Introduction
最後に覚えているのは、絶え間なく銃弾が飛び交う錆色の荒野。
雨のように降り注ぐ魔法弾が仲間達の身体をぶっ潰していく。
倒れた地面からは血の味がした。
俺達は戦った。
ただ生き残る為だけに。醜く、薄汚れた地面に這いつくばって。
地平線を埋め尽くす無数の敵の直中に少女のような人影が一つ。透き通る髪に仲間達の命を吸った赤い呪文の光をまとって、たおやかに微笑んでいる。
「イブリース。お前は逃げろ」
隊長はその少女を睨みながら俺にそんな事を言った。
「隊長はどうするんです!?アルストロメリアは!?あの人も!…一人だけ残して行くんですか!?」
俺は必死に叫んだ。だが隊長は自分の首に下げていたドックタグを外すと、俺に投げてよこした。
「アルストロメリアに俺の名前が必要なら、今日からお前が俺になれ。…彼女にはすまないと…」
隊長は俺の肩に手を乗せた。
「お前は生きて、この腐った戦争の行く末を見届けてくれ。それが、生き残った者の使命だ」
そう言って俺の首からドックタグを引き千切り、背を向けた隊長はもう振り返る事は無かった。
少女の髪から放たれる光が強さを増すのと同時に、隊長の身体を呪文の光が駆け巡った。
「っ!リシェール隊長!」
俺の叫びは爆音にかき消され、隊長の姿は少女から放たれた光の中に消えた。
俺はその時、一つの決意を胸にして…。
そして…。
―戦いの空にいくつもの魂が消えていった時代―
戦況報告
王歴197年八月十六日十四時三十分
レイグランドにてI.C.E.第17小隊と遭遇
戦闘開始
同十五時八分
『S2』を投入
同十六時二十分
I.C.E.第17小隊隊長ベルトラル・リシェール以下九名の死亡を確認
戦闘終了後『S2』は過負荷により機能を停止
さらなる改良が求められる
以上報告終わり
―Crystalline-Cell "SAGA2"―【戦空の魂】
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