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第7話 ラブレター(2)

「ほ、本当にラブレターだった……!」


 5時間目が終わってすぐ。

 僕はダッシュで多目的ホール脇にあるほとんど誰も来ない階段下の小さな物置きスペースに行くと、ピンク色の可愛らしい封書に入った手紙をいそいそと開封した。


 すると!

 中身はなんと本物のラブレターだったんだ……!


「ほ、本当にラブレターだった……」


 あまりに非現実的な事実を確かめるようにもう一度呟きながら、改めて文面を見る。

 そこには女の子らしい丸くて可愛い綺麗な字で、


『伝えたいことがあります。放課後、屋上に来てくれると嬉しいです』とだけ書かれていた。


「この可愛い封筒にこの文面。これで伝えたいことって言ったらどう考えても告白だよね? あれ、でも肝心の差出人の名前がないなぁ。せめてイニシャルくらい書いてあったら絞り込めたのに」


 封筒の内側までじっくり探してみたんだけど、差出人を特定できるような情報は一切書かれてはいなかった。


 ――と、そこまで考えて僕はとある考えに行きついてしまった。


「もしかして喜んでノコノコ屋上まで行ったら『残念! 実はドッキリでした!』って笑われちゃうパターン!?」


 うわっ、ありえる。

 というかむしろそれしかない気がする。


 だって僕だよ?

 身長165センチで、帰宅部のもやしで、全然ちっともイケメンでもなくて。

 しかも友達もほとんどいなくて、スイカを運んだだけで腕が悲鳴を上げてしまう、自分で言うのもなんだけど魅力ゼロの男子高校生・佐々木直人だよ?


 しかもだ。

 最近西沢さんに挨拶されるようになったことで、僕はクラスで変に目立ってしまっている。


 カースト1軍のメンバーたちが、急に目立ち始めた僕に目を付けた可能性は否定できなかった。

 陰キャのくせにちょっと調子に乗ってると思われているかもしれない。


「でもだよ? もしこれがドッキリじゃなくて本当のラブレターだったら、酷いことしたことになるよね……」


 僕が行かなければその子の気持ちを無視することになるかもしれない。


「せっかく奇跡的に僕のことを好きになってくれた女の子がいるかもしれないっていうのに、そんな女の子に酷いことするのは嫌だなぁ……でも高確率でドッキリだもんなぁ……」


 極めて高い確率でドッキリで、勘違い系男子くんになって笑われてしまうか。


 天文学的な確率で実は本当にラブレターで、せっかく手紙をくれた女の子の気持ちを無視して傷つける最低男になり下がるか。


「ううっ、どうしよう?」


 選択肢は2つに1つ。

 行くか、行かないか。

 極めてシンプルだ。


 そして放課後まで残された6時間目の数学の時間を丸々使ってその2つを天秤にかけて考え抜いた結果。

 僕は今日の放課後に屋上に行くことを決めたのだった。


「そうだよ。仮に僕が勘違い男子くんと馬鹿にされても、それでその後いじめられるようになるとか、そんなひどい扱いは受けないはずだ。だってそもそも僕にはそこまでするだけの価値なんてないはずだから」


 むしろ今回のドッキリ告白がきっかけでカースト1軍公認のピエロ系間抜けキャラとして、取り巻きの下っ端Aくらいには認知されるようになるかも?


 それはそれで友達もできるかもだし、クラスの女の子も僕という男子を認識してくれるようになるかもしれない。


 ほとんど友達がいないまま空気のように卒業するよりは、ピエロとしてでも認知してもらうのは有りと言えば有りなんじゃないかな?


 おや?

 そう考えるとどっちに転んでも負けない試合な気がしてきたぞ?


 悲しいけど、僕はその他大勢の平凡男子(もしくは平凡以下男子)なんだよね。

 だったら気負う必要なんてないはずだ。


 だから僕は放課後、屋上に行くことにしたんだけれど――。


「ああ、足が重い、心も重い。帰りたい……」

 屋上に近づくにつれて階段を上る僕の足はどんどんと歩みを遅めていった。


「確かに友達ができるきっかけにはなるかもしれないけど、やっぱり笑われるのは嫌だもんなぁ……話は速攻でクラス中に広まるだろうし、明日学校休んじゃうかも……」


 だけどいくら歩みを遅めても、足を止めない限り屋上は少しずつ僕に近づいてくるわけで。


 そうして無駄に時間を浪費しながら、ちんたらちんたらと階段を全部上りきった後。

 屋上の扉に手をかけようとして――でもやっぱりやめて、ってのをなんどか繰り返してから。


「はぁ……行こう……」


 僕はついに観念して屋上の扉に手をかけた。


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