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ラブリープラネット  作者: 鹿磨
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第5話

 光に包まれた僕は目を閉じて待っていた。何故だか分からないがとても落ち着いている。胸の内は不安よりも期待の方が大きいからだろうか。


 しばらくすると現状に変化が見られた。

 足が地面に着く感覚があった後、風が囁くように吹き、木々や土特有の自然の香りが辺りを包んだ。


 目を開けて何度か瞬きを繰り返すと、目の前の光景が情報として頭に入ってくる。


 苔とツルによって緑面化した石壁、老朽化の進んだ木製の階段、朽ちかけている椅子と机、そして、ただただ可愛いシプレちゃん。


「あれ……シプレちゃん!?」


「やっほー☆ また会えたね!」


 全く動揺した素振りを見せず、小さく手を振るシプレちゃん。その仕草にとてつもない可愛さを感じる。


「やっぱりアヤトくんも残ったんだね」


「う、うん。楽しいかなって」


「そうだよね! ちょっと不安だったんだけどね、こっちにアヤトくんがいてくれて安心しちゃったよ」


 うわー、やべー。

 僕、推しと会話してるー。しかもめちゃくちゃ嬉しいこと言ってくれてるー。


「それにしても、ここはどこなんだろうね。アヤト君は見覚えあったりする?」


 僕たちのいるこの建物、石で造られたもののようだが、勿論知っているはずが無かった。そもそも石造りの建物自体をこの目で見るのは初めてかもしれない。


「ううん。見たことない……かな」


 しどろもどろな返事をしながら、石壁の窓へと近づき、外の様子を伺う。


 そこから見えたのは豊かな森だった。

 僕たちのいる建物は森に囲まれていて、それと同時にその森を見下ろせるほどの高さにいることが分かる。壁の丸みからして、ここは塔のようなものだろうか、さほど高くはないようだが。


「わあー! 森だー!!」


 僕と同じように窓に近づいたシプレちゃんが、明るい声を出す。これほどの美しい森だ、彼女のテンションが上がるのも頷ける。


「そうだね、綺麗な森――」

「皆さん、転移は無事に済みましたか。只今よりこの世界と皆さんの能力について説明を行いたいと思います。」


 先程の真っ白な空間で聞いた主催者の声が聞こえ、僕は口を噤む。


「んー? どうしたのー?」


 喋っている途中で黙り込んだ僕を見て、シプレちゃんが不思議そうに顔を向けてくる。


「まず始めにこの世界についてです。ここは『アトレア大陸』、ヒューマン族から魔族まで様々な種族が暮らしており、皆さんの住むチキュウとは全く異なる生態系を形成しています。初めのうちは抵抗を感じるかもしれませんが、足を進めるに連れて適応していくことでしょう。因みに、大気や言語などについてはこちらで処理を行ったので支障をきたすことはありません。」


 聞き耳を立てずともクリアに聞こえる主催者の言葉。これが脳内に直接語りかけてくる、というものなのか。僕は学校ですら見せなかった真剣な態度で話を聞いていた。


 一方その頃、シプレちゃんは主催者の声を流すまいと真剣になる僕を見て、何かを察したのか塔の中をぶらぶらと歩いているようだった。


「それともう一点、このアトレア大陸の住人達や魔物達に比べると、チキュウ人は身体能力においてかなり貧弱です。そのため皆さんには勝手ながら、それぞれに特別な能力を授けました。これに関してはひとりひとりに説明をしている時間は無いので、各位自分の能力を把握し、制御して下さい」


 かなりめちゃくちゃな事を言われた気がする。

 特別な能力……僕にもそれが備わっているというのか?


「最後にコンパスについて説明します。皆さんは今、私の用意した衣服を身に纏っていると思いますが、そのどこかのポケットに金色のコンパスが入っていると思います」


 主催者の言う通り確かに身に覚えのない服に着替えさせられている。冒険者、と聞いて思い浮かべるような青を基調とした衣装で、腰には剣と思わしき物がぶら下がっている。


 そして着慣れていない服をまさぐると、ズボンの右ポケットに小石サイズのコンパスが入っていた。


「それは転移者の所在を示すコンパスです。この広大な土地で特定の者、即ち転移者を見つけ撃破するのは難しいでしょう。その問題を解決するのが皆さんの持つコンパスなのです。それが指す方向へと進み、対象に近づくことができれば、後は直感的に転移者だと分かると思います。加えて盤面に刻まれている数字は大陸にいる転移者の数となっています」


 僕のコンパスは北西を指している。つまり北西に俺と同じ転移者がいるというわけか。そして、盤面の数字は100だ。


「これで説明は以上になります。くれぐれも自殺や早死、無駄死には避けて下さいね。個人的に面白くありませんので。それと、最後まで生き残った方、またお会いしましょう。それでは……英雄に、輝かしい栄光と祝福を」

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