息を飲む。

 そう、あんな動きにくそうな格好ながら騎士達は森の中で見事なコンビネーションを仕掛けてみせたのだ。はっきり言ってこんな広いところでもう一度あれを食らって、避け切る自信はあんまり無い。

「だから一瞬だけで良い。奴等の内誰か一人を足止めしてくれ」

「ひ…一人だけで良いの?」

 明確な目的が与えられて安心したのか、未だにうろたえた感じながらも少女が控え目に声を出した。

 確かに数だけなら三対三だが。

「まぁ欲張るなよ。さっきから俺が悪者みたいになってたからな。ここらで誰が主役なのかはっきりさせとかないといけない」

 それを聞いた少女と少年がきょとんとした顔でこちらを見る。

 やばい、外したか?

 だが少女達はお互いの顔を見合わせると、「ぷっ!」と耐え兼ねたように噴き出した。

「あははっ。あ〜おかしい」

 笑い過ぎだ。

 少女は軽く涙を浮かべながら、

「ねぇ、一つ聞かせて。あなたあの子の味方なのよね?」

 と聞いてきた。突然話題に上らされて少女の後ろでシェラがびっくりした顔になっている。

「当然だ」

 その答えを聞いて、少女は何故か嬉しそうに微笑んだ。

「良いわ。あなたを信用する」

 そして少し挑戦的な目でイブリースを見る。

「でも強いからって油断してると私達があなたの活躍の場を取っちゃうんだから」

 今度はイブリースが少し驚いて眉を上げた。

 見ると足下の少年も同じような顔でこちらを見ている。

「はっ!」

 面白い。さっき手合わせした時も思ったが、今はより強く思う。

 こんな状況にも係わらず自分の口元に笑みが浮かぶのを感じる。

 こんな面白い奴等を死なせてしまうのはいかにも惜しい。

 ミスは許されねぇな。

 背負うものは多い方がいい。

 国を失った自分のような人間には。

「よし、頼んだぜ剣士!」

 少年に言い残して、イブリースは地面を強く蹴った。

 重い『足応え』が全身に伝播し、身体が一気に加速を得る。

 耳に響く風切り音。見る間に騎士達との距離が詰まって行く。

 だがその時、予想外の事が起きた。

 奴等が部隊を分断したのだ。

 自分の方に向かって来た騎士は青銅が一人だけ。残り二人はイブリースの横を素通りして子供達の方に直行する。

 イブリースを無視して直接シェラを確保するつもりか。

 それがイブリースの癇に触った。気に食わない。

 俺の相手は一人で十分だってか?

「はっ!」

 イブリースの口元に獣じみた笑みが浮かぶ。

 ナイフを握った右手の手袋を呪文の光が流れる。

「舐められたもんだぜ!!」

 そのまま何の工夫も無くイブリースは青銅の騎士に突っ込んで行った。




 男が走り出すのを合図にシュミラとレグナはほとんど同時に動き出した。

 シュミラが布袋からビットを掴み出す間にレグナは反転し剣を掴む。

 立ち上がろうと踏ん張り顔を上げた瞬間、

「嘘つきぃ!!」

 叫んだ。

 馬鹿正直に突撃して行った男を素通りして、白銀と黒銀が一直線にこちらに向かって来る。

 何が一人だけで良いだ!

「ぼやいてないで!来るわよ!」

 シュミラの手の中から新しいビットが次々に飛翔していく。その半分は空中で反転すると背後の少女の周囲に停滞した。ビットの間を結ぶように呪文の光が空間を走り、その身体をフィールドのバリアで覆う。

 少女が驚いて目を丸くする。

 これでひとまず彼女の身は安全だ。もちろん術者であるシュミラがやられてしまえばフィールドの効果も無くなってしまうのだが。

 レグナは一息に立ち上がる。フラリと頭が揺れた。まだ先程のダメージが抜けていない。手に馴染んでいるはずの剣が重い。

 思いっきり投げやがって。子供相手に大人気ない奴。

 内心で毒付きつつ、シュミラから距離を取る。

 ビットは基本的に魔杖のフィールドの範囲内でしか使えないので、少女の周りにバリアを張った状態だとシュミラはほとんどその場に釘付けになってしまう。

 万一騎士と二対一になればひとたまりもないだろう。

「姉さんは黒い方を頼む。一対一ならその子を守りながらでもいけるよね?」

 それを聞いたシュミラが誰に聞いてんのよ?と勝ち気に微笑む。

「人の心配してる場合?一対一じゃフォローはできないからね。あんたも怪我すんじゃないわよ!」

 言うと同時にシュミラの眼球を走る呪文の光が強く輝き、身体の周囲を舞っていたビットが赤い光の線を引き残して宙に散っていく。

 レグナは剣を下段に構えると白銀の騎士に向かって走り出した。

 少女を守るのがシュミラの役目なら、シュミラを守るのは自分の役目だ。

 騎士を分断する。何としても一対一の状況に持ち込む。

 圧縮空気の力で瞬時に加速を得たビットが、重力と慣性を無視したように軌道を変える。

 空中に鋭角な光の軌跡を残し黒銀の騎士に全方位から襲いかかった。

 黒銀はフィールドのバリアを展開するが、あっさり貫通したビットを見て兜で覆われた無機質な顔面が驚愕を示すように揺れる。

 しかし進入角度の問題で鎧に当たったビットはその表面を滑って後方に流れてしまう。

 そこまでは計算通り。

 あくまで黒銀の意識を散らす為のフェイントで、本命は黒銀の後方と側方から。地面スレスレを飛ばしていたビットが黒銀のフィールドを貫く寸前で鎌首をもたげるように跳ね上がった。

 狙うは大腿部、そして両腕の付け根。

 その角度なら間違いなく黒銀の鎧を貫くはずだ。

 だが、驚くべき反応を見せた黒銀がその鈍重に見える身を反転する。不自然な姿勢ながら剣が凄まじい勢いで空中を一閃した。

 破砕音。

 感知圏からビットが消失する。

「まっ、また!?」

 今日は何の日!?

 追撃のビットを身体を地面に投げ出すようにして避けた黒銀が回転する勢いで地面を蹴り一気に加速する。

「姉さん!」

 シュミラの思わぬピンチに我を忘れそうになったレグナは、

「危ない!!」

 しかし少女の叫び声を聞いて我に返る。

 瞬間、視界が急に明度を落とした。

 一瞬雲が太陽を遮ったのかと思った。しかし周りの地面は明るい。

 レグナの足元だけが暗い。否、レグナの身体が太陽から覆い隠されている。

「っ!?」

 しまった。人の心配をしてる場合じゃなかったのに。

 いつの間にか肉薄していた白銀の騎士が、その大振りの剣を大上段に構えていたのだ。

 速い!黒銀はまだ森の出口から半分程しか進んでいないのに。この重装備で何で!?

 逆光で黒く染まった白銀の鎧の隙間から赤い呪文の光が染み出す。

 レグナは剣を頭上に構える。瞬間、肌が泡立った。理由など無い。だがそれは純粋な直感、強いて言うならば訓練で鍛えられたレグナの剣士としての勘だった。

 一も二も無く地面に身を投げ出す。

 それがレグナの命を救った。

 次の瞬間振り下ろされた騎士の剣がレグナの直近を擦過する。

 ゴッと身も竦むような音が耳を打つ。だが本当に驚くのはその後だった。

 剣先が地面に突き刺さるその瞬間、炸裂音にも似た形容しがたい音が剣から発せられた。

 地面に刺さった剣の延長線上を亀裂が走る。いや、亀裂では無い。断面は滑らかだ。

 剣のリーチを遥かに越えた地面が、その先の石畳諸共に切り裂かれたのだ。

 白銀の対応は迅速だ。驚いている暇は無い。

 剣を引き抜くと無駄の無い動きでレグナを追撃する。

 一見ゆっくりに見えるその動作は驚くほど速い。

―ま、間に合わ…―

 崩れた体勢のまま、レグナは辛うじて剣を立てて防御に備えるが、相手は片手、こちらは両手。なのにレグナの剣を打った白銀の剣撃は防御しきれない程に重かった。

「ずぁっ!」

 火花が散る。剣が手から離れんとするのを必死に抑えるが、弾かれた剣はそのまま地面に叩き付けられた。

 衝撃で両手が痺れてる。

 次の一撃は…避けられない。

 白銀がもう一度上段に剣を構えるのを呆然と見上げる。

 鎧から赤い呪文の光が染み出す。

『死ね』

 兜で覆われた無機質な顔がくぐもった声で言った。

 男の声だった。

「っ!!」

 剣が振り下ろされる瞬間は見れなかった。咄嗟に固く目をつむる。

 剣が風を切る音が聞こえた。

 そして―

「オーケー。上出来だ少年」

 声と同時に例の炸裂音が響いた。

「え?」

 目を開けると視界が黒で染まっている。一瞬自分は死んだのかと思ったが、違った。

 どう言う訳か一瞬前まで遥か前方に居たはずの男の姿が目の前にあった。

 意味不明の事態に頭が混乱する。何が起きてる?

 見れば先程まで男が立っていたあたりに青銅の騎士が仰臥していた。ピクリとも動かない。

 そう、男は一人倒してから引き返して来たのだ。僅かこの一瞬で。

 男はナイフを握った右腕で騎士の剣を受け止めている。しかしナイフで受け止めていた訳では無い。

 衝撃で袖が引き裂け、男の前腕の中ほどまでを覆う黒い手袋が見える。

 その後面には厚さ一センチ程度の金属の板が腕の動きを妨げないよう幾つかのパーツに分けて貼り付けられており、驚くべき事に男はその手甲とも呼ぶべき手袋に覆われた右腕一本で白銀の剣を受け止めていたのだ。

 レグナが両手でも弾き飛ばされたあの剣を。

 男の口元にあの皮肉っぽい笑みが浮かんでいる。

 その手袋を呪文の光が流れる。

「ははっ!」

 次の瞬間、右手に握られたナイフが一閃した。

 キィン、と甲高い音が響く。

「!!」

『!?』

 その時になって始めて白銀が感情らしい反応を見せた。無機質な兜の顔面が驚愕に揺れる。

 レグナからはナイフが剣の中を通過したように見えた。

 いや、それはあながち間違いでは無かった。

 何故なら、ナイフは頑強であるはずの白銀の騎士の大剣を切断していたのだから。

 真ん中辺りから切断された剣が地面に落下する。その断面は滑らかで、鏡のように光を反射していた。

 男はナイフを振り抜いたのとほとんど同時に、襟元に添えていた左手を横に向かって無造作に振り抜いた。

 その手から放たれた何かが陽光を反射して一瞬きらめく。

 甲高い衝突音が響く。

 それは一気に肉薄し、今まさにシュミラを切り付けようとしていた黒銀の剣のど真ん中に突き刺さり、弾き飛ばした。

「えっ!?」

『なっ!?』

 シュミラと黒銀が同時に声を上げる。

 信じられないと言った様子で黒銀が見つめている剣に刺さっているものは。

「投げナイフ!?」

 細身の、剣に比べれば十分の一の大きさも無い投げナイフが剣の横腹に突き刺さり完全に貫通していた。

 一瞬の自失。だがすぐに我に返る。黒銀の動きが止まっている。

 今しかない。

「うあぁぁぁぁ!!」

 全力で振り抜いた魔杖が、狙いたがわず剣に突き刺さったナイフを直撃した。

 既に強度を失っていた剣が破片を撒き散らしながらへし折れる。

『っ!馬鹿な!!』

「馬鹿はあんたよ!!」

 次の瞬間シュミラの意思に呼応し、地面に散乱していたビットが一気に宙に舞い上がった。

 視界いっぱいを覆う赤い光の点が不安定な軌道を描きながら黒銀に殺到する。

 加速が足りない。

 だが黒銀の身体を狙っている訳では無いから別にいい。精度も必要ない。

 黒銀の周囲まで来たビットが慣性を完全に無視してその場に停止した。

 次の瞬間バシッっと音が聞こえる勢いで、ビット同士を結ぶように赤い呪文の光が空中を走った。

 黒銀の身体が幾何学的な光の檻に囚われる。

 シュミラの意図に気付いた黒銀は必死に身を捩るが、無駄な事だ。

 ビットの間に張られているのはフィールドのバリア。個々の能力は低くとも、共有する事でビットは強力なフィールドを展開する事が出来る。

 しかも今回は男との戦いで場に散ったビットも総動員しているのだ。

 剣を失った黒銀がすぐに突破する事など絶対に無い。

「レグナ!!」

 後ろに飛び退きながら、シュミラは叫んだ。

 打ち合わせなどしていないしレグナが戦いの最中なのかも分からない。

 だがシュミラは出来ると信じた。自分の分身たる弟に願いを託す。

「おおっ!!」

 その願いにレグナは答えた。

 痺れる両腕を強引に振り上げ、その剣先を黒銀に向けて構える。

 剣身を呪文の光が走り抜け、剣先に不可視の弾が形成される。

 生み出されたのは魔法弾ですらないフィールドの塊。だがバリア状態のフィールドは魔法だけで無く剣やナイフと言った実体をも受け止める。

 つまりフィールドのバリアには実体としての質量を持っているのだ。

 アンソーサラーが戦時中に重用された所以とは何か。それは一般の兵士より強いからだけではない。

 アンソーサラーは魔法が使える。いや、フィールドを扱える。

 フィールドを介して生み出された攻撃だけが魔法使のフィールドを突破する事ができる。

 つまり、魔法使以外ではアンソーサラーだけが、魔法使を殺す事ができるのだ。

 純粋な質量の塊と化したフィールドの弾が、質量分の衝撃をレグナの身体にフィードバックしながら打ち出された。

 距離が近かった為弾はほとんど減衰する事なくビットの形成した光の檻に突き刺さり、ビット達を弾き飛ばしながら黒銀の身体を襲う。

『………!!』

 悲鳴は聞こえなかった。

 次の瞬間黒銀の身体に直撃した弾が弾け、煽りを食らったビットが四散した。

「ぃ良し!」

 漏れ出した衝撃波に髪をもてあそばれながら、シュミラは指を鳴らした。

「ははっ、やった」

 レグナも思わず笑ってしまった。信じられない。

 痺れた手から剣が落下するが、すぐ側にいる白銀の騎士に攻撃を受ける心配は無いだろう。

 彼に勝てる人間なんてきっといない。

 キィン!

 男の手から次々にナイフの斬撃が繰り出される。

 白銀は見事な反応でナイフを受け止めるが、その金属音が響く度に剣が切断されていく。

『くっ!』

 たまらずに後退する白銀を男がさらに追い詰める。

「逃がすかよ…!!」

 だが男はそこで踏み出しかけた足を止めた。

「何を…」

 レグナが言いかけたその時、男が止めた足の数センチ手前の地面が突然弾けた。

 少し遅れて乾いた音が空気を震わせる。

 弾丸!?

 レグナが驚くその間にも弾丸はさらに打ち出され、しかし男は無造作にナイフを振るうと自分の顔面、胸を狙って打ち出された弾丸を弾き飛ばした。

 その間に距離を取った白銀の騎士は、元の三分の一程の長さになってしまった自分の剣を見つめていた。

「よお!狙撃なんて姑息な手を使うじゃないか!騎士には騎士道なんてのがあるんじゃなかったのか?」

 男の挑発的な発言に白銀が無機質な顔をこちらに向けた。

『…貴様、何者だ』

「人に名前を聞く時は自分から名乗るのが礼儀じゃないのか」

 あくまで挑発的な男の態度に、白銀は少しだけ笑いを漏らしたようだった。

『私はI.C.E.第177小隊隊長、ベルトラル・リシェール』

「!?」

 その名を聞いた瞬間、シュミラの心臓が跳ね上がった。

 ―まさか―

「へぇ、アルストロメリアの英雄がこんなところで盗賊の真似事とはね」

 男の口元がきゅっと吊り上がり、先程とは違う凶悪な笑みが浮かぶ。

『貴様の名は?』

「どうせすぐ死ぬんだ。聞くまでも無いだろ?」

 言うと男はナイフを構え直す。

 悪だ。

 レグナは思った。完全に悪役だ。

『ふん。食えない奴だ。まあいい。だが三対二では少々分が悪いな』

「あ?」

 男が眉をひそめたその時、すぐ側で獣のような唸り声が聞こえた。

 そこは先程まで黒銀の騎士とシュミラが戦っていた場所。

 風に流されて爆煙が晴れていくその中に、吹き飛んだはずの黒銀がうずくまっていた。

「まさか…直撃だったはずなのに」

 シュミラは思わず後ずさる。

『ぐ…ぐぐ…ぐおおお俺の腕があぁぁ!!!』

 黒銀は吹き飛んでしまった左肩を押さえ獣のような雄叫びを上げた。

『ああああ!!殺してやる!殺してやるぞぉぉ!!』 その姿を見て男が舌を打つ。

 化け物め。

『まさかこちらの手駒が足りなくなるとは思っていなかったのでな。悪いがここは撤退させてもらう』

 白銀はそう言うと一歩足を後退した。

「逃がさねぇって…!?」

 追撃しようとした男の目の前を、手の平大の筒が舞った。

「しまっ…!!」

 次の瞬間、弾けた筒から爆発的な勢いで白い煙が噴き出す。

「きゃー!」

「何だー!」

 動揺した瞬間煙を吸い込んでしまった。一瞬で視界を奪われた目から涙が溢れてくる。

「げほっ!げほっ!」

 レグナは激しくむせるが、周りから咳き込む音は聞こえてこない。

 フィールドのバリアのお陰か!

 これだから魔法使って奴は!

 全くゼロになってしまった視界の中で、銃声だけが断続的に響いている。

 狙撃されているのだ。

 銃声に混じって金属が弾ける音が響く。

 男は同じように視界が利かないはずなのに打ち出される弾丸を打ち落としているようだ。

『今日のところは我々の負けだ。残念だが諦めよう。黒服の戦士よ、次は正々堂々と戦いたいものだな』

 煙の向こうから白銀の声が聞こえた。芝居掛かったその独特の声が先程より遠くなっている。

「ま、待ってベルトラルさん!」

 シュミラが叫ぶ。だが白銀はそれを全く無視し、

『シェラドーネ姫、お父上がお待ちです。必ずもう一度お迎えに上がりますので』

「黙りなさい!」

 少女の叫びが耳を打った。

 姫?

『ぐうう…小娘、小僧!貴様らの顔は忘れんぞ!必ずこの俺が貴様らを殺してやる!』

 黒銀の唸り声はもう随分離れた所から響いて来た。

「待て!くそっ!」

 男は二人を追おうとするが、絶え間ない狙撃に行く手を阻まれて思うように前に進めない。

 シュミラはビットを飛ばしてバリアを展開するが、弾丸はそのバリアを擦り抜けてしまう。

「ちっ、また結晶体弾頭か。どいつもこいつも同じような手を使いやがる。まったく、やりにくいったら…」

 男はナイフを捨てると上着の懐に右手を入れた。

「ねぇぜ!」

 引き抜いた手には一丁の拳銃が握られていた。素早く構えた男が引き金を引いた瞬間、

「「っ!!」」

 拳銃が爆発したのかと思った。

 圧力すら感じるその轟音にシュミラとレグナの身体が吹き飛ばされる。

 耳を押さえて地面に倒れ込む。

 雷鳴に似た銃声が尾を引くようにこだまし、それに混じって遠くから何か重い物が落下するドサッと言う音が聞こえた。

 途端に狙撃の手がピタリと止まる。

 男は森の出口に向かって拳銃を構え直すが、止めた。

「…逃げられた、か」

 腕を下ろしてつまらなそうに呟く。

 シュミラも顔を上げた。

 薄れ始めた煙の向こうに森の出口が見える。しかしそこに騎士達の姿は無い。

 地面に転がっていたはずの青銅の騎士の姿も無かった。

「…ベルトラルさん。何で…」

 シュミラは呆然と森を見つめた。

 ベルトラル・リシェール。

 アルストロメリアの英雄。

 そして、ジルギア・アランドナウに繋がる数少ない手掛かりの一つでもあったのだ。

 煙が晴れていくに従い、シュミラの心を暗い澱みが包んでいく。

 名付けの父親を探す為の旅が、何だか取り返しの付かない事態に巻き込まれてしまったらしい。

 だがそれでも、この道はジルギアに繋がっているのだと言う不思議な確信をシュミラは持っていた。

 煙が晴れた森沿いの街道は、何事も無かったかのように暖かな午後の日差しに照らされていた。


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